組織の力

2020.01.15

日本経済から読み解く、テレワークの「本質」と「実態」の乖離~首都圏本社の企業が今こそ取り組むべき対策~

WORKSTYLE INNOVATION PROJECTS vol.3

2019年11月22日(金)に開催した「WORKSTYLE INNOVATION PROJECTS」から、「日本経済から読み解く、テレワークの「本質」と「実態」の乖離~首都圏本社の企業が今こそ取り組むべき対策~」の様子をレポート。働き方改革を進める上で、ICT技術を活用し、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方をする「テレワーク」は必要不可欠な要素だといえる。では、今の日本企業のテレワークの実態はどうなっているのか。多くの企業のテレワークの実態を知る日本経済新聞社、さらにそのリサーチを行う日経リサーチをお招きし、テレワークを実践し、各企業に導入を支援するコクヨのコンサルタント坂本が、テレワークの理想と現状との乖離的状況、さらにその打開策についてトークセッションを行った。

在宅勤務制度・環境導入企業は5割超も、実際の利活用状況は2極化
サテライトオフィスの可能性

日本経済新聞社から勝部浩司氏と福澤由華氏、日経リサーチから原直輝氏を迎えた今回。モデレーターを務めたのは、大手企業向け働き方改革プロジェクトアドバイザーであり、テレワーク導入運用のコンサルティング経験も多いコクヨ株式会社の坂本崇博。自身が週の半分以上は出張で、15年前よりテレワークを実践しているテレワークの実践者である。
 
坂本:テレワークとは、一般的に在宅勤務、喫茶店などでのモバイルワーク、企業が指定するサテライトオフィスを使ったサテライトワークに分類できます。私自身はいずれのテレワークもほぼ毎日活用しており、テレワークすることが当たり前となっていますが、コンサルテーションの依頼でヒアリングをすると、導入に至っては道半ばという企業が多い実感があります。今の日本企業のテレワークの実態はどうなっているのか、日経新聞様に実情をお伺いしたいと思います。
 
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勝部:私どもの法人ソリューション本部では、社内(日本経済新聞社)に加え、日経グループの総ての商品・サービス、リソースも併せて、法人のお客様がもつ課題に、ソリューションをコーディネートし、提案・提供を行っています。また我々グループ内にリソースがない場合は、外部の企業様とも連携させていただきます。コクヨさんとは働き方改革全般のテーマで相互連携しており、お互いのソリューションの組み合わせで働き方改革のあらゆる課題にタッグを組んで対応しています。今回はテーマに合わせ、グループから2部門、シェアオフィス・コワーキング事業の担当者と、ビジネスリサーチを専門とする日経リサーチの担当者とともに見ていきたいと思います。
 
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原:当社では、2017年から働き方改革や多様で柔軟な働き方など企業競争力向上に繋がる人材施策を主にテーマとした日経「スマートワーク経営」調査を行っています。ここからテレワークに関する結果を抜粋すると、在宅勤務、サテライトオフィス、モバイルワークは、働き方改革における他の制度と比べると浸透しており、特に在宅勤務の制度を導入した企業は53%と半数を越えました。
 
一方で、実際に在宅勤務を利用している社員の比率を見ると、利用している社員は1%未満という企業が全体の33.1%、0%という企業も4%ありました。また、在宅勤務の利用条件については、育児や介護に限定している企業が4割、理由なく利用できる企業が5割と半々程度になっています。同様に在宅勤務の利用可能日数については、月8日以内としている企業が47%、月13日以上もしくは上限がない企業が40%と2極化しています。
 
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福澤:私は弊社が運営するサテライトオフィス事業「OFFICE PASS(オフィスパス)※1」に関わっていますが、この事業を通じて実現したいことは、ビジネスパーソンが自分に合った働き方、働く場所を選び、それを通じて最大の能力を発揮できるようにすることです。働く場所の選択肢を増やすことでよりパフォーマンスが発揮しやすくなり、さまざまなハンデがある人も働きやすくなります。
 

※1:OFFICE PASS…月額15,258円で都内を中心に全国200カ所以上のコワーキングスペースの自由席がいつでも何度でも利用できる日経のシェアオフィス事業。テレワーク導入など働き方改革を検討する法人向けのプランも。1か月単位の利用が可能。

 
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原:サテライトオフィスにおける調査結果を紹介すると、例えば支社の社員が本社に行っても仕事ができる「自社オフィス内に用意」するケースが、2017年では89社から2019年には132社と伸びています。また、自社占有ではないシェアオフィスなどを契約している企業も2017年の71社から2019年は131社と増加しています。
 
 
 

テレワーク3.0時代
キーワードは「集中力」と「生産性」

サテライトオフィスの目的として、移動時間の時短という側面が強かったが、職場の拡張や、いかに効率よく仕事をするかといった生産性に関する課題もクリアできるといえる。本社ではチームコミュニケーションを中心に行い、作業はサテライトオフィスの活用と、効率的な仕事環境を実現する方法もある。
 
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福澤:「会社では集中できない」、「在宅では仕事がしづらい」という社員の声に応え、普段仕事をする場所から視点を変えるためにサテライトオフィスを導入している企業もあります
 
坂本:私はテレワークにも「web2.0」のように、1.0、2.0……といったフェーズがあると感じています。「1.0」は、一部の営業職が個人的もしくは特例的にモバイルワークをしている時代。「2.0」は、移動や通勤時間の削減といったワークライフバランスや、育児、介護を担う人でも働きやすいダイバーシティな職場環境づくりに向けて企業が制度を整備し、特定の事情をもった人がそれを活用するフェーズです。「3.0」からは、単なる移動時間の削減ではなく、自ら場所を変えることで集中力を高め、生産性、創造性を向上させるといった仕事の質を問うフェーズに入ります。このフェーズでは、特定の人に限らず全社員がその働き方を選択し、自らの生産性を高めることが求められます。しかし、全員が当たり前にテレワークを活用できるようになるには、企業としてICT活用やコミュニケーション改革、マネジメント改革、自律性発揮といった「働き方改革」が必要であり、働き方改革を実現した企業だけが挑める領域ともいえます。
 
福澤:企業の上層部はテレワークを導入するにあたって成果を求めてきます。しかし、テレワークの効果測定は難しい側面もあります。
 
坂本:ある企業にお願いして、本社、サテライトオフィス、ネットカフェ、それぞれの環境でどのくらい集中できるかを比較しました。集中度を計るメガネを使い、集中力の高まりを数値化したのです。すると、本社では深い集中に長時間入って仕事をすることはできていませんでしたが、ネットカフェでは仕事時間の55%、サテライトオフィスなら仕事時間の80%もの時間で集中力を保つことができていたんです。
 
福澤:こういったデータは希少ですね。生産性は、労働時間や残業といった目に見えるものと異なり、業務をしている人にとっては難しい。そこで私が推奨しているのはたとえば「パルスサーベイ(従業員満足度調査に用いられる意識調査)」の実施です。テレワーク導入前から定期的に社員全員に同じアンケートを行うことで差分を見ることができます。ある企業では、テレワーク導入後に健康の数値が改善されていました。通勤からの解放でストレスがなくなったことが影響していると想定されます。
 
坂本:テレワークを「BCP(事業継続計画)」の観点で捉えることもポイントです。自然災害や公共の交通機関の影響などで従業員の半数が出社できなかったとして、どれだけ人件費や損失を被るかという計算をしてみてください。全員が当たり前にテレワークができるようにしなければ、そういった非常時に仕事が回らない事態が発生します。
 
 
 

テレワークに成功する企業に
共通しているものとは?

働き方改革を進めることで生産性の低下を防ぐことができ、その過程でテレワークが可能な働き方になっていれば、オフィスワークの生産性も上がるといったことが見えてきた。しかし、導入したものの成果をあげられていない、またはコミュニケーションや管理に課題感をもつ企業も一定数ある。
 
福澤:さまざまな企業を見て、テレワークの導入が成功する企業は何が違うのかが見えてきました。それは「テレワークで何を解決したいのか」が明確になっているかどうかです。トップが実現したい未来へのビジョンをもち、それを社内外に対して表明している企業はテレワークが浸透しています。これは、長時間働ける人だけが評価されるのではなく、一人ひとりの力を活かし、最大のパフォーマンスができたことを評価する、それを社内に対して訴えていくことだともいえます。
 
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坂本:「チームワーク」という言葉を誤解している日本企業は多いです。メンバーが同じ場所で、同じ時間、同じことをしている状態をチームワークがいいと思いがちですが、本来は、メンバーがそれぞれ自分の役割を果たして、最終的に目標を達成し、さらに大きなことを実現することなんです。
 
福澤:これまでは社員を管理の対象とする傾向もありましたが、テレワークにおいては、社員を信頼して任せる、結果を出せば評価するというスタンスを取ることで、自立的に仕事に取り組むマインドを育てる方向に舵を切るべきかもしれません。これからは社員と企業の関係性も対等に近い状態になり、テレワークの導入が両者の信頼の表れの一つになると感じています。例えばチャットツールなどを導入し、メールや電話だけではないコミュニケーションを取り入れるなど、普段からコミュニケーションしやすい状態をつくっておくことも大事です。
 
坂本:私の実感でも、テレワークがうまくいっている企業の多くはメールよりもチャットを活用しています。チャットはメールの代替ではなく、立ち話の代替なんです。テレワークをしていない職場であっても、上司と部下がしょっちゅう立ち話をしているかというと、意外とできていない。そういったフランクなコミュニケーションをもっと増やしたいと思った時にチャットは非常に便利です。チャットで立ち話ができるようになると、テレワークをして離れていてもふと立ち話的な報連相ができるようになり、同じ職場にいるときよりもコミュニケーションが活発になることだってあり得ます。
 
福澤:「上司が忙しそうだから話しかけにくい」という場合には、話しかけてもいいサインをつくる。実例では、「スカイプがオンになっている時はいつでも会話OK」などもあります。忖度がなくなることで、業務がスムーズに進むようです。
 
坂本:テレワークを導入するにあたり、4つの改革が必要だと考えています。
 
1.ペーパーレス化:テレワークのためだけでなく、日頃の業務効率化にも活かせます。
2.タイムマネジメント:個人が自律し、自己管理ができている状態であり、上司が部下のタイムマネジメントをできる状態にしておくこと。テレワークのためというより、個人やチームの生産性向上には不可欠です。
3.コミュニケーション改革:ICTの活用も含め、立ち話を多用することで日頃からコミュニケーションのハードルを下げておくこと。オフィスや会議室でもチャットで気軽に会話しましょう。
4.フロンティア精神:うまくいかないときに「もうやめよう」なのか「次はこうやってみよう」なのか。ここは大きな違いです。成功を目的にしてしまうと失敗を恐れてしまうので、いっそのこと効果検証を目的にしてしまえばいいとさえ思います。
 
テレワークに挑む過程で、「自社の働き方改革に必要なものは何なのか?」が見えてくることは間違いないでしょう。テレワークというテーマで試行錯誤し、自分たちなりの答えを見出せる組織は、きっと他の分野でもイノベーティブなチャレンジができるようになります。
 
 
 

まとめ

1億総活躍時代、社員の育児や介護問題に直面したり、時短の一環としてテレワークを導入する企業が多い一方、その活用は2極化している。
しかしながら、悠長なことはいっていられない。2020年の東京オリンピック期間の交通状況に危機感を抱いている企業も多いであろうし、台風や豪雨など、自然災害が通勤に及ぼす影響も計り知れない。そんなときに「“いざとなったら”テレワークという制度もある」ではなく、試験運用を含め、平時から活用することが非常時にも役立つ働き方になることは間違いないだろう。
 
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勝部 浩司

株式会社日本経済新聞社 法人ソリューション本部 ソリューション部

福澤 由華
株式会社日本経済新聞社 デジタル事業 メディアビジネスユニット OFFICE PASS事務局

原 直輝
株式会社日経リサーチ コンテンツ事業本部 編集企画部

坂本 崇博
コクヨ株式会社 ワークスタイルイノベーション部

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