組織の力

2020.08.05

タニタが取り組む信頼をベースにした関係性のあり方〈前編〉

会社と個人が惹きつけ合う関係へ

近年、労働者が働きやすい環境や制度を整える企業が増えつつあるが、その根底にあるのは企業と労働者の信頼関係だ。労働者が企業を信頼し、働き続けたいと思うからこそ、改善に期待を寄せ、また、企業側が労働者を信頼するからこそ柔軟な働き方を支援する。以前取り上げた、『今、日本企業に求められる「信頼でつながる雇用」① ~企業と個人を共に成長させる「アライアンス」な雇用関係』の記事ではアメリカにおけるアライアンスな雇用関係について紹介したが、今回は日本式アライアンスの好事例として、体組成計や活動量計などの製造・販売で知られる株式会社タニタが取り組む「日本活性化プロジェクト」を紹介する。
タニタでは、「日本活性化プロジェクト」と題して社員を個人事業主に切り替える取り組みを2017年から開始し、会社と個人の新たな関係を築こうとしている。うがった見方をすればリストラとも捉えられかねない「社員の個人事業主化」だが、企業と働き手である個人が結ぶ信頼のあり方について、経営本部社長補佐の二瓶琢史氏に話しを聞いた。
写真:(左から)二瓶琢史氏、大塚武司氏

個人にとっても企業にとっても
経済効果は大きい

実際に、2017年1月から個人事業主になった元社員の手取り収入が下がることはなかった。トータルの年収は業務内容や仕事量によって異なるが、手取りが下がった人はゼロだった。社員時代と比べて平均で28.6%増加したという。

だからといって、企業側の支出が大きく増えたわけではない。個人事業主となった元社員に対して2016年にタニタが負担した人件費と、2017年に業務委託料として支払った報酬総額を比較してみると、タニタの負担総額は1.4%増にとどまった。

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業務をタスクベースで考える習慣が社員にも身につき
仕事に対する意識向上につながっている

タニタでは、「日本活性化プロジェクト」を今後も継続するという。タニタにとってさまざまなメリットが期待できるこの取り組みだが、二瓶氏はその効果の一つとして「仕事のあり方そのものを捉え直せること」をあげる。

「これまでは、マネージャーが部下に業務を丸投げしてしまっても、担当業務としてすべて引き受けてもらえていました。しかし個人事業主に仕事を依頼するとなると、『これは基本報酬(その人の基本的な業務の対価として契約された固定報酬)に含まれる業務か、それとも新たに報酬が発生する追加業務か』と業務の中身を一つずつタスクベースで考える必要があります。この積み重ねによって、仕事を依頼するマネージャーが、一つひとつの仕事をよりシビアな経営者的な視点で捉えられるようになると期待しています」

 また、マネージャーのコミュニケーションスキル向上も見込める。
「会社側が望む成果を個人事業主から得るためには、仕事の依頼時にその背景なども詳しく説明しなければなりません。共通理解を常に意識することはマネージャーのコミュニケーション能力の向上につながり、すべての業務で役立つはずです」と言い切る。

タニタの「日本活性化プロジェクト」は、従来の企業と従業員という雇用関係に捉われず、個人と企業がより信頼を深め、互いに惹きつけ合う関係をめざしている。多様な働き方を個人が選択できる環境が、5年後、10年後のタニタにどのような変革をもたらすのか、行方を見守りたい。

後編では、実際に個人事業主としてタニタから独立を果たした元社員の声をお聞きしながら、タニタが実践する信頼関係のあり方について深く探っていく。

株式会社タニタ

1944年設立。体組成計や活動量計、血圧計などの製造・販売をはじめ、ヘルシーレストラン「タニタ食堂」や女性向けフィットネス「タニタフィッツミー」の運営といった健康サービスを手掛ける健康総合企業。グループ会社のタニタヘルスリンクでは、企業や自治体向けの健康づくり支援サービス「タニタ健康プログラム」を提供している。2019年、『日本活性化プロジェクト(社員の個人事業主化)』の取り組みによって、株式会社リクルートキャリア主催の「第6回GOOD ACTIONアワード」特別賞を受賞。

文/横堀夏代 撮影/ヤマグチイッキ