組織の力

2019.02.04

日経ニューオフィス賞受賞企業から学ぶ「経営戦略」としてのオフィス移転最前線 vol.2

第5回働き方大学
「本社移転プロジェクト_オフィスの仕掛け」編 セミナーレポート

2018年3月に移転した新本社が、「日経ニューオフィス賞(※1)」を受賞した新日鉄興和不動産。前回vol.1では、経営戦略として実施した「移転の狙い」と「オフィス構築プロセス」について紹介した。今回vol.2では、オフィスの仕掛け編として、「社員のmove(動く)を加速し、新たな付加価値を生み出すオフィス」というコンセプトに沿って施されたさまざまな工夫を紹介する。

※1:日本経済新聞社と一般社団法人ニューオフィス推進協会(NOPA)が、「ニューオフィス」づくりの普及・促進を図ることを目的とし、創意と工夫をこらしたオフィスを表彰する制度

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Vol.3「本社移転プロジェクト_プロジェクトリーダー」編

 
 

moveを実現する
ワークプレイスの仕掛け

【本社移転プロジェクトリーダー 鶴田悟総務部長 講演概要】
 
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moveを加速する5つのオフィスコンセプト
 
・appear(見える)
・discover(知る)
・meet(出会う)
・talk(話す)
・mingle(交わる)
 
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出典:「日経ニューオフィス賞受賞企業から学ぶ「経営戦略」としてのオフィス移転最前線」イベント投影画像

 

 
 

appear(見える)
社員同士相互に状況が見えるようにする

1つ目の「appear(見える)」。オープンでフラットな組織運営を目指し、執務フロアは、社員相互に状況が見える環境を追求しました。旧本社は9階建ての各フロアにそれぞれの部署が分かれて入っていて、それが交流の障害となっていました。今回の移転でフロアが2つに集約され、せっかく一つのフロアに複数の部署が入ったわけですから、その間に障害物をつくってしまっては意味がないということで、執務フロアには壁が一切ありません
 
 
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出典:「日経ニューオフィス賞受賞企業から学ぶ「経営戦略」としてのオフィス移転最前線」イベント投影画像

 
また、旧本社では個人の机にデスクパーティションがありましたが、新本社ではすべて取り払いました。実は、これにはかなり反対意見もあったのですが、フリーアドレスと同様、実施から7か月経った今、やっぱり取り付けてほしいという意見はまったく出ていません。
 
さらに、社長からの強い要望で、旧本社にあった役員フロアを廃止、事業担当役員(本部長)の個室も全廃しました。本部長も一般社員と同じエリアで仕事をしています。また、以前は職位に合わせて少しずつ変えていたデスクとチェアも、現在は執行役員以下、全員が同じものを使用しています
 
 
 

discover(知る)
社内外の新鮮な情報に触れる

2つ目の「discover(知る)」。社内外の情報が得られる場所として、ワーキングプレースと社員食堂を兼ねた多目的空間を設けました。ここは愛称を社内公募し、オフィスコンセプトの「ムーブ」と価値の意味を持つ「バリュー」を掛け合わせた造語から、「MOVALU(ムーバル)」と名付けました。旧本社にも社員食堂はありましたが、ランチタイム以外の時間帯は閑散としていました。そこで、MOVALUには、ON/OFF問わず人が集い交わるための仕掛けをつくりました
 
まず、設計面では、オフィスの中央に配置することにしました。ここは眺望もよく、オフィス内で最も魅力的な場所です。社員食堂は通常、音や臭いなどの問題から、オフィスの中央に設置するケースはほとんどなく、執務フロアと隔離してオフィスの端に設置するのが一般的だと思います。このビルも厨房用の換気設備はオフィスの端にしか設置できなかったので、そこに厨房を設置し、調理したものをカートで運んでMOVALUで提供しています。そうまでしても、ここを部署の壁を越えた交流の場として一日中賑わう空間にしたかったのです。
 
 
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出典:「日経ニューオフィス賞受賞企業から学ぶ「経営戦略」としてのオフィス移転最前線」イベント投影画像

 
また、運用面でも工夫しています。旧本社ではランチタイムしか営業していなかったんですが、新本社では朝は8時からモーニング、18時からバータイムを設けています。他の部署の人との飲みニケーションも大事、でも外のお店を予約するのはハードルが高い……そんな時も、オフィスの真ん中に集まれる場所があれば、帰りがけに「ちょっと一杯どうですか?」と気軽に使ってくれるんじゃないかと思ったからです。ここは、社員同士はもちろん、お客様をお招きして懇親会などでも自由に使えるようになっています
 
 
 

meet(出会う)
出会いがきっかけを創り出す

3つ目の「meet(出会う)」。組織の壁を越えて様々な人が出会い、会話や交流のきっかけを創り出す空間として、オフィスの端から端までを回廊でつなぐ「LOOP(ループ)」を設けました。最近のオフィス設計では、ABWと並んでセレンディピティというワードをよく耳にします。「偶然の出会い」という意味ですが、普段接点の少ない部署の人との偶然出会い、そこで交わされる会話の中から新しいアイデアが生まれたり、課題に対するヒントが得られるというものです。オフィス内でフロアを移動する場合、誰もがLOOPを通るので、ここで出会った人に「ちょっといいですか?」と言って、その場で打合せができるようになっています。私自身、旧本社時代に比べ、他部署の人とすれ違う機会が格段に増えたことを実感しています。また、LOOPには、オフィスの端から順に集中ブース、カフェ席、ファミレス席、立会議席といった様々なタイプの座席を意図的に分散して配置し、社員のmove(動く)を促しています。
 
 
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出典:「日経ニューオフィス賞受賞企業から学ぶ「経営戦略」としてのオフィス移転最前線」イベント投影画像

 

運用面でも大きく変えた点があります。それは、会議の方法です。これまでは、会議を行う場合、まず会議室を予約して、そこへぞろぞろと移動し、こもって行なっていました。現在は、社内の打合せは、原則としてMOVALUやLOOP、あるいはこの後ご紹介するBIG TABLEといった、いずれもオープンな場所で行うことをルール化しています。当然、声が漏れ聞こえますが、「それがいい」と考えています。社員同士なのですから、聞かれて困ることなど、そんなにある訳がありません。声が漏れ聞こえることでその部署の様子がなんとなく伝わってくる、そうしたことを通じて部署の壁が低くなっていくことを期待しています。社員同士、お互いの状況が見え、聞こえることは、内部統制上も好ましいことだと考えています

 
 
 

talk(話す)
会話で一体感を生み出す

 
 
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出典:「日経ニューオフィス賞受賞企業から学ぶ「経営戦略」としてのオフィス移転最前線」イベント投影画像

 

4つ目の「talk(話す)」。執務エリア内の5カ所に設けた「BIG TABLE」は、必要な時にパッと集まって立ったまま打合せを行い、終わればサッと各自の持ち場に戻るような機動的なミーティングが可能となっています。そうしたミーティングであれば、立ったまま行えた方がよいということで、電動昇降式の天板をコクヨさんに特注でつくっていただきました。BIG TABLEは、その他にも、周りを取り囲んで朝会を行ったり、インタラクティブプロジェクターの映像をテーブルに投影し、電子ペンで書き込んだものをメール送信したりと、さまざまな用途で利用されています。

 
 
 

mingle(交わる)
社員の英知を結集する

5つ目の「mingle(交わる)」。新本社では、2フロアに分かれた執務エリアをシームレスにつなぎ、組織や場所の垣根を越えたフェイス・トゥー・フェイスのコミュニケーションを円滑に行うため、内部階段を設置しました。この内部階段の壁は、視界を遮らないよう、床から天井まですべてガラス張りにしています
 
 
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出典:「日経ニューオフィス賞受賞企業から学ぶ「経営戦略」としてのオフィス移転最前線」イベント投影画像

 

各フロアの横の動線をつなぐ「LOOP」、オフィスの中央に設置された「MOVALU」、そしてフロア間の縦の動線をつなぐ「内部階段」、これらの3つの仕掛けによって、2つのフロアに分かれたオフィスが一体運営できるよう設計されています。

 
 
 

moveをサポートする
制度・ツール・運用

続いて私たちのオフィスコンセプトであるmove(動く)をサポートする制度・インフラ面について、5つの対策をご紹介します。
 
1.テレワーク
当社では、これまでも、育児や介護の問題への対策として、休暇制度の充実を図ってきました。テレワーク(在宅勤務制度)は、それをさらに一歩進め、「毎日オフィスに通うことは難しいが、仕事はしっかり行いたい」という社員の意欲に応えようとするものです。移転にあたり、半年間ほどのトライアル期間を設け、在宅勤務のためのシステムインフラと人事制度の両方を整備しました。
 
2.モバイルワークを支援するIT・ICTツールを積極的に導入
ABWやフリーアドレスを円滑に進めるためには、それを支えるシステムインフラが不可欠です。
そのため、以下のような施策を行いました。
ノート型PCへの統一(デスクトップPCの廃止)
社員全員へのスマートフォン配布(固定電話の原則廃止)
経営会議・取締役会のペーパレス化(スマートデバイス利用)
稟議決裁や人事・総務申請のペーパレス化(ワークフロー導入)
ほとんどの会議室・打合せスペースへのモニター・プロジェクターの設置
社内SNSの導入など、IT・ICTツールの整備
 
3.オフィスサービスセンターを設置し付帯業務を集約
社員が本業に専念できる環境を整備するため、オフィスサービスセンターというBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)部門を社内に設置し、以下のような、いわゆるノンコア業務をここに集約しました。
 
コンシェルジュ業務(本社オフィスの総務・庶務・設備管理業務)
メール業務(郵便・宅配便の受取と仕分け)
ドキュメント業務(大量の印刷・コピー・電子化、文書移管など)
 
現在、7名の外部スタッフが常駐し、まさに庶務のプロとして熱心に仕事をこなしてくれています。こういった業務は従前、正直言って「誰が」「どこで」「何を」「どうやって」行っているのか、十分把握できていませんでした。そのため、合理化のメスが入りにくかったのですが、オフィスサービスセンターに集約することで中身が可視化され、無駄な仕事の廃止、過剰品質の思い切った見直し、作業工程の最適化を通じて効率化が図られています
 
4.固定電話の廃止
社員全員がスマートフォンを持つことで、不在時も電話を取った社員が伝言メモを残す必要がなくなり、タイムロスの削減に効果がありました。
 
5.デスククリーン
新本社に移動する際に書類を7割削減しました。移転から7か月経っていますが、一切リバウンドしていません。帰るときには必ずデスクの上のものをすべて片付けて割り当てられた個人ロッカーにしまうというデスククリーン活動を徹底しているからです。これはフリーアドレス、固定席の区別なく、社員全員が励行しています。デスククリーンは、オフィス美化の観点だけでなく、情報管理、業務効率化の観点からも非常に望ましいことだと考えています。
 
 
 

本社移転の効果について

移転から2か月経過したところで、新本社に関する社内アンケートを行いました。このアンケートは、社員の本音を引き出すため、無記名で実施しました。その結果、「オフィスの満足度」、「仕事の効率性」、「会社のプレゼンス」、「フラットな組織風土」といった指標についてはいずれも、移転により「向上した」という回答が8~9割に達しました。残念だったのは、肝心の「部署の壁を超えたコミュニケーション」が向上したという回答が7割に止まったことです。この指標は、今回の移転の最大の目的でしたので、正直、ショックでした。
 
 
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出典:「日経ニューオフィス賞受賞企業から学ぶ「経営戦略」としてのオフィス移転最前線」イベント投影画像

 

しかし、言われてみれば当たり前で、他の指標と異なり、「部署の壁を越えたコミュニケーション」は、器を変えただけで、にわかに改善するような簡単なものではないはずです。社員の意識改革なくしてこの指標の改善は望めません。現在は、この結果を真摯に受け止め、引き続き全社を挙げて働き方改革に取り組んでいます。

 
一方、嬉しい誤算もありました。実は、新本社はライブオフィスと位置付け、見学者を積極的にお招きしているのですが、4〜10月末までの7か月間で、お越しいただいた見学者が、延べ1,800社、4,000名に達したのです。1日平均10社にお越しいただいている計算で、この数字は、想定を大きく上回るものでした(その後も見学者は増え続け、12月末時点では、2,000社、5,000名)。これだけの人数ですので、様々な部署の社員が手分けして見学者に応対しています。そして、担当した社員は、オフィスを案内しながら、自分が新本社で実践している新しい働き方を自らの言葉で語っているのです。これ以上に社員の意識改革に有効なツールはないでしょう。時間はかかるかもしれませんが、こうした地道な取り組みが、先ほどの指標の改善につながっていくことを期待しています。
 
次回vol.3では、働き方改革のコンサルティングをはじめ、今回のオフィス移転もサポートした、コクヨ株式会社ワークスタイルイノベーション部部長の鈴木賢一氏とのトークセッションの模様を紹介する。
 
 
 

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鶴田 悟(Tsuruta Satoru)

新日鉄興和不動産株式会社 総務部 部長。1984年早稲田大学政治経済学部卒業後、株式会社日本興業銀行(現株式会社みずほ銀行)に入行。2013年当社入社、業務監査室長を経て2015年より現職。2016年より約2年間、当社本社移転プロジェクトにおいてプロジェクトリーダーを務めた。

文/株式会社ゼロ・プランニング 写真/新見和美
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