リサーチ

2020.01.22

増加する発達障がい者雇用。幸せな雇用&就労を実現するには?

企業も当事者も高い満足感を得るために

発達障がい者の雇用が盛んになってきている。法改正や発達障がいと診断される人の増加など、複数の要因による結果であると推測されるが、企業や発達障がい当事者が、雇用後・就労後に難しさを感じることも少なくない。厚生労働省の調査発表をもとに現状を紹介し、発達障がい者の雇用と就労をより良いものにしていくための方法を考察する。

2018年、民間企業への精神障がい者(発達障がい者を含む)の雇用が法律で義務化された。『障害者雇用促進法』の改正によって、2006年から「精神障害者保険福祉手帳」を持つ人が“企業の障がい者法定雇用率(『障害者雇用促進法』によって義務づけられている「常時雇用するべき障がい者」の割合)”の対象にはなっていたが、精神障がい者の雇用が“義務化”されたことは、障がい者雇用の世界において非常に大きな意味を持つ。
義務化の後に厚生労働省が発表した、『平成30年度(2018年度)障害者雇用状況の集計結果』によると、義務化前の前年度と比較した雇用数は、「身体障がい者」が3.8%増(33万3,454人→34万6,208人)であるのに対し、「知的障がい者」は7.9%増(11万2,294人→12万1,167人)、精神障がい者は34.7%増(5万48人→6万7,395人)という結果になっていた。
 
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厚生労働省の『平成30年度の障害者雇用実態調査』では、身体障がい者と発達障がい者の年齢階級別の雇用人数割合の比較が行われている。調査結果によると、「19歳以下」から「40~44歳」という幅広い年齢において、身体障がい者の雇用よりも発達障がい者の雇用が多い傾向が見られ、特に「20~24才(21.6%)」、「30~34歳(23.8%)」という階層において、非常に高い割合を示していることがわかる。若い世代の発達障がい者雇用率が高いのは、法改正の後押しを受けた結果と考えられるほか、近年になって発達障がい者に対する認知が高まったことにより、「診断を受ける大人」が増えていることも影響しているかもしれない。
以前、『大人でもおこりうる「発達障害」』という記事でも紹介しているように、発達障がいは先天的な障がいであるため、厳密にいうと大人になってから発達障がいになったわけではないが、大人になってから初めて障がいを疑われたり、認識されたりすることがある。そこで受診をして診断に至るのは、やはり情報に敏感な若い世代に多いと思われる。
 
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前述のように、発達障がい者の雇用は盛んになっているものの、本人も周囲も難しさを感じやすいという実情がある。なぜなら、発達障がいと一言でいっても、障害の種類や特性のあらわれ方は人それぞれ違っており、同じ支援が万人に通用するとは限らないからだ。
 
発達障がいには、大きく分けると以下のような種類がある。
■注意欠陥多動性障害(ADHD)
不注意、集中力がない、多動性がありじっとしていられない、衝動性があり思いつくとすぐに行動してしまうなどの特性が見られる。同じADHDの人でも、「不注意優勢」、「多動・衝動優勢」、「混合型」など、人によって特性のあらわれ方が異なる。
■自閉症スペクトラム(ASD)
社会性・対人関係、コミュニケーションに困難がある、行動や興味に偏りがあるなどの特性が見られる。アスペルガー症候群もASDの一種。コミュニケーションに困難があるといっても、「孤立型」、「積極奇異型」、「受動型」などがあり、同じ障がいでも相反するあらわれ方をする。また、その程度も人それぞれである。
■学習障害(LD)
全般的な知的発達には遅れがないが、読む、書く、聞く、話す、計算する、推論するなどの能力に困難が生じる発達障がいのこと。読字障がい(ディスレクシア)、書字障がい(ディスグラフィア)、算数障がい(ディスカリキュリア)に分類されるが、症状のあらわれ方や程度は人によって異なる。 
 
同じ診断名でも特性や症状のあらわれ方は千差万別であるうえ、複数の障がいを併せ持っている人も多い。また、発達障がいの人には、感覚過敏(視覚、聴覚、味覚、触覚などの感覚が非常に敏感であること)や、逆に感じにくい感覚鈍麻があることや、体のバランスの悪さや手先の不器用さなどの困難を抱えていることも多く、それらの症状の有無や程度もまた、人それぞれなのである。
 
しかし、発達障がい者には困難も多い一方で、環境さえ整えば、特に強い興味を持ったことに対しては並外れた集中力を発揮するなどの強みもある。そうした強みを活かし、発達障がい者の雇用を企業と当事者の双方にとって意義あるものにするためには、特性の概要や支援の必要性に対する理解が不可欠である。企業内で綿密なフォローが難しい場合は、本人のかかりつけ医や産業医、カウンセラー、就労支援事業者などの助力を得るのも一手であろう。発達障がいを持つ人は、特性への理解やフォローがなければ、日々の業務の遂行が難しくなるリスクもある一方で、理解とフォローさえあれば、能力を発揮して精密に仕事をこなしていき、独特の発想で道を切り拓いていく可能性も秘めているのである。
 
最後に、発達障がい者を雇用したときに職場でどのような配慮やマネジメントを行えば良いか、いくつかの具体策を紹介する。
 
■わかりやすい指示をする
発達障がいのある人は曖昧な表現では理解できないことがあるが、具体的な指示さえもらえれば問題なく仕事をこなせることも多い。
■仕事が変更になるときは前もって伝える
予定の変更やイレギュラーに弱い発達障がい者は多い。事前に知らせることで、落ち着いて業務に望むことができる。
■仕事の優先順位を示す
複数のことを同時にこなしたり、適切な計画を立てて処理することが難しい場合がある。大事な仕事を残したまま雑務を優先してしまうなど、本人に難しさが見える場合はサポートが必要だ。
■指示をメモで伝える
耳からの情報よりも目からの情報のほうが入りやすい(視覚優位)、口頭で伝えただけでは忘れてしまうといった場合には、メモが強力なサポートとなる。また、本人にもメモをする習慣をつけることをすすめると良い。
 
 
作成/MANA-Biz編集部