リサーチ

2020.04.01

リモートワークで気づいた、幸せの見つけ方〈ワークスタイル編〉

働き方を見つめることは、自分と仲間と会社を愛することだった

2018年の総務省調査によると、リモートワーク(テレワーク)を導入している企業は、13.9%であり、そのうち在宅勤務の導入率は29.9%である(総務省「平成30年度版情報通信白書」より)。リモートワークの導入は毎年増加傾向にあるものの、思うように進まないのも現状である。しかし、セキュリティや通信課題などによりリモートワークに踏み切れなかった企業も、そうも言っていられない状況が2020年3月に起こった。新型コロナウイルス感染症による世界的パンデミックだ。多様な人の働き方を支援するだけでなく感染拡大を防ぐという社会的意義が加味され、この機会にリモートワークを体験した人も多いだろう。
私たちコクヨでは、コクヨらしいリモートワークを探索するために、「みんなでリモートワークの気づきを共有しあい、よりよい働き方をつくっていこう!」と呼びかけ、社内アンケートを実施。今回の記事では国内外約100名から寄せられた声を元に、リモートワークのメリット・デメリットを「ワークスタイル編」「ライフスタイル編」にまとめ、働くことが少し幸せになるヒントを紹介する。第1弾の「ワークスタイル編」では、リモートワークで気づいたこれからの働き方の重要なポイントや必要な姿勢についてまとめた。

新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で、日本でもリモートワークの導入が急激に進んだ。国の号令により、学校は一斉休校となり、時差出勤や在宅勤務が推奨され、私たちはまさに働き方の変曲点に立たされている。リモートワークを一時的な対策と位置づけている企業のなかには、突然のリモートワーク実施で慣れない働き方に悪戦苦闘している人も多いのではないだろうか。

これまでリモートワークの利点として、通勤のストレスや時間のロスがなくなる、また生産性の向上や多様な人材の確保などがあげられていたが、実際にリモートワークをした人はどんなところにメリットを感じているのだろうか。


家も地元も全部仕事場! どこでも自分好みにハックする!

・天気のよい日に外でミーティングをすると気持ちがいい。(50代・男性)
・子ども部屋が最強! 子ども部屋を仕事部屋に、リビングを子どもの遊び場にチェンジしました。(40代・女性)
・寒ければ暖房をつけ、天気が良ければ窓を開けるなど、自分好みに温度調節をしてます。そのおかげで、家のほうが眠くならない気がします。(30代・女性)
・自分の部屋で、好きな音楽をかけて、温かいお茶を飲みつつ仕事ができるからか、精神的な疲れがあまりたまりません。(30代・女性)

まず、メリットと感じている点は、オフィスと異なり、家も地元も全部仕事場として活用できること。まさにABW(Activity Based Working)の体現だ。その時の気分や仕事の内容によって、より生産性の高まる場所や時間を自分で選択できることをメリットとして実感している人が多い。

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写真:iStock



ちょっとした「サボり」が在宅ワークを救う⁈
一方で、リモートワークでは人と話す機会が減るため、集中できる半面気づいたら夜...、なんてこともあるかもしれない。

そんなときは、気分転換(ちょっとした「サボり」)を入れるとよいだろう。リモートワークの悩みとして、「上司からサボっていると思われる」といった声が多く聞かれ、気分転換を後ろめたいことと捉えがちだ。
その罪悪感を防ぐポイントは、「休憩する」とチームに宣言することと、それを受け入れる信頼関係をマネジャーが率先してつくること。グループチャットやカレンダーなどで、「今から私用で抜けます」など正直に発信し、メリハリをつけて仕事に向かうとよいだろう。

・仕事に集中できるのはいいが、集中しすぎて時間を忘れて没頭してしまう...。(30代・女性)
・近場の公園に行けたり、自分の寝具でパワーナップを取れたり、大きな本を休憩時に読めたり、自分流の休憩を取れる。(20代・女性)
・自宅にいる時間が長いと、草花で家の中やお庭を楽しく飾ります。たまに、お庭で仕事をしてみたりします。(30代・女性)

実は、ちょっとした「サボり」が生産性を高めるという研究結果(※1)や、朝20分軽い運動をすると一日の脳の働きが良くなるという研究結果(※2)もあり、朝の軽い運動が、定期的な運動をしているのと脳への効果は同じ程度という驚くべき結果も出ている。このような自分流の休み方を工夫し、計画的に取り入れていけば、通勤電車やスーツに代わる仕事スイッチにもなるはず。

家事も育児も仕事も、根を詰め過ぎず、休む時は休むと決め、「サボり(休憩)」を見越して一日のスケジュールを立て、心に余裕をもって仕事に臨むことがより生産性を高めるコツといえる。

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写真:iStock



働き方と休み方を自分流に整える
ここまでの体験談で個人に焦点を当てきたように、リモートワークでより生産性を高めるコツの1つは『働き方と休み方を自分流に整える』ことだといえる。

自宅に「働く」という活動を取り入れることで、環境を見直す人が増えているようだ。特定の部屋をカスタムする人もいれば、作業内容に併せて部屋を使い分けたり、公園やカフェなど街全体も仕事空間として取り入れるなど人によってさまざまだ。一方で、休む時間も意識して、仕事に支配されるのではなく、心に余裕をもって1日を過ごすことが大切だ。

日本では特に仕事や環境は会社から与えられるものと捉える人が多い印象だが、出勤を制限され、リモートワークをせざるを得ない今だからこそ、私たち一人ひとりに意識改革が求められている。つまり、自分自身の働き方を今一度見つめなおし、「私」に適した働く環境を自ら探究する必要性が出てきているのだ。


笑顔のおすそ分け。カメラ越しのサプライズがメンバーの気持ちを和ませる
次に、同僚との関係性に視点を移すと、オフィスでは垣間見られないプライベートな側面が、同僚との心の距離を縮めることに役だっているようだ。

・テレビ会議中、子どもがリコーダーの練習を頑張っている音が漏れ聞こえて場が和みました。(40代・男性)
・テレビ会議中に、画面の向こう側で同僚の子どもが突如登場し、みんなの笑顔が一気に弾けました。(30代・男性)
・遠隔ワークショップの際、参加者が猫と一緒に登場し、場が盛り上がってアイスブレイクの代わりに。(30代・男性)
・相手の部屋や部屋着が見られて、オフィスでは気づけなかったプライベートな一面を知ることができました。(20代・男性)

緊張するWEB会議でも、カメラ越しのサプライズが参加者の気持ちを和ませ、話を弾ませるきっかけとなる。こういった仕事と直接関係ないことが、チーム力を高める要因にもなりえるのだ。

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写真:iStock



傍にいて当たり前だった同僚の大切さが身に染みる
さらに、リモートワークが連日続くと、メンバーに直接会えない「寂しさ」や、相手の気持ちに寄り添いたくなる「想い」も芽生えてくるようだ。

・相手が在宅勤務と把握していると、「あれ...今連絡しても大丈夫かな?」と相手を思いやることが増えました。(30代・男性)
・オフィスでは頻繁にできた「アポを取るまででもないちょっとした話しかけ」が案外大事だと気づきました。(30代・女性)
・「偶然の出会いからはじまる知の共有やコラボ」をオンラインでどう起こすか? は課題。社内の知らない人との出会いや雑談から生まれるアイデアなどは、オフィスワークの醍醐味といえるのかもしれない。(50代・女性)
・やっぱりオフィスは楽しい。在宅勤務で誰とも話さない日は特に、オフィスでの何気ない会話が楽しかったと身にしみて感じます。(30代・男性)

リモートワークでは、効率化・時短のメリットがフォーカスされ、コミュニケーションが減ることをデメリットと捉えがちだが、そのデメリットが逆に、リアルなコミュニケーションの価値を再認識する機会にもなっているようだ。
特に、雑談など直接仕事に関係しないコミュニケーションは、ややもすれば非効率を生む場合もあるが、その時間がもたらす付加価値が思考の転換・拡大に重要という気づきは大切な視点ではないだろうか。

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写真:iStock



こまめに状況や感謝を伝えて、信頼を高める
また、リモートワークで同僚との信頼関係を維持・向上させるためには、こまめな情報発信は欠かせない。

・報連相の徹底が課題。一日の出来事や進捗、気持ちの変化が見えないので、心配になります。(30代・男性)
・部署のメンバー同士、仕事開始や休憩、終了などこまめにチャットしているので、むしろメンバーの様子がわかるようになって嬉しい。(30代・女性)

特に日本人は、「空気を読む」という言葉に代表されるようにハイコンテクスト(多くを言わなくてもなんとなく伝わってしまう環境)な民族だと言われている。オフィスで働く時も人事評価を受ける時も、「いつも傍にいるんだからわかってくれるよね」という感覚を持っている人も少なくない。しかし、リモートワークを実践すると、それが甘えになっていると気づく人もいるようだ。活動状況がきちんと伝わらないと、相手(特にマネジャー)は不安や不満を持つ可能性もある。

この状況に陥り不満を抱える人がいる一方で、業務開始から終了までこまめにチャットでやりとりしているチームでは、むしろオフィスにいる時より相手の状況や感情がわかって幸福感が増している。お互いの活動を共有することは単なる業務ではなく、互いに幸福感を増す行為だと認識を変えると、発信するのも楽しくなるかもしれない。


リモートワークは「仕事の関係」を「大切な関係」に変える
体験談をみると、リモートワークは人間関係によい影響を与えうるようだ。
例えば、子どもやペットが画面越しに現れて場が和んだり、連絡をとりたい相手を想像したり、物理的に離れたからこそ、普段当たり前のように近くにいた同僚が、実は自分に豊かさをもたらしてくれる大切な存在だと気づくことも(淡い恋物語のようでステキですね)。

そう考えると、リモートワークは、「仕事の関係」と割り切っていた上司や同僚が「仕事の関係を越えた大切な関係」に変わっていくきっかけになるのかもしれない。昨今、公私を統合して双方高めようとする考え方(ワークライフインテグレーション)も注目されているが、この考え方に通じるようにもみえる。

ある意味、本気でリモートワークに取り組むことは、自分の人生や仕事にとって、本当に大切な人が誰なのか考えさせられる機会なのかもしれない。


愛を込めて働こう
リモートワークがワークスタイルに与える影響を3つにまとめる。

①自分にとっての「働く」を見直すきっかけになる
②公私の切り替えに関する自由や責任は個人に比重が置かれる(だからこそスケジューリング・活動共有の重要性は高い)
③物理的に離れたことで、同僚への関心や思いやりが高まる

①~③を鑑みると、新しい働き方を実践することは、より一層「働くこと」や「働く仲間」について真剣に考える機会になるといえる。言い換えると、自分の中のオンとオフや、自分と他者を一体化して考え、自分にも他者にも愛を持って接する機会が増えるのだ。

個人は自分を、企業は自社を深く内省し、それぞれが幸せに働く術が生まれる兆しとなりそうだ。そうすることで、自身の中にも仕事相手にも所属企業にも愛が育まれるのではないだろうか。

※1:WIRED「生産性向上の秘訣は『ちょっとしたサボり』:MIT研究」



田中 康寛(Tanaka Yasuhiro)

コクヨ株式会社 ワークスタイル研究所 / ワークスタイルコンサルタント
2013年コクヨ株式会社入社。オフィス家具の商品企画・マーケティングを担当した後、2016年より働き方の研究・コンサルティング活動に従事。国内外のワークスタイルリサーチ、働く人の価値観調査などに携わっている。

江藤 元彦(Eto Motohiko)


コクヨ株式会社 経営推進室 / 新規事業開発
2014年コクヨ株式会社入社。オフィス家具の商品開発を担当しながら、2015年より社内メールマガジン「FORESIGHT」に参加、2016年より同編集長に。2019年より現職にて、未来洞察を軸足に新規事業部門で様々なことに挑戦中。

鈩 優介(Tatara Yusuke)


コクヨ株式会社 経営推進室 / 新規事業開発
2004年コクヨ株式会社入社。建材製品の設計および商品企画に従事。2017年より家具のマーケティングを担当する傍ら、社内メールマガジン「FORESIGHT」編集部にて未来洞察を行う。2019年より新規事業開発部門で活動中。