リサーチ

2020.01.29

「インダストリー4.0」で働き方はどう変わる?

ドイツの最新働き方事情からみる“強み”と近未来像

ITやロボット技術の発展により、モノづくりの現場にもデジタル化やAI化の波が押し寄せている。そんななか、自動車産業をはじめ製造業がさかんなドイツでは、2011年に「インダストリー4.0」という概念を提唱し、IoTを活用した「スマートファクトリー」(考える工場)の実現を目指して、産官学共同でさまざまな取り組みを行っている。データや人工知能を駆使した効率化により、「人」の働き方はどう変わるのか?今後の日本の働き方に参考になる「インダストリー4.0」で世界を牽引するドイツの働き方最新事情を考察する。

「インダストリー4.0」で超効率化をめざす

「インダストリー4.0」はドイツ工学アカデミーと連邦教育科学省が2011年に発表した概念で、サイバーフィジカルシステムを導入した「スマートファクトリー」の実現がその根幹となっている。
 
これまでの製造業では、分業体制で大量生産を行うライン生産か、一人(あるいは一つのチーム)が最初から最後までつくりあげるセル生産が一般的だったが、「スマートファクトリー」では大量のデータやAIを駆使することで、ライン生産とセル生産の融合、つまり少量多品種・高付加価値の製品を大規模生産することをめざしている。
 
具体的には、デジタル化やAI化でさまざまな工程や部品を標準化することで、これまで個々の工場がそれぞれに行っていた製造過程を、複数の工場で共有できるようにする。すると、たとえばA工場で作った部品をB工場で組み立て、C工場で塗装するといった大規模な分業が可能になるのだ。
 
ドイツの製造業は社員数500人以下の中小企業が7~8割を占めているため、こうした分業で複数の工場が共同作業できるようになれば、労力やコストを大幅な削減が実現する。さらに、このスマート化した工場をどんどん連携させていくことで、最終的には国全体を一つの仮想工場のような形で稼働させることも夢ではない。このようにして国家の基幹産業である製造業の効率化と強力化をはかり、より生産的な社会を実現することが、「インダストリー4.0」の目標なのだ。
 
自動車部品大手のボッシュやさまざまな分野の製造・システムソリューション事業を手がけるシーメンスなど、ドイツの大企業ではすでにこの実現に向けたさまざまな取り組みが始まっている。たとえばボッシュでは、単純作業など機械化できることはロボットによって完全自動化されており、さらにAIを駆使した「予知保全」にも取り組んでいる。
流れ作業による生産ラインでは、どこかに故障が出ればライン全体が止まり、生産がストップしてしまうというリスクがある。そこで、ロボットの動きをリアルタイムでモニタリングし、そのデータを解析することで部品の摩耗などを察知し、故障する前に交換する。これが「インダストリー4.0」のめざす予知保全。AIやデータを活用することで、生産ラインのダウンを未然に防ぐことができるわけだ。
 
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より高次の能力が求められる社会に

このように「インダストリー4.0」では、これまで人が行っていた作業が機械やAIに置き換わっていくため、仕事のあり方が大きく変わることが予想される。いわゆるブルーカラーの仕事は淘汰され、「人」にしかできない、より高次の能力が求められる仕事が新たに増えるだろう。
 
このようなAI時代、「インダストリー4.0」への対策として、連邦社会労働省は2016年に「労働4.0」を発表。具体的には、以下の8つの政策アイデアが提案されている。
 
・就業能力:失業後の保障やバックアップを行う失業保険だけでなく、失業する前に「継続教育訓練」などを受けてスキルアップを図れるよう、労働保険を導入する。
・労働時間:デジタル化により、労働時間や場所の自由度が高まるので、働き方に関する自己決定権を尊重する。
・サービス業:製造業だけでなく、サービス従事者に対しても、良質な労働条件を維持・強化する。
・健康な仕事:少子高齢化やデジタル化がもたらす身体的・精神的ストレスを把握・改善するために、「安全衛生4.0」を取りまとめる。
・データ保護:高水準なデータ保護施策を確保する。
・共同決定と参加:労働条件などの決定について、労使間のパートナーシップを構築する。
・自営業者の保護:デジタル化により増加しているクラウドワーカーなど、自営業者(フリーランス)の実態把握と保護に努める。
・社会福祉国家:不平等や格差を最小にし、国民に十分な社会保障制度を提供するため、「個人就業口座」を創設して、さまざまな権利(たとえば職業訓練を受講するための時間や資金など)を生涯保有できるようにする。
 
 
 

「継続教育訓練」で失業を防ぐ

未来に向けたさまざまな提言をまとめた「労働4.0」の中で、すでに動き出しているものもある。その一つが、働きながら就業能力を高める「継続教育訓練」に関する取り組みだ。2016年には「継続教育訓練と失業保険による保護の強化法(AWStG)」が施行され、主に中小企業の労働者や低熟練労働者など、収入が低くスキルアップへの投資がしにくい層への訓練支援が強化された。
 
2018年からは職業紹介所がキャリアカウンセリングを実施。これまでのように単に仕事を紹介するだけでなく、スキルアップのための就業支援を行うようになった。失業する前にこうした継続的な職業訓練を受けられる仕組みをつくることで、労働者の失業リスクを低減させることが可能となった。
 
具体的な訓練の内容などは、政府や州、労使の代表者等で構成される「国内継続教育会議」で議論・策定されているが、特に重要視されているのは、近年需要が高まっているIT分野の知識習得。すべての国民がより高度な知識を身につける機会をつくることで、国全体の底上げを図ることができ、それが国力増強にもつながることが期待されている。
 
このように、労働者一人ひとりに高度な能力が求められるという時代の流れの中で、国が率先して施策を打ち出し、産官学共同で具体的に動きを進めている。まさにこのような動きこそが、ドイツの大きな強みといえるのではないだろうか。

 

斉藤悠子

グローバルママ研究所リサーチャー。出版社勤務を経て、2009~2015年まで台湾・台北に在住。在台中は大学の語学センターで中国語を勉強。帰国後はフリーライター兼編集者として、台湾情報やインタビュー記事、子育てやビジネス関連の記事などを執筆。夫と娘二人の4人暮らし。

グローバルママ研究所

世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。

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