組織の力

2020.02.26

第4次産業革命時代の「働き方変革」vol.2

消費行動が変化し、求められる感情労働

さまざまなメディアを通じて働き手と企業をつないできた株式会社リクルートキャリアのHR統括編集長である藤井薫氏に、個人と企業の「未来の働き方」や「働く喜び」について語っていただいた、3回シリーズ「未来のはたらく」。シリーズ第2回では、消費者のニーズが変わってきたことに伴う産業・社会構造の変化についてお聞きし、その中で見えてきた「企業や働き手に求められること」を示していただいた。

消費者はモノより
コト・意味・経験を重視する

日本では高度経済成長以降、「豊かであるためにはモノを所有していることが必須である」と考えられてきました。しかし、多くのメーカーがマーケティング主体の開発を行うようになって製品が均質化し、価格競争が激化するにしたがって、近年モノ重視の傾向は急速に崩れてきました。モノ自体で差別化をはかるのが難しくなり、モノの価値が下がってしまったわけです。
 
 
 

モノ・コト・意味をつないで
サービスを進化させる

モノの価値が下がるにつれて、消費者はモノよりコトや意味、経験を重視するようになってきました。このような時代は、今まで製品やサービスの販売だけを考えてきた企業にとって厳しい時代といえるかもしれません。しかし逆に考えれば、チャンスととらえ直すこともできます。つまり、モノと消費者のニーズに合うサービスを組み合わせ、コトや意味、経験を付加する形で提供する業態へ進化するよい機会でもあるということです。
 
例えば、ある建設機械レンタル企業では、ショベルカーの操縦・運転トレーニングのためのバーチャルリアリティコンテンツを開発しました。ショベルカーの訓練は時間や場所の制約を受けがちで、訓練内容も限られていました。しかしバーチャルリアリティを用いれば、いつでもどこでも、自由に条件を設定してトレーニングが行えます。結果として、この企業は建設現場のスマート化実現に一役買うことになり、また利益も上がったのです。モノとコトや意味をつなぎ、進化を遂げた好例といえるでしょう。
 
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進化したサービスは
働き手にも消費者にも喜びを生む

今後は、モノやサービスの供給側は、自社製品をバージョンアップすることだけを考えても、競合との差別化は難しいでしょう。そうではなく、「消費者がモノやサービスを得る目的は何か」とまず考えることが大切です。例えば交通機関を利用する人は、ただ新幹線や高速バスに乗りたいわけではなく、「子どもを連れて実家の両親に会いたい」といったコト(目的)や、「両親に会いに行くことによってよい関係を保ちたい」という意味があります。そこまで落とし込んで考える必要があるのです。
 
供給側が消費者の求めるコトや意味に目を向けるようになれば、例えば運輸においては、「車や人の移動などに関する多様なデータを活用し、自動車や電車、バスなどすべての交通手段による移動を1つのサービスとしてとらえ、予約や支払いをシームレスに一元化できるようにする」といった発想の転換ができるようになります。想像力を働かせてお客さまの「物語」をお手伝いすることによって、競合との差別化をはかることができ、消費者にも満足感が生まれると私は考えます。
 
 
 

テクノロジーを活用することで
人の感情に寄り添った働き方が可能に

モノとコト・意味・経験をつなぐためには、コンピュータやAIをはじめとするテクノロジーが役立ちます。例えば、数か月に1回訪れるレストランで、毎回「食物アレルギーはありますか?」と聞かれたら、顧客は「この前も伝えたのに。面倒くさいな」と感じるでしょう。このような経験が重なれば、顧客は「自分は客として大切に扱われていない」と感じて、その店を選ばなくなる怖れもあります。
 
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逆に、顧客の嗜好がデジタルデータとして保管されていれば、「先日とは違うメインディッシュをご用意しております」といったオファーができます。サービスを提供する側は、テクノロジーを活用することによって、「くつろげる時間を過ごしたい、ゆったりできるおもてなしを受けたい」といった顧客の目的に沿った感情労働(人の感情に寄り添った働き方)をすることが可能になるのです。これまでも、高級老舗旅館やレストランなどでは顧客情報を徹底管理し、顧客を満足させるおもてなしに取り組んできました。しかし、テクノロジーの力を活用することで、高級店でなくても、スタッフに抜群の記憶力やサービススキルがなくても、顧客を満足させる感情労働ができるようになるのです。
 
現代は、第4次産業革命が始まったといわれ、コンピュータ上のサイバー空間と肉体的・物理的なモノ・コトが一体化しつつあると私は考えています。このような時代に、消費者に訴えるモノやコト、意味、経験を提供していくためにも、テクノロジーと共存していくことが、今後ますます大切になるでしょう。

藤井 薫(Fujii Kaoru)

株式会社リクルートキャリア HR統括編集長。入社以来、人材事業のメディアプロデュースに従事し、『TECH B-ing』編集長、『アントレ』編集長などを経て現職。また、株式会社リクルートのリクルート経営コンピタンス研究所を兼務。現在、「はたらくエバンジェリスト」(「未来のはたらく」を引き寄せる伝道師)として、労働市場・個人と企業の関係・個人のキャリアにおける変化について、新聞や雑誌でのインタビュー、講演などを通じて多様なテーマを発信する。デジタルハリウッド大学と明星大学で非常勤講師。著書に『働く喜び 未来のかたち』(言視舎)がある。

文/横堀夏代 撮影/ヤマグチイッキ
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