リサーチ

2020.07.07

データから読み解く日本の人材トレンド②

企業と働き手の信頼関係が試される兼業・副業

現代日本の雇用をさまざまな角度から分析し、新しい働き方を提案する株式会社リクルートキャリアのメンバーが、データをもとに「働く」の現状や未来を解説するシリーズの第2回。

今回は社員の兼業・副業をテーマに、「兼業・副業によって企業と従業員の関係性はどう変わるのか?」「兼業・副業を通じて働き手は何を得られるのか?」などについてお聞きした。

兼業・副業が自分のスキルや経験を
棚卸しするきっかけに

ただし、兼業・副業が認められている企業でも、興味があるのにまだ始めるには至らない人もいる。「兼業・副業に対する個人の意識調査(2019)」では、未経験者のうち約5割が「兼業・副業に興味はあるが具体的に行動したことはない」と答えている。

また、具体的な兼業・副業先を探したことがない理由として、「探し方がわからない」「スキルに自信がない」と回答する人が少なからずいる。狩野氏はこの結果について、「自分を売り込む場数を踏んでいないことが一因ではないか」と分析する。

「日本人は海外と比べて転職回数が少ない場合が多く、自分のスキルや専門性を見つめ直す機会が限られています。また日本企業では、さまざまな部署をローテーションして働くケースが多く、自分の核となる専門性を明確に提示しにくい背景もあります。兼業・副業に興味があっても、自分に何ができるかわからず行動を起こせないのです」

狩野氏は、「逆に言うと、兼業・副業に興味を持つことは、自分のスキルの棚卸しをするよい機会」と話す。

「労務やIT言語などわかりやすい知識・スキルでなくても、例えば後輩のOJTを行った経験が人材育成のスキルとして他社で役立つこともあります。これまでに手がけた仕事を書き出したり、上司や先輩に自分の強みを聞いてみることで、自分を見つめ直す成長のきっかけをつかめます。企業側も、兼業・副業の制度をつくるだけでなく、興味を持った社員がチャレンジできるように導いていくことが重要です」

社員が他社で働く兼業・副業という働き方は、一見「本業へのモチベーションが下がるのではないか」という先入観を持たれやすい。また、働き手の価値観が多様化している現状にあわせて、「離職防止のため」という自社に対するエンゲージメント向上の観点から解禁する企業もある。

しかし実態を見ると、兼業・副業をきっかけに、企業と働き手が互いに大きな実りを得るケースも多いことがわかる。これからの時代に企業がやるべきは、社員を囲い込まずに信頼し、兼業・副業へ背中を押す形で成長意欲を後押しすることかもしれない。新たな世界に触れ、多くの学びを得て成長した社員は会社への信頼を高め、きっと企業の発展に一役買う存在になってくれるはずだ。

次回は、このシリーズのまとめとして、企業と働き手の関係が今後どのように進化していくのかをお聞きする。

4_res_144_04.png

狩野 美鈴(Karino Misuzu)

株式会社リクルートキャリア 事業推進室。人事支援サービス会社で業務企画・業務改革を経験後、リクルートキャリアに入社。人材紹介事業で法人営業を経て、事業推進室にて新領域での事業開発に従事。現在、兼業・副業領域を担当。

文/横堀夏代