組織の力

2020.01.15

はじめてのABWを失敗させない、社員自身が押さえておきたい"意識改革"のポイント

WORKSTYLE INNOVATION PROJECTS vol.4

2019年11月22日(金)に開催した「WORKSTYLE INNOVATION PROJECTS」から、「はじめてのABWを失敗させない、社員自身が押さえておきたい“意識改革”のポイント」のセミナーの様子をレポート。働き方改革の一環として、ABWやフリーアドレスを導入する企業は年々増えている。一方で、いざ運用を進めるなかで、「上司・部下間での会話が減った」、「結局固定席に戻ってしまった」など、マイナスな意見があるのも事実だ。ABW導入の際に意識すべきことや、運用を成功させるための秘訣とはどの様なものなのだろうか。

“仕組み”と“意識”の
変革が企業成長の鍵

スピーカーはコクヨ株式会社 ワークスタイルコンサルタントの成田麻里子氏。企業向けの集団研修サービス[コクヨの研修]スキルパークでは、お客様の社内コミュニケーションや仕事の進め方など、働き方をよりよくするためのサポートを行っている。今回は、ABW導入のためのワークショッププログラムのポイントについて講演を行った。
 
今日は、ABWやフリーアドレスをうまく活用して新しい働き方をするために意識しておきたいポイントや運用のコツをお話します。まず前半に新しい働き方への理解、後半にABWやフリーアドレスを成功に導くコミュニケーション術をご紹介します。
 
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ABW:Activity Based Working(アクティビティー・ベースド・ワーキング)の略。仕事内容に応じて、時間や場所を自分の裁量で選択しながら、よりクリエイティブな効率の良い働き方をしていくこと。
 
フリーアドレス:社員が自席を持たないオフィススタイル。会議室やミーティングスペースを共用で使うのと同様に、オフィス内の様々なスペースを用途や気分によって選択する。フリーアドレスを狭義のABWとして運用する企業も多い。
 
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ご存じの通り、昨今はICTの進化、グローバル化による競争の激化、労働人口の減少によって生じる人材確保や育成における課題などが山積みで、まさに激動の時代といえます。この状況で企業が世の中の変化に順応しながら成長していくためには何が必要でしょうか? 私は次の「2種類のギャップ」を埋めることが鍵になると考えています。
 
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1.世の中の変化と企業の取り組みのギャップ
一つは、世の中のスピードについていくために、今ある制度を変更する、新しい仕組みをつくるといった経営側での取り組みが必要になります。たとえば、時短勤務、週休3日制、フレックスタイム制、テレワークなど。ABWやフリーアドレス導入もその一つです。
 
2.企業の取り組みと従業員の意識・行動のギャップ
企業が新しい制度や仕組みを整えるだけでは、十分とは言えません。企業の取り組みを円滑に運用するために大事なことは、その新しい制度や仕組みを社員がきちんと理解し、実行できるかです。企業として、社員の意識や行動をどう変えていくかが大きなポイントとなります。
 
 
 

新しい働き方への理解を深める

ABWやフリーアドレスを導入する企業は非常に増えている。コクヨのクライアントでは、2011年の段階でフリーアドレス導入企業は16~17%程度だったが、2018年には35%を超えたという。今回のセミナー会場にて、聴講者のフリーアドレス導入状況を聞いた結果、「導入済」と「未導入」がおよそ半々となった。
 
このように、多くの企業がABWやフリーアドレスの導入に取り組むのは、企業としてのメリットがあると考えるからです。ではどのようなメリットがあるのでしょう? 経営者視点、社員視点にわけると、例えば以下のようなことが考えられます。
 
経営者側のメリット
拠点間移動時間が減り、生産性が向上するほか、災害等の有事における対応を強化できる。
・オフィススペースの効率化を図ることができ、将来的に人員の増減があった際のレイアウト変更等への柔軟性が高まる。
ライフステージに合わせて働き方が変化した社員が活躍する機会をつくることができる。
 
社員側のメリット
・個々の働き方にあわせて仕事をコントロールすることで自律性が高まり、責任感や意欲の向上にもつながる。
・自身のパフォーマンスが上がる時間や場所を選択できるので、業務効率が上がる。
・仕事と家庭の両立がしやすくなる、資格の勉強など自己研鑽の時間が増える等、ワークライフバランスにも好影響がある。
 
しかし、導入を不安に感じる人が多いことも事実です。フリーアドレスのメリットには、プロジェクトメンバーと集まって仕事ができる、ディスカッションをしたいときはホワイトボードがある場所を使う、思考を深めたいときは集中スペースに行くなど、仕事の内容にあわせて柔軟に場所を使いわけることができます。一方で、「自分の城がなくなる」、「荷物が置けなくなる」等のネガティブイメージをもつ方も一定数いらっしゃるので、「場所を占有する」から、「場所を共用で利用する」という意識へと変えていく必要があります。会議室や食堂などの共用スペースが、オフィス全体に広がっていくというイメージです。
 
ABWやフリーアドレスの導入にあたっては、オフィスやツールの整備、資料共有の習慣づけ、勤怠管理等のルール・制度の構築や、マネジメント手法の変革も必要になります。加えて何より大切なのは、導入の目的やメリットを社員に理解してもらうことです。企業文化をどうつくるか、社員の自律性や意欲をどう高めていくか。そして、自分で考えて動く「能動的な働き方」に、どうシフトしていくかが重要です。これらを全体的にうまくコントロールして初めて、ABWやフリーアドレスが軌道に乗ります。
 
 
 

課題を“見える化”して共有し、
みんなで解決策を探る

セミナーでは、ABWやフリーアドレスの導入に対する不安、自社が抱える課題を個人で書き出した後、テーブルごとに話し合う時間を設けた。課題を“見える化”することで、多くの企業が同じ悩みを抱えているといった共通点も見えた。
 
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普段のワークショップでは、出てきた課題に対して、どうすればうまく解決できるかを、自分ゴトとして捉えてディスカッションするワークを行います。このワークを通して、「他人任せでなく自分たちでうまくいく方法を考え、運用していく重要性」を認識することが大切です。
本日は、お客様からよく聞く課題の一部と、それ対する解決策の例をご紹介します。
 
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課題:部下とのコミュニケーションが減ってしまった
解決策:コミュニケーションのとり方を変える必要があります。固定席で、相手が目の前にいれば、上司は部下が困っていることを察知できるし、部下も上司に報告するタイミングを見計らうことができます。ところが、フリーアドレスになると今までと同じようにはいきません。特にマネージャーの方は、部下の報連相を「待つ」のではなく、能動的に「自分から受け取りに行く」スタイルにシフトするとよいでしょう。
 
課題:若手の育成をどうするのか
解決策:育成上の課題を感じているマネージャーの方も多いです。例えば、新入社員や部署異動したばかりの社員は、期間を限定してメンターとペアで座るなどの工夫をされている企業もあります。コクヨで以前実施していた取り組みをご紹介すると、新入社員が集まる「フレッシャーズシート」というエリアを設けました。自部門の先輩が外出しているときでも、何か困っていたら他の社員がサポートします。企業全体で若手を育成していこうという姿勢も大事です。すべてをフリーにする必要はなく、状況に応じた柔軟なルールづくりも打ち手のひとつです。
 
課題:大量の資料に囲まれ身動きがとれなくなる
解決策:紙の資料が大量にあると社外で働きたくても動きづらい、長時間離席する際も持ち運ぶのが手間なので資料を置いたままになり他の人が席を使えない、ということが起こってしまいます。ペーパーレスに慣れるためにも、少人数での社内の打ち合わせ等では資料をプリントアウトせずにモニタに映して共有することをオススメします。場合によっては紙の資料が必要なこともありますが、紙のまま持ち続けずにメモをしたらスキャンする、いらなくなったら廃棄するというサイクルをつくり、紙の資料を増やさない工夫も必要です。
またフリーアドレスになると、毎日個人ロッカーにパソコンや資料を片づけて帰ることになります。しかし、放っておくと、すぐに荷物や紙の資料でいっぱいになってしまいます。その対策として「何曜日の何時から15分間で書類を整理する」など、自分のルーティンとしてスケジューリングしておくことをおススメします。定期的に整理整頓をする習慣をつけ、自分でコントロールする意識づけが大切です。
 
 
 

ABWを成功に導く
コミュニケーション術

ここで再びワークを実施。成田氏の指示通りにいくつもの図形を紙に描き、最終的に誰もが一目でわかる絵になればOK。しかし会場では似ても似つかないものになってしまう聴講者が続出した。この謎解きのようなワークで、報連相の難しさ(結論がないまま耳からの情報だけで伝えることがいかに難しいか)を体感した。
 
今回のワークは、伝え方がとても大事であることを体感していただくためのものです。私は、絵についての情報を口頭でお伝えしましたが、実際にみなさんが描いた絵の中には、私が意図した絵とは異なる絵を描いた方も多くいます。ですがこれは、みなさんの責任ではありません。私の伝え方が悪かったからです。コミュニケーションで気をつけたいのは、「自分が何を言ったか」ではなく、「相手にどう伝わったか」が重要であるということです。わかりにくい文章は、たいてい以下のいずれかに該当しています。
 
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1. 何の論点について話をしているのかわからない
2. 最終的に何が言いたいのか結論がわからない
3. なぜそう言えるのか理由がわからない
4. どうしてほしいのか行動がわからない
 
わかりやすく伝えるためのポイント
まずは、3つのポイントをおさえると、相手にわかりやすく伝えることができるようになります。①論点や全体像をしっかり伝える、②結論と理由をセットにする、③一つの文章を短くすること
 
遠隔で働くようになればなるほどコミュニケーションのとり方の工夫が必要です。オフィス内でのフリーアドレスに加えて、ABWでオフィス外のさまざまな場所で働くようになると、「端的にどう伝えられるか」という短時間のコミュニケーションがより求められるため、一人ひとりの心がけや意識改革が必要になります。
 
また、情報共有や報連相の円滑化のためには、ぜひ上司と部下が互いに話しかけやすい雰囲気をつくっていただきたいと思います。「話しかけづらいオーラ」を出さないようにするためには、よく耳にするキーワードですが、「笑顔」、「傾聴」、「ほめる」の3点は日ごろから意識してほしいポイントです。
 
ネガティブなことほど上司への報告がしづらいので、上司の方は自分から報告を受けとりにいく能動的なスタンスを心がけてください。また、報告を受けたときの言葉づかいにも注意が必要です。例えば、部下がトラブルの報告をしてきたときに、「なぜそんなミスをしたんだ!(WHY)」と厳しい口調で追求すると尋問のようになってしまいます。これが続くと、部下は報告するのを恐れるようになり、報告が遅れるという悪循環を招いてしまうかもしれません。
こういった場合は、うまく言葉を置きかえることも有効です。先ほどの「なぜ?」を言いかえると、「ミスの原因は何だったの?(WHAT)」、「今後ミスをしないためにどうすればいいと思う?(HOW)」のような表現です。
 
また、若手社員の方には、タイミングを見つつ、上司にこまめに報告に行くことを心がけていただきたいです。あたりまえのことですが、コミュニケーションは一方向でなく、双方向です。そしてABWやフリーアドレスが導入されると、コミュニケーションをとりたい相手が常に目の前にいる環境ではなくなります。だからこそ、自ら能動的に働きかけるということを日ごろから意識しておいていただければと思います。
 
 
 

まとめ

ABWやフリーアドレスを導入するかどうかはトップや担当部署の判断となるが、成功させるためには社員みんなで考えて課題を解決し、自社や現場レベルに沿ったルールをつくっていくことが必要だということがわかった。そしてそこで欠かせないのが、管理されているという意識ではなく、成田氏が言うところの「社員一人ひとりが“自分が主役なのだ”と思えること」なのだろう。
ワークでは、聴講者それぞれが同じような不安を抱いていることが判明した。そんな不安も、今回学んだようにコミュニケーションを工夫するだけで、解決できる部分も大きいのではないだろうか。
 
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成田 麻里子(Narita Mariko)

コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント
コクヨ入社後、10年間にわたりオフィスデザインやワークスタイル研究、新規事業企画に携わる。現在は企業向けサービス[コクヨの研修]スキルパークにおいて、人材育成、働き方改革に関わる研修企画および講師を担当。

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