組織の力

2019.12.11

ヤンマーの企業理念を具現化したオフィスで働き方改革を加速 vol.2

オフィスの仕掛けによって社員の働き方は激変する

創業100周年を迎えたことを機に大きな変革を行ったヤンマー株式会社。第1回では、自社技術であるガス発電を取り入れてCO2排出を大幅に削減するなど、ヤンマーのあるべき姿や理念を新本社ビルで具現化することで、社員への企業理念の浸透を図った取り組みを紹介した。今回は、社員の働き方改革としてはどのようなことに着手したのか、総務部長の山田耕一郎氏をはじめ、同社総務部の方々に話を聞いた。

若手社員の意見をワークショップで吸い上げ、
新オフィスには社員同士のコミュニケーションの場を設置

ヤンマーの新本社にはミッションステートメントが詰まっている。いわば、“外側”からの働きかけにより、この場で仕事する社員たちは会社の理念を肌で感じることになり、ヤンマーは、テクノロジーを通して自然と共生し、省エネルギーな暮らしを実現する会社であるという意識と誇りをより強くもつようになり、意識改革へとつながった。そのうえで、“内側”であるソフト面での「働き方改革」としては、どんなことに着手したのだろうか。
 
「『社員全員で働きやすいオフィスをつくり上げよう』と、建て替え前の仮移転オフィスで各部門の若手社員のプロジェクトメンバーでワークショップを開きました。新しいオフィスでどんなことを実現していきたいか、意見を吸い上げていったのです」と話すのは、総務部長の山田耕一郎氏。
 
「次の100年に向けてグローバル化に力を入れているので、近年は外国人の社員も増えつつあり、今まで以上にコミュニケーションが課題となっていました。そこで、若手社員からはコミュニケーション活性の場として『コラボレーションゾーン』が提案され実現しています。『コラボレーションゾーン』は社員が集まりやすいよう各フロアの中心付近に配置し、立ち会議用のハイカウンターを設置。イスはありませんが、業務で関わらない社員同士のコミュニケーションや簡単な打ち合わせスペースとして使われています。また、立ち会議になったことで大幅な時間の短縮にもつながり、効果も出ています」(山田氏)
 
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山田耕一郎氏

 
 
 

「ワークスタイル1.0」
オフィスが変わっても働き方は変わらなかった

ガスエンジンによる自家発電や太陽光採光システムなど、最先端の設備が備わった最新のオフィス。しかし、「オフィスが変わっても、働き方は思うようには変わらなかった」と山田氏は振り返る。
 
「新しくてカッコいいオフィスはそれだけで満足度もあがり、働きやすくなるだろうと思われがちですが、1年使ってみたところ、期待していたほどには社員の働き方に変化がみられず、逆にさまざまな点で『もったいなさ』が浮き彫りになりました。最大の要因は、キャリア採用の増加と毎年継続する新卒採用で社員が急増しスペースが足りなくなってしまったこと。そのため、共有スペースのはずの『コラボレーションゾーン』に、人事部長と総務部長と監査部長と法務部長が出島みたいに自席を置いているという状態でした(笑)。また、『コラボレーションゾーン』の他にも、食堂エリアや集中スペースなど、気分によって自由に使えるスペースを設けたのですがほとんど活用されず、働く場の選択肢を増やすだけでは働き方が変わらないことを実感しました」(山田氏)
 
そこで、新本社ビルへの移転からわずか1年後の2016年、社員がより自律的でフレキシブルに働けるようABWを軸とした、働き方改革とオフィスの改革「ワークスタイル2.0」に着手した。ABWとは、「Activity Based Working」のことで、仕事内容に合わせて働く場所や時間を自由に選ぶ働き方だ。例えば、集中作業は仕切りのあるデスクで行い、ミーティングはカウンターテーブルで行うなど、フレキシブルに場所を選んで働くことができる。
 
 
 

「ワークスタイル2.0」
机を30センチコンパクトにしたら社員が自ら動き出した

「ワークスタイル2.0」ではABWのためのオフィス環境を整えることから始めた。個人が占有するスペースを見直して共有スペースを広げることで、働く場の選択肢をさらに増やした。また個人収納も3段ワゴンからロッカーに変更してペーパーレスも進めるなど、社員が仕事の場所を選んで移動しやすい環境を整えた。
 
「これまではデスク幅が1200mmあったため自席の居心地がよく、さらにすべての書類が手の届く3段ワゴンに収納されていたので、動く必要性もなかったですし、また動きたい気持ちにもならなかったんだと思います。そこで、『ワークスタイル2.0』では、一人あたりのデスク幅を1200mmから900mmと狭くし、自席をもつのではなく、グループで席を共有するグループアドレスを採用。個人ロッカーに収まる量だけ、と書類も削減しました。そして、空いたスペースに集中ブースを増設したり、ソロワークスペースをつくったりしました。この変更により、社員たちは『ちょっと狭くなったな…』、『でも身軽になったな』、『自由に使えるスペースが増えたな』という気持ちになったのでしょう。一気に社員が動き出したんです。コミュニケーションエリアに行ったり、集中ブースに行ったり、それぞれが自律的に場所を選んで働くようになりました」と総務部の野田就平氏は改善点とその効果を話す。
 
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野田就平氏(右)

 
「他にも、改善したことで使いやすくなったのが『コラボレーションゾーン』です。スタンディング会議やミーティングで時間の効率化には成功していましたが、それ以外での利用者が少なく、スペースとしての活用率は今ひとつという課題がありました。そこで、仕事をしたくなる仕掛けとしてハイチェアを置いてみると、ハイチェアに座って気軽に仕事したり、他部署の人と会話したりする社員が増えたんです。今は『コラボレーションゾーン』として、しっかり機能しています」(野田氏)
 
 
 

ABW導入で社員1人あたり
45~60分の労働時間の短縮が可能

ABWを導入したことで、目に見える形で生産性も上がっているという。
 
「具体的にはメール時間-15ポイント、打ち合わせ時間-15ポイント、思考時間や資料収集-15ポイントとなり、1人あたり1日合計45分~60分の労働時間の短縮効果を見込んでいます。『ワークスタイル1.0』の頃は、すぐ横の部署の社員とも『お世話になっております』とメールでやり取りをしていましたが、ABW導入後は、ちょっとしたことでも気軽に話しかけるようになり、部署間のコミュニケーションは確実に増えています。それでいて、仕事に集中したいときは専用の集中ブースに行けば声をかけられることありません。ABW効果で新たに創出された45~60分の時間。社員はこの時間を新しいアイデアを模索する時間として使ってほしいですね。新しいアイデアを出さない限り、会社は成長していかないですから」(山田氏)
 
 
 

2019年8月からは「ワークスタイル3.0」に挑戦
ヤンマーの働き方改革はさらなる進化を遂げている

そして、2019年8月、ヤンマーの働き方改革は「ワークスタイル3.0」へと進化を続けている。「ワークスタイル3.0」は4フロアある中の1フロアのみの実験導入だが、ABWをさらに加速させ、コミュニケーションやアウトプットの質をさらに向上させるべく、オフィスレイアウトを大幅に見直し、共有と集中のエリアにさらなる工夫を加えた。オフィス移転後すぐにもかかわらず、さらなるオフィス改革に着手し継続させていくケースはまれであり、挑戦的かつ実験的な取り組みといえる。
 
「『ワークスタイル3.0』では、大きく5つのことにチャレンジしています。①机を4人または2人の島型にし、全員が角に座れるようにしたこと、②一人当たりの机の幅は1200mmに戻す代わりに席数を人数の90%程度に削減したこと(デスクシェアリング)、③『ワークスタイル2.0』がグループで席を共有するグループアドレスだったのに対し、グループの枠をも取り払いフリーアドレスにしたこと、④集中デスクの数とバリエーションを増やしたこと。そして、⑤社員が自然と集まるカフェスペース兼事務用品置き場をつくったことです」(野田氏)
 
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新たに増設したコミュニケーショスペース

 
また、これら5つのチャレンジの効果について野田氏はこう続ける。「『ワークスタイル2.0』のときは部署ごとのグループアドレスだったため、ABWといえども、『このあたりが人事だな』と思うと、部署の壁を感じて若干近寄りがたかったですね(笑)。それが、今はフリーだから、斜め前に情報システム、目の前には人事…ということも普通です。机も4人席で全員が角に座るような配置になっているため、以前よりもっと気軽に話しかけやすくなりました」
 
山田氏は「どの会社もそうだと思いますが、ヤンマーも1912年の創業時は人事部や総務部など部署なんてなかった。昔は担当する業務が違っても社員同士みんなで話し合いながら、意見を出し合って物事を進めていたはずです。グローバル化で垣根もなくなり、今はまたその時代に戻りつつあるのではないでしょうか。実際、『ワークスタイル3.0』に挑戦するなかで、私自身、部署間の壁を感じなくなってきています。今、同じテーブルにさまざまな部署の人間がいて気軽に話すことができ、いろいろな情報を共有できる。そこから仕事のヒントやアイデアが浮かぶこともあります」と話す。
 
 

ヤンマー株式会社

1912年創業。農家に生まれ、過酷な労働を目の当たりにしてきた創業者・山岡孫吉が「人々の労働の負担を機械の力で軽減したい」という強い想いから、1933年、世界初のディーゼルエンジンの小型・実用化に成功。現在は農業機械のみならず、建設機械、エネルギーシステム、船舶など幅広い分野の総合産業機械メーカーとして発展を遂げる。2012年の創業100周年を迎え、次の100年に向けて「A SUSTAINABLE FUTURE」をブランドステートメントに掲げ、人と自然が共生する持続可能な社会の実現を目指している。

文/若尾礼子 撮影/スタジオエレニッシュ 岸 隆子
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