仕事のプロ

2018.11.05

コクヨらしいイノベーションの舞台裏 vol.2

第4回働き方大学
「ただいま開発中!IoT文具“しゅくだいやる気ペン”」編
セミナーレポート

働く人、学ぶ人、暮らす人たちのために、おもに家具と文具で社会に役立つことを追求するコクヨ。「面倒で厄介なカスのような仕事でも、世の中の役に立つと信じ、その価値を極めれば必ず商売になる」という、コクヨの創業者・黒田善太郎の商いの精神のもと、110年以上にわたり、つねに第一線で新しい価値を発信し続けている。vol.1では、昨年発売のオフィスチェア「ing(イング)」を紹介した。今回は、現在開発中の文具「しゅくだいやる気ペン」について、開発者が実践したイノベーションプロセスを紹介する。

「書くこと」を大切に伝える
コクヨならではのIoTペン

「コクヨらしいイノベーションの舞台裏」、後半の講師は、現在『しゅくだいやる気ペン』の開発に奮闘中のコクヨ事業開発センター所属、中井信彦氏。しゅくだいやる気ペンは、まだ開発中にもかかわらず先にプレスリリース発表をして話題になった。ところが、その道は平坦ではないようだ。壁にぶちあたったとき、「誰に、何を伝えたいのか」というものづくりの原点に立ち戻った経緯を、その気づきとともに話す。
 
 
 

子どももママも待っていた
書けば書くほどやる気が育つとは?

【中井信彦氏 公演概要】
私が所属する事業開発センターは、コクヨの中でも文具とか家具とか既存の分野に縛られることなく、新しいことをやっていきましょうという部門で、日々さまざまなことにトライアルしています。現在、開発に奮闘している『しゅくだいやる気ペン』は、画期的な技術を組み込んだ、子どもの書く習慣化を助けるIoT文具です。
 
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我が家は、小学校一年生の息子と三年生の娘がおり、早く帰った日や休みの日なんかはゲームばっかりしています。そしてその横で、母親が「宿題は終わったの?」とガミガミ怒っているというのが日常の風景です。そんな状況のなかで、どうしたら自分から宿題をやる気になってくれるのかな……という悩みがきっかけで思いついたアイテムです。しゅくだいやる気ペンは、鉛筆にセンサーの入ったアタッチメントを取り付けて、筆記したときの揺れや振動を記録します。筆記量に応じてアタッチメントに「勉強パワー」が蓄えられていき、ペンをスマートフォンの画面にギュッと傾ける。すると、画面の中の男の子に水がジャーッとかかり、頭からやる気の木が生えてくる、というものです。このペンで目指しているのは、「努力の見える化」です。毎日の小さなことでも、努力ややる気を見える化して、子どもたちを応援したいというツールです。
 
 
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Copyright © 2018 KOKUYO Co., Ltd.

 
そもそもコクヨは「書くこと」にトライアルしてきた企業ですので、もう一度、書くことを大切に伝えていきたい、というのが私たちの想いです。現代ではパソコンやスマートフォンなどキーボードを打つことの方が多いかと思いますが、ここで改めて「書く」ということに親しんでほしいと思っています。しゅくだいやる気ペンは、小学校低学年から中学年くらいをターゲットにしているんですが、これで書くことに慣れ親しんでもらえれば、大きくなったときにいろんな能力につながっていくのではないかと期待しています。
 
 
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前代未聞!
開発中のプレスリリースで話題に

実はこの商品は、開発に着手したばかりでまだ完成品はないのですが、今年6月に一足早く、プレスリリースで発表させていただきました。通常は発売する段階になってから発表するのがセオリーで、コクヨとしてもとても異例な出来事でした。ところが、まだプロトタイプしかないのに新聞大手3紙に掲載していただいたり、WBS(「ワールドビジネスサテライト」/テレビ東京系ニュース番組)にも取り上げていただいたりして反響が思ったよりも大きく、うれしく思っています。
 
 
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商品の発売は来年の春くらいを目指していますが、まだ道半ばで、荒凉とした世界を今なおさまよっています。そもそもこのプロジェクトが始まったのは2年も前のこと。「IoT文具をつくろう!」というテーマでスタートしました。おそらく、ハード製品をつくられているところでは、だいたいこのテーマはすでに考えられていると思いますが、私たちもモノにセンサーを積んでデータを取り込めたら何か面白いことができそうだねっという、そんな軽いノリでスタートしました。
 
ノートやハサミ、テープなど、コクヨにはハード製品としてたくさんの文具があります。そのなかでいろいろ探してみると、データを取る意味がありそうだなと直感的に思ったのがペンでした。すでに小学生向けの商品はありますし、上手くコラボしていける予感もありました。こういうときによくあるパターンだと思うのですが、既存の商品にセンサーを仕込んだり、ペンの持ち方を矯正したり新しい機能をつけるかたちでコラボすれば進めやすいだろうとちょっと短絡的に考えていたんです。
 
 
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例えば、IoTを使って持ち方を矯正したり、揺れを分析することで思考の癖を取るとか、国語は何分やったとか教科を判定したり、筆記具をリコメンドするとか、データを活用していろいろできそうだなと。なかでも、子どもの見守りツールは、共働きの親御さんが子どもがちゃんと勉強したかどうか把握することもできそうだね、という話はよく出ていました。
 
 
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ターゲットを見失って
やっと気づいた大事なこと

一般的には、コンセプトを決めて、ハードを検証して、コンテンツやアプリをつくるというのがよくある流れになりますが、その一方で、企画を理論武装していくことも同時進行で行います。私たちも、3C分析(自社・競合・顧客の分析)や4P分析(製品・価格・流通・販売促進の分析)を重ねて、社会課題とどんなふうに結びついているのかを考えていきました。でも、このほとんどは会議室の中で行なっていたことで、スタートから1年くらい経つと、「結局誰が使うものなんだ?」と自分たちで疑問を持ってしまったんです。
 
 
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マーケティングの本にも1ページ目に書いてあるほど当たり前のことですが、「最大のリスクは誰も欲しくないものをつくること」と言います。改めて、自分もそこに完全にハマッてしまった……と愕然としたんです。このまま進んでも全然埒が明かず、どうしよう……となったとき、それならプロセスを変えてみようと。新しいことや商品のことを考える前に、どんなアプローチをするのかを変えようという話になりました。そこで、最大の重要課題はなんなのかと突き詰めたとき、結局、「誰を幸せにしたいのか」がはっきりしないと、プロセスも決められないということがわかったんです。
 
IoTペンは、子どもを見守るお父さんお母さんのためにと、漠然と考えていたのですが、実際に使う子どもをターゲットにすることで、子どもが「(いやだけど)やらなきゃいけない」というところから、「やりたい!」と言ってくれるものにしようと。子どもが幸せを感じる体験にフォーカスした企画にチェンジしてみたんです。
 
 
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一般的には、ユーザーに商品のサービスを伝えるのは、モノが完成した後ですが、それをはじめに持ってきて「できるかはわからないですが、こんなふうになりますよ」というものを最初に見せてしまって検証してみる。具体的には、MVP(実用最小限の製品)だけを提示するプロダクトを試作しました。そうすると1ヶ月くらいで、その商品がアリかナシかがわかるんです。私たちもターゲットに刺さるかどうかがわかるようになってきてからはトライアルをやっていても、荒涼とした世界の中に一筋の光が差しているのが見えるようなそんな気持ちになりました。
 
今回のケースでは、5人に対してユーザーテストをやりました。こういうことはたくさん試さないと意味がないのかなと思ってしまいますが、感覚的には5〜6人くらいに実施して、感想や反応を見ればだいたいいけそうかどうか見えてくることがわかりました。これはいわゆるユーザーの理解と仮説検証をずっと繰り返していくプロセステストです。
 
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ユーザーを理解するためには生活のまわりをすべて観察することが重要なんです。僕らは「宿題を課せられている子ども」を、実はちゃんと理解していなかった。会社にいると家での暮らしを見過ごしてしまいがちです。ですから、まずは宿題をやっている子どもたちの映像を50本、いろんな協力者に動画に撮ってもらって、ひたすらメンバーと一緒に見続けました。こういう動画をたくさん見てから改めて分析していくと、子どもはイヤなことにはなかなかパッと取りかかれず、始めてもすぐに離脱してしまうんですね。さらに、お母さんの声のかけ方はどうかとか、机の上にどんなものが置かれているか、こういったリアルがすごく見えてきて、こういう子をなんとかしたいという気持ちを、チーム全体で共有できたと思います。そこからチームとしての団結力が強くなったと感じて、今現在に至っています。
 
 
 

共感が増えれば
協力者も増える

「幸せにしたいユーザー」に対して共感を得られたら、チームメンバーはもちろん、経営者や他部門の人、社外のパートナーさんにどんどん協力者が増えてくると実感しました。実は、開発着手をプレスリリースした理由は、社外への共感の輪を広げたいなと思ったのが一番のところです。幸せにしたいユーザーさんがはっきりしていれば、そこに集まってくる意見というのはすごく建設的です。ですからきっちり投げかけて、僕らも理解していかないといけないなと思っています。
 
先ほどは道半ばといいましたけど、僕らは、ユーザーとのかかわり方を模索しながら旅をしてるんだなと最近すごく感じています。メーカーにとって永遠の課題、一番重要な課題だと思いますが、ローンチする前、した後を含めてどういうかかわり方をしてくのがいいのかなと。今すぐ答えは出ませんが、ディスカッションや実戦でいろんなことにトライ&エラーをしながら、かかわっていく中で学んでいくべきなんだろうなと思っています。
 
今回は、事前に「経営者に共感を得るためにはどうしたらいいですか?」というご質問をいただいていましたが、経営者は俯瞰して見えているか?ということが大事だと思うんですよね。全体像を先に見せることがすごく大事であることを学びました。
 
次回は、「コクヨらしいイノベーションの舞台裏」の最終回。「ing」のプロジェクトリーダー・木下洋二郎氏と「しゅくだいやる気ペン」の開発者・中井信彦氏によるパネルディスカッションの模様をお届けする。
 
 

働き方大学レポート一覧

第1回:WORKPLACEからWISEPLACEへイノベーションを創出・加速支援する場づくりとは KOKUYO×三井不動産セミナーレポート

第2回:「働く」を変えてきた日々 TELEWORKDAYS特別イベントレポート

 

 

 

 

中井 信彦(Nakai Nobuhiko)

コクヨ株式会社 事業開発センター ネットソリューション事業部 ネットステーショナリーグループ グループリーダー。1999年、関西学院大学大学院 理学研究科修了。同年、シャープ(株)入社。液晶パネルの研究開発に従事した後、海外向け液晶TV、手書きデジタル機器のプロジェクトマネージメントを経験。2013年、コクヨ(株)へ入社。以来、デジタル文具の企画・開発に従事。UXデザイン(ユーザー体験設計)をとおして、デジタルとアナログの融合価値を追求している。

文/株式会社ゼロ・プランニング 写真/新見和美
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