組織の力

2019.12.25

組織風土改革を加速させる三菱マテリアルのオフィス移転〈後編〉

誰もが当事者意識をもって新しいマテリアルをつくる

組織風土改革の一環として行われた三菱マテリアル株式会社のオフィス移転。移転プロジェクトを進めたメンバーたちは、それぞれの役割を果たしながら多くの社員を巻き込み、移転後に理想のワークスタイルを実現するための土壌づくりを進めた。また、新オフィスの空間デザインや移転後のワークスタイルには、同社の課題解決につながる要素がふんだんに盛り込まれている。後編では、プロジェクト推進を担ったメンバーたちの活躍ぶりや、移転後にみられる同社の変化についてお聞きする。

左から)彌永宏之さん(主に建築計画を担当)、秀真里奈さん(主に空間・家具デザインを担当)、藤田悠さん(主に働き方改革・風土改革を担当)、田中健太さん(主に書類削減を担当)、廣川英樹さん(移転PJリーダー)

運用ルールの説明は
社員が理解するまで何度でも

移転直前には、新オフィスの運用ルールを決め、社員に向けた説明会を段階的に5回に分けて実施した。最初は移転概要の説明から始まり、その後、徐々にセキュリティゾーンの考え方や文具等の集約化等の個別具体的な説明を行っていった。実施にあたっては、70程度ある部署代表を一度に一つの会議室に集めて説明するのではなく、各回とも部署代表を20人程度のグループに分け、同一の説明を複数回行い、意思疎通を図るようにした。そのほかにも引っ越しや新オフィスが入居するビルへの入館方法に関しても複数回ずつ説明会を行ったという。

総務部総務グループ長の廣川英樹さんは、「大きな部屋で説明会を行うと説明会自体は短時間で終わるかもしれないが、その後の問い合わせなどに時間を取られることになり、非効率的だと考えた。お互いの表情が見える距離で実施したので、しっかりと伝わっているという手ごたえを感じることができた。」と説明する。
「社内イントラネットなどで通知するだけでは、不十分ではないかと考えました。説明会の回数はトータルで20回を超えて大変でしたが、ここで頑張ったおかげで、多くの社員から理解を得られました」



「マテリアルらしくない」が
最高のほめ言葉

こうして同社は2019年3月に本社移転を果たした。彌永さんは、新オフィスを初めて目にした飯田副社長が楽しそうに口にした「マテリアルらしくないオフィスだね」というひと言が忘れられないという。
「白を基調とした受付の空間も、観葉植物を配した執務スペースも、旧オフィスの重厚な雰囲気と比べるとシンプルで洗練された空間となりました。副社長に旧オフィスとの違いを即座に感じ取って頂き、今までになかったスタイルを実現できたんだな、と誇らしく感じました」

  • 白を基調とした受付。
  • 執務エリアには観葉植物が点在。窓際のソロワークスペース。


現在は九州工場に異動した田中さんは、本社移転プロジェクトに携わったことを同僚に自慢するのが楽しみだという。
「本社研修で上京したときは、たまたまオフィスを訪れたOBの方にオフィスを案内しました。『いいオフィスだね』と喜んでもらえて嬉しくなりました」
秀さんは、食堂やコミュニケーションエリアで他部署の同僚とばったり出会う機会が増えたそうだ。
「旧オフィスでは、同じフロアにいる同僚でも顔を合わせる機会が少ないので、メールでのやりとりが多くなっていました。しかし、移転後は偶然顔を合わせるタイミングがあるため、メールしようと思っていたことを直接話すことが増え、業務の効率化にもつながっていると実感しています。」



見え始めたオフィス移転の効果
社員の働き方が変わりつつある

今回のプロジェクトの成果は、移転後に実施された社員アンケートからも明らかになっている。移転後の環境や働き方に関する質問のうち、「働きやすい環境が確保された」という答えが89.0%を占めた。また、「社内コミュニケーションが取りやすくなった」に86.7%、「新しいオフィスのコンセプトに基づいた行動に挑戦している」には83.4%の社員が「そう思う」と答えている。

フリーアンサーでも、「他部署との積極的なコミュニケーションや気軽な情報交換ができるよう、オープンスペースを有効に活用していきたい」「まわりの環境がバージョンアップした分、自分も変わらなければ」という声が上がっている。移転プロジェクトに込められたトップや経営陣、プロジェクトメンバーたちの想いが伝わり、社員たちは意識と行動を変え始めているのだ。



運用ルールを発信し続けて
"ありたい姿"を実現

ただし、新オフィスでの働き方や運用ルールは、移転後も発信し続けていくことが大切だ。そのために秀さんは、今後も広報活動やイベントを通じて、同社の"ありたい姿"を発信していきたいという。
「例えば会議に関しては、少人数の社員で打ち合わせを行うときはできるだけオープンスペースで行うことを推奨しています。でも、周知を続けていかないと、いつの間にか社員が個室の会議室を使うのが当たり前になり、『会議室が足りない』という声も起こってくるでしょう。私は移転プロジェクトのメンバーとして運用ルールを更新・発信し続けていくとともに、今後はプロジェクトに関わっていない社員にも引き継いでいかなければと感じています」

移転後のワーキングイメージを具体的に描いてオフィスをつくったことに加えて、多くの社員を巻き込んだり、オフィスの運用ルールを何回も周知したりする取り組みによって、同社の組織風土改革のための土壌は整った。新オフィスで活発なコミュニケーションが行われ、業務が効率的に行われる中で、今後どのような事業シナジーや成果が生まれるのかが期待される。

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三菱マテリアルPJメンバーとコクヨのコンサルタント(左後ろ:鈴木賢一、古川貴美子)




担当コンサルタントからの一言

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「枠をこえてつながるオフィス」実現のために何をすべきか、限りある時間の中で的確なアドバイスができるよう、コンセプト策定・空間デザイン・書類削減・働き方運用ルール策定など各分科会にコンサルタントが参画し、タイムリーに情報共有を行いながらチームコクヨとしてサポートさせていただきました。お客様の言葉にもあるように「移転して終わり」ではありません。組織風土改革は継続され、改善も求められます。さらなる進化を支える相談パートナーでありたいと考えています。

(コクヨ株式会社 ワークスタイルコンサルタント 古川貴美子)

三菱マテリアル株式会社

1871年に岩崎弥太郎が創設した炭鉱・金属鉱山事業を発端とし、1990年に三菱金属と三菱鉱業セメントとの合併によって誕生した総合素材メーカー。「人と社会と地球のために」を企業理念に、セメントや銅地金といった基礎素材の供給・加工などを通じて、21世紀のより豊かな地球社会実現に貢献する企業を目指す。

文/横堀夏代 撮影/ヤマグチイッキ