組織の力

2018.12.21

ウォルマート傘下における西友の変革〈後編〉

人事改革を進め、ハイパフォーマンス・カルチャーへ

2008年に小売業世界最大手の米企業ウォルマートの完全子会社となり、全社を挙げて変革を進めてきた合同会社西友(以下、西友)。10年目を迎え、ウォルマート・カルチャーのさらなる浸透を図り、さまざまな取り組みを実行してきた。後編では、カルチャーの浸透と同時に進めている人事面の改革について、前編に引き続き、同社人財部バイス・プレジデントの黒川華恵さんに伺った。

「出る杭は伸ばす」方式で、
ポテンシャルのある人財を開花させる

成果主義のハイパフォーマンス・カルチャーへとシフトするにあたり、人財部が着目しているのが、「ポテンシャル」という評価軸だ。

「従来は、パフォーマンス(業績)とコンピテンシー(成果につながる行動特性)の2軸で評価していたのですが、今後はポテンシャル、つまり、潜在能力や可能性がどれくらいあるのかという個人の"伸びしろ"に注目していきたいと考えています。具体的には、『(あるポジションに)なりたいか』、『(新しいことを)学ぶ力があるか』、そして、『その学びを支えるための知識、能力、経験があるか』、ということです。そして、そうした磨けば光る人財については、各部署で抱え込まず、いろんなことを広く経験するなかで可能性を開花させることが重要です。無計画な人事異動や人財の囲い込みは撤廃し、部門を超えてコミュニケーションを取りながら、要職については全社を通して人財部が決定する。そういう包括的な人事を行っていきたいと考えています」

黒川さんは、蔓延して旧来の人事慣習について、「日本企業全体の問題」と警鐘を鳴らす。

「人の育成について、多くの日本企業は20年前から変わっていません。出る杭は打ち、金太郎飴のように同じような人財を集めたり育てたりするというやり方は、大量生産時代には向いていたのでしょう。しかし、それでは個性が育ちません。そして、個性のないところには新たな発想もイノベーションも起きないのです。このままでは、多くの日本人はグローバルの企業でリーダーになることは難しいでしょう」



楽天と提携し、eコマースビジネスを本格化
危機感を持って、変革を加速する

今後は、従来の店舗での販売に加えて、eコマースビジネスに力を入れていくという西友。今年1月には、楽天と提携してジョイントベンチャーを立ち上げ、8月には「楽天西友ネットスーパー」のサイトがオープンした。ウォルマート全体でもeコマースビジネスの拡大を進めており、例えばインドの現地法人は、インド最大手のeコマース事業者を買収してeコマースビジネスに参入している。

「テクノロジーの変化で、モノと人の動きが大きく変わりつつあります。店舗やインターネットでの購入に加えて、ネットで注文した商品を店舗でピックアップするなど、小売業界は日々ものすごい速さで変化しています。このスピードについていくためにも、変革を加速させなくてはいけないと、私たちは危機感を持って臨んでいます」

こうしたドラスティックな変革について、ウォルマート本社は、つぶさに口出しをすることはない。人事のプロフェッショナルとして、これまで数社の外資系企業に勤めてきたキャリアを持つ黒川さんから見ても、「ウォルマートは、ローカルを尊重する企業。ここまで自由にさせてくれるところは少ない」という。西友が、これまで培ってきたものを覆すことなく、それをベースにウォルマート・カルチャーの浸透や経営上の変革を受け入れてきた背景には、ウォルマートの「すべての人を尊重する」というスタンスがあるのではないだろうか。

合同会社西友

西友は、日本国内で北海道から九州まで幅広いエリアをカバーする店舗網を有し、生鮮食品を含む食料品、衣料品、住居用品などを取り揃えた売場を運営。お客様に対しては「信頼を勝ち取るために、どこにも負けない価格と確かな品質で、毎日必要な商品を届ける、店舗でも、そしてネットでも」の実現に向け、「価格」、「鮮度と品質」、「品揃え」、「利便性」という4つの柱に基づいた価値ある買物の機会を提供している。さらに、親会社である米国ウォルマート社のグローバルなネットワークやスケールメリットを十分に活かしつつ、日本のお客様の嗜好やニーズに合った売場を積極的に展開している。

文/笹原風花 撮影/ヤマグチイッキ