組織の力

2019.06.17

はるやまホールディングスにみる従業員満足度アップの成功施策〈後編〉

意見収集とスピーディーな施策実施を徹底する

「はるやま」などのスーツ専門店を全国展開する株式会社はるやまホールディングスでは、退職を申し出た従業員に向けて「退職者ヒアリング」を行って退職理由を深堀りし、制度設計に活かしている。その土壌には、課題意識をスピーディーに制度化につなげる同社の企業体質がある。社長室で店舗支援を担当する竹内愛二朗氏は、「過半数の従業員にとってメリットがある制度は、できるだけ早いタイミングで制度化する仕組みをつくっています」と語る。課題の早期解決を支える同社の企業文化と、改善の流れについてお聞きした。

社長自らが従業員と
積極的にコミュニケーション

株式会社はるやまホールディングスでは、誰よりもまず社長がES(従業員満足)を追求する姿勢を前面に出した活動を行っている。パートやアルバイトを含めた全従業員約3000人に直筆のバースデーカードを必ず贈り、長年勤務した退職者には感謝の手紙をしたためる。竹内氏は、社長の人となりについて次のように補足する。
 
「社長は会話の中で、『現場で聞いたけど』という表現をよく使います。毎週あちこちの店舗に出かけて従業員と話し、改善すべきポイントを見つけたらすぐ役員会に働きかけて制度変更などを検討します」
このような社長の姿勢が根底にあるため、同社の社員は「率直な意見を伝えても自分の不利になることはない。改善も検討してもらえる」という心理的安全性をもって働くことができるのだろう。
 
 
 

費用や手間などを考慮し
実施するかどうかをスピーディーに決定

同社における制度の新設や改善は、発案から実行までがスピーディーだ。制度化の流れについて、竹内氏は次のように語る。
 
「私と社長は、店舗訪問などで得た情報をもとに、人事的な組織や制度のみについて検討する時間を毎週月曜に設けています。ここで挙がった制度の変更案や新規の制度案は、翌日の火曜日に執行役員会にかけます。当然ながら決定権をもつ役員が集まっているので、基本的にはその場で実施するかしないかが決まります。制度化するのは『あまり費用がかからない・手間がかからない・簡単に始められる』という3つの条件をクリアした施策のみと決まっています」
 
 
 

「NO残業手当」は
提案から約半年で実施

課題が見つかってから制度を新設・変更するまでの流れを、同社で2017年から実施している「NO残業手当」を例にとって説明しよう。
この制度は文字通り、「残業をしない従業員には一律(15,000円/月)のNO残業手当を支給する」という内容だ。残業をした場合はもちろん残業代も支給されるが、残業時間に応じてノー残業手当の支給金額は減っていき、15,000円分以上残業したら手当はゼロとなって残業代のみが出る。
 
この制度を発案したのは竹内氏だ。最初に執行役員会で検討したのは夏で、実施が決まったのは秋。施行されるようになったのは3月。就職や卒業などが集中する3月は同社にとって最大の繁忙期だが、会社の本気度を示すためにあえてこの時期から実施することにした。
 
「『メリットがない』という声もいまだにありますが、7~9月の閑散期には9割以上の人がいくばくかのNO残業手当を手にすることになったので、従業員は何かしらの恩恵を受けているといえるのではないでしょうか」
 
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現場の声を徹底的に聞くために
オンライン上の「目安箱」を設置

同社では2019年1月、全従業員が匿名で要望や意見を書き込める「目安箱」を社内のグループウェアに設置した。社長の「従業員の意見を広く聴きたい」という声に基づいた施策だ。それまでも社長のアドレスに直接意見をメール送信できる仕組みはあったが、年に数通しか届かなかったという。しかし目安箱が開設されたとたん、1週間で150件、3か月で600件を超える書き込みがあった。意見や質問に対しては、営業・経理・商品・人事などのカテゴリーに区分したうえで担当者が回答し、社長も目を通して精査してから毎週の社内報で発表している。
 
「匿名で書き込めるようにしたことと、1つの書き込みに対して別の人が書き込みをしてリアクションできる点が、企業内のコミュニケーション手段としては画期的ではないかと自負しています」
 
目安箱のメリットは、なんといっても従業員のリアルな声が聞けることだ。また、ほかの従業員が書いたコメントに星印をつけて共感度を示すことができるため、星印の数を見れば「この意見は全従業員にとってどれだけ切実なものか」がわかる。
 
「例えば先日は女性社員から、レシートに明記される担当者名は氏名ではなく名字のみにしてほしい、というコメントがありました。フルネームだとネットで検索すればSNSなどを簡単に特定されてしまうから、という理由です。ついた星の数も多くもっともな意見だと感じたので、すぐ改善しました。このように、我々が想像もしなかったような現場の課題を目安箱から拾うことができるので、この取り組みは今後も続けていきます」
 
 
 

従業員が快適に働ける環境を
追求し続ける

同社ではこれまでにさまざまな従業員満足のための施策を実施してきたが、現在も「非常に満足」という声は少数だという。このリアクションについて竹内氏は次のように説明する。
 
「一つの課題が解決されれば、また次の課題が気になるのは仕方のないことです。それでも私たちは、従業員が少しでも快適に働ける環境をつくれればと考えて、これからも社員の声を聴く取り組みを続けていきます。そのために私はこの1年間役員という肩書を外して、平社員として各店舗を回り、休み時間などを利用してざっくばらんな会話から従業員の本音を拾う試みを始めています。今後もさまざまな声を拾って、制度設計に活かしていきたいと思います」
 
給与や異動の不満が解消されれば、次は休日のとりかた、といった感じで、従業員満足度を上げるための取り組みには終わりがない。しかし、企業側が満足してしまわずに従業員の声を拾い続ける姿勢をみせることで、従業員は「会社は自分たちの働きやすい環境を追求し続けてくれている」と感じ、帰属意識を高めてよりよいパフォーマンスを発揮する。そのサイクルは企業が成長し続けるためにも不可欠ではないだろうか。
 
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株式会社はるやまホールディングス

1974年に岡山県で創業。スーツ業界屈指の衣料品チェーン店として創業理念である「より良いものをより安く」を実践し、郊外型スーツ専門店「はるやま」をはじめ全国に500店超を展開する。2013年から実施している「退職者ヒアリング」の取り組みが評価され、リクナビNEXT主催の「2018 GOOD ACTIONアワード」などを受賞。経済産業省「新・ダイバーシティ経営企業100選」の選定を受けている。

文/横堀夏代 撮影/ヤマグチイッキ