仕事のプロ

2020.06.08

渋滞学・無駄学から見るダイバーシティ〈前編〉

仕事の渋滞を解消するのは「科学的ゆとり」

東京大学先端科学技術研究センターの西成活裕教授が研究するのが「渋滞学」。渋滞というと、車の渋滞が一番に思い浮かぶが、西成教授の研究対象は車の渋滞から始まって、人の渋滞、仕事の渋滞・無駄へと派生し、その科学的なアプローチは企業や組織の生産性向上や働き方改革を考えるうえでも非常に有効なものとなっている。
そこで、渋滞はなぜ起こるのかというメカニズムから、渋滞を起こさない方法、さらに、企業や組織がめざすべき組織運営や働き方、ダイバーシティの可能性などについて、西成教授に解説していただいた。

渋滞しないアリの生態から見えてきた
渋滞の防止・解消のカギは「ゆとり」

約30年前に渋滞学の研究を始めた西成教授。渋滞のメカニズムや解消法の研究をする際に重要になるのが、そもそも「渋滞」とは何か、という定義だ。西成教授は車の渋滞について調査・分析し、交通量(台/5min)を縦軸に、密度(台/km)を横軸にとったグラフから、「1kmに25台以上の車が走っている状態=車間距離が40m以下の状態」を「渋滞」と定義した(※1)。
 
さらに渋滞について研究を進めるなかで、アリは渋滞するのだろうかと疑問を感じ、3か月間アリの観察を続けたところ、西成教授は興味深いことを発見した。
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渋滞の定義を説明する図。東名高速道路での実際の交通量と密度の関係を表すデータで、渋滞していない場合は交通量が密度に比例して増加していく。渋滞はこの関係が崩れるところであり、交通密度が1km当たり30台弱から流量が落ちて渋滞になることが分かる。様々なデータを調べたところ、1kmあたり25台以上で渋滞になることが分かった。

 

 

 渋滞とは1kmに25台以上の車が走っている状態=車間距離が40m以下の状態
 
「アリがある地点を何匹通過し、ある範囲にどれくらいいるかを数えてグラフ化した結果、アリは渋滞しないことがわかりました。アリは、混んできても前後のアリとの距離を詰めません。あらかじめ間を空けておくことで、混んできても一定のペースで動き続けることができるのです」
 
「一方、人間は早く先に行きたがるので、混んでくると前との車間距離を詰めます。こうした“空きがない状態”で先頭の車が少しブレーキを踏むと、そのブレがどんどん後ろの車に伝わって大きくなり、あるところで車が完全に止まってしまいます。これが渋滞のメカニズムです。交通量が多い状況で、車間を十分に空けて運転した場合とそうでない場合で実験をしたところ、前者は運転速度は多少ゆっくりになりますが、最終的には後者よりも早く目的地に到着しました」
 
「このことからもわかるように、渋滞の防止・解消のカギは“ゆとり”が握っており、さらに、ゆとりをもつことで結果的には効率良く動くことができるのです」
 

※1:科学的根拠に基づいた世界基準ともいえる渋滞の定義。ただし、日本の国交省やNEXCO、警察庁で採用している渋滞判定の基準とは異なる。

 

 
 

もっとも効率が良いのは7~8割の稼働率
2~3割のゆとりが仕事の渋滞を防止する

仕事の渋滞も、同じ原理だ。ある仕事量までは問題なくこなせても、一定量を超えると仕事が滞り、スケジュール通りには進まなくなる。そして、結果的には、成果自体が下がってしまう。
 
「車なら渋滞したら待てばいいですが、仕事の場合は渋滞してもやらざるを得ないので、結果的に残業が発生します。常に残業しているという人や部署は、理由はさまざまあるにせよ、仕事が渋滞している状態と言えます」
 
「一方、普段からスケジュールや量にゆとりをもって仕事をしていれば、一時的に仕事量が増えたり人員が減ったりしても、スケジュールに影響なく仕事をこなすことができます。ゆとりをもつと、長い目で見ればより成果を上げることができる、つまり、全体最適を実現できるのです」
 
仕事の全体最適を考えるうえで重要なのが、バケツリレー理論だ。川からタンクまで水を運ぶバケツリレーをする場合、バケツに入れる水の量だけを調整できるとして、一番早くタンクを満タンにするにはどうすればいいか。バケツをいっぱいにして運べば早いのではないかと考えがちだが、重いと運ぶ速度が落ちる。物理や数学を使って導き出される最適な水の量は、7割だという。
 
 
「7割しかバケツに水を入れていない作業員がいたら、現場監督はもっと運べと言うでしょうが、計算をすれば7割が最適だと証明できます。さまざまな企業へのヒアリングからも、100%の力で稼働することで結果的に効率が下がってしまうという例はたくさんありますが、概ね7~8割というのが最適な数字として出ています。仕事の効率を上げたいのであれば、全力で稼働するのではなく、2~3割のゆとりをもつべきなのです」
 
 もっとも効率が良いのは7~8割の稼働率
 
 

西成 活裕(Nishinari Katsuhiro)

東京大学先端科学技術研究センター教授。1967年東京都生まれ。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、博士(工学)の学位を取得。山形大学、龍谷大学、ケルン大学理論物理学研究所を経て現職。ムダとり学会会長、ムジコロジー研究所所長などを併任。専門は数理物理学。さまざまな渋滞を分野横断的に研究する「渋滞学」を提唱し、著書「渋滞学」(新潮選書)は講談社科学出版賞などを受賞。2007年JSTさきがけ研究員、2010年内閣府イノベーション国際共同研究座長、文部科学省「科学技術への顕著な貢献 2013」に選出され、東京オリンピック組織委員会アドバイザーも務めている。日経新聞「明日への話題」連載、日本テレビ「世界一受けたい授業」に多数回出演するなど、メディアでも活躍中。

文/笹原風花
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