リサーチ

2019.09.18

勤めている企業でパワハラ対策を「実施している」は79.9%

法制化による意識改革と指針がパワハラ解決の糸口となるか

2018年12月下旬、株式会社アドバンテッジ リスク マネジメントは、同社メールマガジン会員を対象に、パワーハラスメント対策の取り組み状況や、政府が推進するパワハラ対策の法案に対する意識調査を行った。268名から得た回答結果より、企業のパワハラ対策実施状況、現状に対する意識を解読し、企業が対策に取り組むうえでの壁や問題点について考察する。

2012年3月、厚生労働省で『職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言』が取りまとめられた。2019年5月29日には、企業にパワハラ防止策を義務づける総合推進法の改正案が参院本会議で可決され、成立。義務化は早ければ大企業で2020年4月、中小企業で2022年4月に実施される見通しだ。
 
改正法によると、パワハラ防止策をとることが企業に義務づけられ、従わない企業には厚生労働省が改善を要求。応じなければ企業名が公表されることもあるという。防止策の具体的な内容はこれから議論されるが、相談窓口の設置、加害者の懲戒規定の策定、社内調査体制の整備、当事者のプライバシー保護などが想定されている。
具体的な指針が明確でない現在は、各企業が独自にパワハラ対策に取り組んでいる状況であるが、2018年12月に株式会社アドバンテッジ リスク マネジメントがメルマガ会員を対象に行った調査(回答者268名)では、「勤めている企業でパワハラ対策を実施していますか」という問いに、79.9%が「実施している」と回答している。
 
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法案が可決する前の段階でパワハラ対策を実施している企業が8割近くにのぼったのは、明るい結果であるように見える。「対策が十分であるか」を問うと、全体では「不十分である(12.1%)」、「やや不十分である(25.7%)」が合計で37.8%にのぼるが、「十分である(2.3%)」、「概ね十分である(37.4%)」と考えるという層の総数39.7%のほうが、僅かながらも上回っている。
 
しかし、パワハラの実態を総数の比較だけで考えるのは危ない。取り組みの結果パワハラが減っている企業もある一方で、そうではない企業のシビアな現状は続いているからだ。現に、製造業では「不十分である(12.0%)」と「やや不十分である(34.7%)」が、「十分である(2.7%)」、「概ね十分である(33.3%)」を大幅に上回っている。
「不十分」「やや不十分」と答えた回答者に理由を聞くと、「対策をしてもパワハラ事例がなくならない」、「管理職の理解、認識が足りない」等の声が聞かれる。「報復を恐れて言い出せない」など、把握できていない事例への懸念や、「社員に当事者意識がない」、「世代間で認識のギャップがある」など、パワハラに対する個々の認識に乖離があることも大きな問題となっているようだ。「相談先の整備など仕組みが整っていない」、「環境要因に対する解決策が講じられていない」など、より具体的な取り組みを求める声もある。
 
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企業へのパワハラ防止策の義務化に賛成するか反対するかの問に、回答者の7割近くが賛成している。理由としては、「共通の指針が必要」、「法が後ろ盾になる」、「意識が高まる」等が挙げられている。法制化にともなってパワハラNGの風潮が浸透する中で、ガイドラインの策定に対する期待も高まっている。共通の指針があれば企業も対策しやすいし、被害者も声をあげやすい。当事者意識が希薄だった人も、法制化によって自身や周囲の状況を冷静に見つめ、省みるきっかけになる。「これはパワハラなのだ」という認識が定まることによって、パワハラに対する意識が曖昧で対策が不十分であった企業にも、光が差すのではないだろうか。
 
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職場で「これはパワハラなのではないか」と思っていても、声をあげづらい人も多いだろう。声をあげることによって、自身の立場を危うくする可能性があるからだ。しかし、パワハラに対する認識や対策の指針を共有することによって、職場全体の意識が変わっていけば、「おかしい」と感じたことを指摘できる風土もできる。過去には「会社とは、社会人とはそういうものだ」と流されてきたような事例も、現代ではNOとされることがある…という認識を持つことで、より良い状態へと変化していけるのではないだろうか。
 
ただ、被害者が声をあげにくい現状もある一方で、企業側としてはパワハラへの過剰反応や画一的な指針策定に対する懸念も大きい。“必要な指導”と“パワハラ”の線引きが難しいからだ。被害者が泣き寝入りするような状況も良くないが、両者のバランスを考えると難しい問題と言わざるを得ない。
しかし、法制化によって明確な指針ができれば、両者が守られるようになる。「法の後ろ盾」の恩恵は、企業にも個人にも享受されることが望ましい。そのためにも、これから具体化していく法案の内容が、どちらか一方に偏った内容ではないことを期待したい。
 
 
 
作成/MANA-Biz編集部