組織の力

2020.01.16

JR東日本が手がける駅ナカシェアオフィス『STATION WORK』誕生の裏側に迫る

WORKSTYLE INNOVATION PROJECTS vol.5

2019年11月22日(金)に開催した「WORKSTYLE INNOVATION PROJECTS」から、東日本旅客鉄道株式会社 中島悠輝氏が登壇した「都市型テレワークを加速させるインフラ改革~働く人の1秒を大切にする"STATION WORK"~」の様子をレポート。大企業の中で新規事業を立ち上げる秘訣について、『STATION WORK』の事業企画をディレクションしたコクヨのコンサルタント太田裕也が話を聞いた。

JR東日本だからこそ提供できる
『STATION WORK』の真価

太田:私は2005年から約6年間オフィスを中心とした空間デザインを手掛けた後、2011年から「働き方のデザイン」を軸足とするコンサルタントとして、企業の働き方改革を支援しています。
 
本日のテーマは「新規事業企画」ですが、日頃、働き方を切り口に自社を変革するために試行錯誤されている企業のみなさまの参考となるエッセンスが数多く詰まっていますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 
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中島:JR東日本といえば、一般的に鉄道会社のイメージだと思いますが、当社の売上3兆円のうち、1兆円は鉄道以外からの収益です。私は入社後10年間にわたり、鉄道ではないところにずっと携わってきました。
 
約2年前からは『STATION WORK』という事業の企画・立案・実行を一貫して担っています。本日は『STATION WORK』の紹介とともに、硬くて重い大企業の中で新しいことを始めるにはどうしたらいいのか、みなさまに共有できればと思います。
 
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太田:早速ですが、『STATION WORK』の概要やサービスの特徴などについて、お話しいただけますか。
 
中島:新規事業を立ち上げる際に最も大事なことは、自分の原体験だと思っています。私の場合、駅でお客様を見ているときに、肩と耳でスマートフォンを挟んで手帳にメモをする人や、公衆電話の上で書き物をしている人などがたくさんいることに気づき、「駅で作業したい人は多いのではないか」と思ったのが原体験です。
 
その後、事業創造本部へ異動となり、コクヨさんの営業の方に初めてお会いした際に「どうしてJRさんはシェアオフィス事業をなさらないのですか?」と言われ、自分の原体験を思い出しました。当時は「働き方改革」という言葉が世の中に浸透し始めてきた頃でもあり、「これは追い風かも」と感じたんですね。
 
加えて、JR東日本の社内課題として、「駅ナカのビジネスが物売りから脱却できない」というものがありました。2002年にエキュートができてから、ずっと同じビジネスモデルのままだったんです。しかし、駅のサービスはもっと多様化できるはず。この課題を解決するためにも、「“駅で働く”という価値を提供できないか」と考えるようになりました。
 
そこで最初に気づきを与えてくれたコクヨさんにコンサルティングをお願いしたのが、太田さんとの出会いです。
 
太田:懐かしいですね。私がプレゼンテーションさせていただきJR様の悩みに触れることができた日のことは、鮮明に覚えています。
 
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中島:2年前から動き始めたので、シェアオフィス事業において私たちは圧倒的に後発組です。「なぜ今JR東日本がシェアオフィス事業をおこなうのか」をコクヨさんとともに突き詰めていくと、次の3つのコアバリューにたどり着きました。
 
1.SPEEDY
もし時間に余裕があるなら、市中のシェアオフィスに行った方が快適です。逆に1分1秒を無駄にしたくない人であれば、駅を使っていただけるのではないかと考えました。立地は良いので、使い勝手を良くして、とにかく早く使えることが商品価値になると考えました。
 
2.SECURE
シェアオフィスといえば、ビジネスマッチングを想起しますが、忙しい人が求めているのはビジネスマッチングではありません。「すぐにメールを送りたい」「大事な電話をかけたい」など、一人で作業できる価値を極めるべきではないかと考えました。駅で一人になれる場所は、「トイレの個室」くらいしかありませんからね。一人で安全に働ける場を提供することも、商品価値になるはずです。
 
3.STABLE
駅にはいろいろなお客様がいらっしゃいます。外から邪魔されない安心・快適な環境を確保することが大切です。
 
こうして私たちなりに考え出した答えが『STATION WORK』です。
 
太田:メディアでもたくさん取り上げられているので、『STATION WORK』をご覧になったことがある方もいらっしゃるかもしれません。
 
中島:一人用の電話ボックスのような見た目ですが、中にはデスクと椅子、電源・USB・Wi-Fi・大型モニターもあります。このブースには1機ごとに空調が入っているので、夏は涼しく冬は暖かく過ごしていただけます。さらに、当社の女性社員に聞いたところ「おじさんが使った後は使いたくない」と言われたのでアロマも採用しました。
 
先ほどのコアバリューに当てはめて、私たちがこだわった機能をご紹介します。
 
1.SPEEDY→最短10秒で作業開始
会員登録をすればスマートフォンにQRコードが出てきます。これをブース横のリーダーにかざすだけで、自動で扉が開いて利用することができます。
 
2.SECURE→静音完全個室
絶妙な透過性のフィルムを貼ってあるので、外から覗かれる心配もなく、防音もしっかりしてあるので、大事な電話やプレゼンの練習にも安心してお使いいただけます。
 
3.STABLE→基本料金0円の従量課金制
15分150円なので、従量課金制のシェアオフィスの中でもだいぶ安いほうだと思います。心理的にも安心してお使いいただけます。
 
太田:2019年8月1日からスタートされて、お客様の反応はいかがですか?
 
中島:個人会員と法人会員の2つのタイプがあり、個人会員が16,000名、法人会員は約30社なので、滑り出しは上々だと思います。「駅で1人になれるスペースは貴重」、「営業の合間に利用できて便利」といった声がある中で、英会話レッスンに使っていただいている方がいらっしゃるというのは意外でした。立川駅には2名用ブースがあるのですが、タロット占いをやっている人もいらっしゃいましたね(笑)
 
太田:数をスケールさせることでユーザビリティがさらに高まると思いますが、今後の展開についてはどのような計画でいらっしゃいますか?
 
中島:来年度には30駅まで広げていきたいと思っています。その後、仙台や新潟などビジネス需要の高いところから、エリア全体に広げていきたい。担当者の野望としては、全駅に置きたいし、私鉄や地下鉄にもどんどん広げていきたいですね。
 
『STATION WORK』は30分〜1時間の利用が最も多いのですが、お客様によってはもう少しゆったりできる場所を求めている方もいらっしゃるので、『STATION DESK 東京丸の内』という新業態もスタートしました。東京駅の改札から私の足で40秒の場所にある、ソロワークに特化したシェアオフィスです。6タイプの席を用意していますので、ご自身が一番落ち着く席を見つけていただけたらと思っています。
 
 
 

プロジェクトを成功に導いた
2つのポイント

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太田:次に、プロジェクトを進める上で大切な2つのポイントについて説明いたします。
 
1.手段を目的化させず「本質」を見出すこと
2.互いが揺るぎない「プロ意識」をもつこと
 
1.手段を目的化させず「本質」を見出すこと
フリーアドレス導入や書類削減といった表層的な「手段」に固執しないために、中島様をはじめとするJR様とは深層的な「本質」を追求する議論を重ねました。具体的には4つです。
 
バックキャスティング
場当たり的な計画はすぐに時代に取り残されてしまうので、今回のプロジェクトにおいてはPEST分析で2035年ぐらいまでの未来予測を行い、そこからバックキャストして“今あるべき姿”を考えました。
「2年前のシェアオフィスは、クリエイティブで尖った人が利用するイメージでしたが、『2030年には普通の人が当たり前のようにテレワークを行う時代になる』とコクヨさんから教えていただきました(中島氏)」
 
自社以外の視点
新規事業企画だけでなく、働き方改革においても自社の強み・弱みを明らかにするSWOT分析は欠かせません。これを自社単独で行おうとすると、思い込みに陥り、「本質」を外してしまいやすくなります。
「どうしても新しいことを行おうとすると、何か尖ったことをしたくなってしまうんですよね。最初はイノベーティブな特定の人をターゲットにしようとしていたところを『JRさん、違うでしょ。JRさんの強みはマスに向けた商品なんですから、そのコアバリューはぶらさないほうが良いのではないですか』と気づきを与えていただいて。普通に働くすべての人がソロワークを快適にできる商品性を勝ち得ることができました(中島氏)」
 
俯瞰/図解
プロジェクトでの議論が進んでくると、仮設定していた「手段」が当たり前化しがちです。そんなときにこそ、鳥の目で俯瞰し直し、図解することで、みんなが同じ目線に立って議論できるようになります。今回であれば、シェアオフィス、コワーキングスペース、フューチャーセンター、レンタルオフィスなど、「似て非なる施設の機能」をマッピングしました。
「これだけでもコクヨさんにお願いしてよかったと思っています。経営層に説明するときに、そもそもシェアオフィスという言葉で思い描くものはそれぞれ異なるんですよね。そこを最初に整理してから、我々の強みはここにあるので、この領域を狙っていきましょうという話ができたので、とても良かったと思います(中島氏)」
 
定量化
いくら「本質」を考え抜いたアウトプットでも、最終的に経営層からOKをもらえなければ、勿体ない結末を迎えてしまいます。当たり前ですが答申を行う際には、裏付けとなる定量データが不可欠です。シェアオフィスの市場規模はどのくらいあると思いますか? ネットで調べても絶対に出てきません。それでも「確かなファクト」を掛け合わせることで、市場規模を導き出しました。
「これができるのがコクヨさんの強みですよね。経済センサスで取れる数字など6つの変数を掛け合わせていただきました。また、移動途中でやむをえずカフェで仕事をしている人たちが、JRのシェアオフィスの利用者になると仮定した場合、どれだか市場が広がるのか、といった夢も描いてスライドにまとめていただきました(中島氏)」
 
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2.互いが揺るぎない「プロ意識」をもつこと
中島:新しいことをして会社を変えていこうというときは、「熱量」がなければいけません。しかし、それだけではダメで、同時に熱を冷ますための「戦略」も必要です。逆に、「戦略」という武器があれば、説得力が増すので、より「熱量」が高まるんです。今回のようなコンサルタントとのお付き合いという視点をとってみても、ポイントが大きく3つあると思っています。
 
コンサルタントにすべてを見せる
コンサルタントには、自分たちにとって都合の良い成果物を出してもらわなければ、会社は説得できません。良い成果物を出してもらうためには、ネガティブな側面も含め「徹底的に自社のことを伝えること」が大切です。コンサルタントはロジックで積み上げた正解を出してくれますが、それが社風に合わなければ、元も子もありませんから。
 
コンサルタントに対し“NO”を言う
コンサルタントのロジックは優れているものの、会社を長く見てきた自分の感覚がロジックに勝ることも絶対にあります。いくらロジックが正しくても、自分の感覚でNOと思えば、NOと伝えてきました。
 
シナリオは自らが組み立てる
コンサルタントに経営層へのプレゼンを行っていただくケースもあると思いますが、自社の経営層に合わせた話し方はコンサルタントには絶対にできないことなので、私はプレゼンのシナリオからすべて自分で書き上げました。その上で、よりロジカルにするためのプラスαをコクヨさんにお手伝いいただきました。
 
太田:そんな中島様のこだわりに対して、私のプロ意識は何だったのか。「熱量」と「戦略」になぞらえてお伝えしたいと思います。
 
まず「熱量」は、「みなさまの“働く”を豊かにし続けたい」という圧倒的な想いです。これは入社した頃からずっと変わっていません。そして「戦略」は「オフィスありきではない働き方改革の加速」です。人財の流動化やICTの進化により、“働く場=オフィス”という時代は終わりつつあります。だからこそ、「オフィスありきではない働き方改革」も加速させていきたいという想いがあります。
 
そのために、私は「先生ではなく伴走者」であろうと心がけています。既存の知見をもってレクチャーするという先生のやり方では、今のあまりにも激しい市場の変化には追いつくことができません。複雑化する課題を解決するために、ともに走りながら新しい知見をつくってお渡し続ける“伴走者”のスタンスでコンサルティングさせていただきました。
 
最後に、中島様からメッセージをお願いします。
 
中島:私は「熱量」と「戦略」をもって、会社を変え、社会を変え、より良い日本にしたいと思っています。本日は、ありがとうございました。

中島 悠輝

東日本旅客鉄道株式会社 事業創造本部 新事業・地域活性化部門 

太田 裕也
コクヨ株式会社 ワークスタイルイノベーション部

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