組織の力

2018.11.16

働き方改革における「生産性の高い姿」とは?

『オフィス学プロジェクト』の視点から働き方改革を考える

2018年10月、コクヨ東京ショールームで、東京大学大学院経済学研究科の稲水伸行准教授と稲水ゼミ所属の大学生を招いて、「働き方改革における生産性」について考えるイベントが行われた。当日は稲水氏の講義、コクヨ株式会社のワークスタイルコンサルタントである坂本崇博氏によるトークに続いて、コクヨのワークスタイルコンサルタント曽根原士郎氏を進行役に、稲水氏と坂本氏のパネルディスカッションが展開された。オフィスにおける生産性の定義やクリエイティビティのあり方など、多様なテーマが扱われたイベントの様子を紹介する。

経営学の立場から
オフィス空間と生産性の関連性を探る

まずは東京大学大学院の稲水准教授が、「働き方改革において生産性の高い姿とは?」というテーマで取り組む『オフィス学プロジェクト』について講義を行った。
 
【稲水氏講演概要】
私は、オフィス空間と組織の生産性の関係を探る『オフィス学プロジェクト』を立ち上げ、オフィス空間がワーカーの行動に与える影響に関して研究を行っています。特に「ワーカーがオフィスを動き回ってコミュニケーションすることは成果にどう影響するか」「空間の人口密度によってコミュニケーションがどう変わるか」といったテーマを中心に、コンピュータ・シミュレーションを用いたモデル化も行いながら研究を行っています。
 
 
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オフィスというと建築やデザインの分野でさまざまな研究が行われていますが、経営学の立場からオフィスを取り扱う研究は国内ではあまり見られません。
 
しかし、働き方改革における生産性を考えるうえでは、オフィスデザインやITデザイン(フリーアドレスの導入・運用方法など)とあわせて、人的資源に関する様々な機能をデザインするHRMデザイン(Human Resource Management Design)、組織構造・文化など多様な視点から探っていくことが欠かせません。そこで、社会学者や心理学者、IT企業などと連携し、オフィスで生産性を高めたりイノベーションを生み出したりするための仕掛けについての研究を行っています。
 
 
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出典:『オフィス学プロジェクトのスコープ』、「クリエイティビティを育む組織風土と職場環境:パフォーマンスを高めるオフィスの特徴とは」の資料より/著作:稲水信行

 
 
 

オフィス施策の効果は
エビデンスに基づいての検証が求められる

私は経営学の視点からオフィス研究を行っていますが、実はこれまでの経営学ではエビデンス(科学的根拠)に基づいた研究はあまり行われていなかった経緯があります。そのため、経営学の知見がビジネスに活かされることはほとんどありませんでした。
 
しかし近年は、アメリカの経営学会を中心に「Evidence Based Management」という考え方がポピュラーになり、「信頼性の高いエビデンスに基づいて、実務に役立つ経営学の研究を行っていこう」といった動きが起こっています。
 
 
 

生産性は労働時間と生産物の
比率から定義できる

働き方改革における生産性を経営学の立場から研究するにあたって、前提条件として「生産性をどのように定義するか」を考えます。
 
オフィスにおける生産性は、インプットとアウトプットの割合によって定義できます。インプットは労働時間、アウトプットは生産物やクリエイティビティなどの成果を指します。ですから、「生産性を上げる」という観点から考えると、働き方改革の施策は大きく二つに分けることができます。
 
1.期待する成果(アウトプット)を上げながらどれだけ労働時間(インプット)を減らせるか
2.同じ労働時間(インプット)で大きな成果(アウトプット)をいかに生み出すか
 
1と2の施策を補完的に行っている企業もありますが、2つの施策が対立するケースはよくみられます。施策を検討する際は、「導入しようとする施策がどちらに当てはまるのか」という視点も持つと、施策を単純化して考えやすくなります。
 
 
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相関関係があるからといって
因果関係は導き出せない

施策の効果を検証するうえで注意したいのは、「その施策と結果との間に因果関係があるかどうか」です。多くの調査を見ると、「相関関係はあるが因果関係があるかどうかは未知数」という場合がほとんどです。
 
例えば、あるベンチャー企業がオフィス移転後に実施したアンケートでは、オフィスに対する満足度が上昇していました。また、これまでの研究では「オフィス満足度と職場満足度やワークエンゲージメント指数には相関関係がある」という結果が出ています。そのため、このベンチャー企業でも、オフィス移転によってオフィス満足度が上がったのだから、ワークエンゲージメント指数も上がり、経営成果も上がると期待されました。
 
しかし、移転前後のアンケート調査を比較したところ、上がっていたのはオフィスに対する満足度だけで、職場満足度やワークエンゲージメント指数に変化はみられなかったのです。このことからも、施策の効果をみようとするときには、時系列でデータをとったり、結果が別の要因によるものではないかを検証したり、因果関係と相関関係を混同していないか疑ってみたりと、広い視野から分析を行っていく必要があることがわかります。
 
 
 

アイデア創出にはワーカーの性格や感情の動きも
深くと関わってくる可能性が高い

生産性を考えるにあたっては、「オフィスにおいて新しいアイデアをどう生み出していくか」というクリエイティビティについての考察も重要です。私はこの分野に関心を持ち、近年力を入れて研究を行っています。
 
クリエイティビティ研究では、ハーバードビジネススクールのテレサ・アマビール教授らによる発表が有名です。その研究からは、新しいアイデアを生み出すための環境として、「クリエイティビティの奨励(=奨励される環境があるか)」「資源(=アイデアを形にするための資金や人材があるか」」「自律性もしくは自由(=自由裁量で仕事ができるか)」など大きく分けて5つの要件があることがわかりました。
 
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出典:『仕事環境の認知を図る尺度』、「クリエイティビティを育む組織風土と職場環境:パフォーマンスを高めるオフィスの特徴とは」の資料より/著作:稲水信行

 
また私は2017年に、約3000人のワーカーを対象に、本人のパーソナリティによってクリエイティビティにどれだけ差が出るかを調査しました。その結果、クリエイティビティを発揮しやすいパーソナリティが確かに存在することはわかりました。しかし同時に、クリエイティブなパーソナリティでない人(クリエイティブ・パーソナリティ・スケールのスコアが低い人)でも、クリエイティビティを発揮しやすい環境を用意すればクリエイティビティが上昇することも明らかになったのです。
 
さらにアマビール教授は、「働く人の感情によって生産性やクリエイティビティがどう変わるか」についても調査を行っています。ワーカーに日誌を書かせてテキスト分析を行ったところ、例えば他人から何かをほめられてポジティブな感情になったワーカーは、クリエイティビティが3日間ほど高く保たれることがわかったそうです。つまり、生産性向上やクリエイティビティの発揮には環境と同時に、ワーカーの性格や感情も重要であるとわかってきたのです。
 
ですからオフィス施策も、ワーカーのパーソナリティや感情の持ち方に応じて展開することで、得られる結果が変わってくる可能性は大いにあります。
『オフィス学プロジェクト』では今後、感情の動きをセンサーで測るといったテクノロジーも用いながら、オフィスにおける生産性を多角的に検証していきたいと考えています。
 
 
 
 

稲水 伸行(Inamizu Nobuyuki)

東京大学大学院経済学研究科准教授。日本企業の職場組織の動態について、定量・定性の両面から調査・分析を行うとともに、コンピュータ・シミュレーションを用いたモデル化にも取り組む。『オフィス学プロジェクト』を主宰。著書には『流動化する組織の意思決定 エージェント・ベース・アプローチ』(東京大学出版会)などがある。

坂本崇博(Sakamoto Takahiro)
2001年コクヨ入社。資料作成や文書管理、会議改革などさまざまな働き方改革ソリューションの立ち上げや事業家に参画。健康経営やダイバーシティ推進などのテーマで企業や自治体を中心に働き方改革の制度・仕組みづくり、意識改革・スキルアップ研修などをサポートする。

文/横堀夏代 撮影/MANA-Biz編集部
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