組織の力

2018.12.10

「ポートフォリオ・マネジャー」が最強のチームを育てる〈前編〉

プレイング・マネジャーのままでは行き詰まる?

チームとして成果を出すにあたって、マネジャーの存在が重要であることは言うまでもない。では、メンバーのパフォーマンスを引き出し、チームを一つにまとめるのはどのようなマネジャーなのか。管理職育成や組織開発などのコンサルティングを行う未来創造企業プロノイア・グループ株式会社の代表取締役であり、グーグルやモルガン・スタンレーなどのグローバル企業で人材育成に携わってきたピョートル・フェリクス・グジバチ氏は、「今の時代に求められるのは、『ポートフォリオ・マネジャー』です」と強調する。「ポートフォリオ・マネジャー」とはどのような存在なのか。時代と共に変わってきたあるべきマネジャー像の変化とあわせてピョートル氏にお聞きした。

ビジネススピードの速い近年は
チームをまとめるマネジャーの役割がより重要に

チームビルディングに対して、ピョートル氏は「マネジャーの重要性は、近年どんどん上がってきています」と説明する。
「現在は一時代前と比べてビジネス環境の変化が激しく、固定のメンバーが同じように仕事をしていたのでは、高い成果を上げることができません。抜きんでた結果を出すためには、さまざまな価値観を持ったメンバーが集まり、ダイバーシティに富んだ集合知を生み出していくことが欠かせません。多様なメンバーをまとめるマネジャーの役割が重要になってきているわけです」
 
 
 

現代のマネジャーには
「ポートフォリオ」をつくる力が求められる

ではなぜ、多様性に富んだメンバーが集まるチームで、マネジャーの役割が重要となってくるのか。
「ダイバーシティに富んだチームでは、それぞれの個性を最適な形で組み合わせて新しい価値をつくったり、問題発見を行ったりしていくことが求められます。ですからマネジャーは、人と仕組みにできるだけ専念し、ポートフォリオ(最適な組み合わせ)をつくっていくことが必須です。このようなマネジャーを、私は『ポートフォリオ・マネジャー』と名付けています」
 
また、ワーカーの多様化以外にも、今の時代にポートフォリオ・マネジャーが求められる時代的要因はあるという。
「今日のビジネスのあり方やワーカーの働き方は、一時代前と大きく変わっています。仕事の進め方がオープンになり、産学官を問わない社外の人材と共に協業するようになっているのです。ですからマネジャーには、社内外のリソースを組み合わせて成果を上げる力が求められているわけです」
 
 
 

「心理的安全性」とは
メンバーの人間性を重視すること

ではポートフォリオ・マネジャーがつくるのは、どんなチームであるべきなのか。その要素としてピョートル氏が真っ先に上げるのは「心理的安全性」という要素だ。この言葉は、グーグルが2012年に行った「プロジェクト・アリストテレス」という調査・研究で、「生産性の高いチームの特性」として明らかになった要素の一つだ。ピョートル氏は以前に勤務していたモルガン・スタンレーとグーグルで、この要素がチームづくりにどれだけ重要かを身をもって体験したという。
 
「モルガン・スタンレーとグーグルでそれぞれ、印象的な女性マネジャーに1人ずつ出会いました。2人ともマネジメントの手法が柔軟で、メンバーの性格や状況に合わせて対応を変えるのが上手でした。例えば、私が親しい人との死別を経験したばかりのときは『今は自分のペースで頑張ればいい』と気持ちを和らげてくれ、やる気に満ちあふれているときは気持ちを盛り立ててくれました。つまり、私の人間性を尊重してくれたのです。彼女たちのもとで私は、まさに心理的安全性を感じながら働くことができました」
 
 
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人事評価を行わずプロジェクトを評価することで
心理的安全性を担保

そして、チーム内に心理的安全性をつくることもマネジャーの役割だ。「チームの心理的安全性をつくること」について説明するためにピョートル氏は、自ら経営する株式会社プロノイア・グループの組織形態を例に挙げて説明する。
「私の会社では、心理的安全性を担保するために人事評価を一切行っていません。従業員ではなく、プロジェクトを評価するのです。そして、それぞれのプロジェクトにおいては、ペア制度をとっています。個々のプロジェクトに対して責任者を2人置き、互いにサポートし合いながら責任を分担して仕事を進めてもらいます。この仕組みをつくることによって、責任をもちながら役割分担もしてもらい、心理的安全性を確保しています」
 
 
 

マネジャーはメンバーのファシリテートや
サポートを第一に考えるべき

さて、ピョートル氏が説明する「今の時代に求められるマネジャー」は、日本でよくみられるマネジャー像と大きく異なる点があるという。
「日本では、自分自身の業務とメンバーの育成を兼務する『プレイング・マネジャー』が主流です。しかし例えばグーグルでは、マネジャーはファシリテータやサポーターの役割に専念すべきだという考え方が浸透しています。僕もこの考え方に賛成で、マネジャーはプロフェッショナルとしてチームを育み、メンバーの意見を組み合わせて新しい価値を生み出したり、プロセスを管理したり、対外的にはチームの代表としてチームの成果をアピールする存在であるべきでしょう」
 
「生産性を上げる」というと、管理型のマネジメントを考える人がいるかもしれない。しかし大きな成果を出すためには、個々の管理だけでは限界がある。その意味で、タイプの違う人材を組み合わせて新しい価値を生み出す役割を担うポートフォリオ・マネジャーの存在は今後ますます重要になるだろう。
 
後編では、ポートフォリオ・マネジャーの「成果を上げるチームづくり」について見ていこう。
 
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ピョートル・フェリクス・グジバチ(Piotr Feliks Grzywacz)

ポーランド生まれ。2000年に来日後、モルガン・スタンレーなどを経て、グーグルのアジア・パシフィック地域における人材開発と組織開発、リーダーシップ開発分野で活躍。2015年に株式会社プロノイア・グループ株式会社を設立し、企業がイノベーションを起こすための組織文化変革に向けてコンサルティングを行う。『世界最高のチーム』(朝日新聞出版)や『日本人の知らない会議の鉄則』(ダイヤモンド社)、『Google流 疲れない働き方』(SBクリエイティブ)など著書多数。

文/横堀夏代 撮影/荒川潤
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