仕事のプロ

2018.11.19

アンコンシャス・バイアスへの「気づき」が職場を変える〈前編〉

「無意識の思い込み」を知ることが個人と組織の成長を促す

近年、グローバルなビジネスシーンを中心に「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」という概念が注目を集め、このテーマに関する企業研修やセミナーが増えている。株式会社モリヤコンサルティングの代表取締役であり、研修や講演会を通じてこのテーマの普及に努めてきた守屋智敬氏は、「無意識の思い込みは誰もが持っていますが、“無意識”であるだけに気づきにくいものでもあります。そのため、知らず知らずのうちに個人や組織の成長を妨げる要因になる場合があります」と語る。前編では、アンコンシャス・バイアスが個人や組織に与える影響や、世界で注目されている背景についてお聞きした。

アンコンシャス・バイアスは
生きるために欠かせない概念の一つ

まず「アンコンシャス・バイアス」の定義を守屋氏にお聞きすると、「ひと言で言えば、“無意識の思い込み”です」という言葉が返ってきた。メディアにおいては「無意識の偏見」というフレーズで紹介されることが多いが、偏見という言葉にはネガティブなニュアンスが強いため、守屋氏はさらに広く「思い込み」ととらえているという。
 
「私たちはみな、無意識のうちに、ときに知らず知らずのうちに物事を判断し、行動しています。これが『無意識の思い込み』です。例えば、腐った食品について、匂いや見た目から『これを食べたら危険だ』と判断できなければ、身体の安全が脅かされることになります。このことと同じで、つまりアンコンシャス・バイアスは、自分を守るために必要なものでもあるのです」
 
ビジネスにおいても、ベテラン社員が経験則によって物事を判断し、成功する場面は多々ある。この「経験則」も「アンコンシャス・バイアス」の一つであり、それ自体は悪いものではないという。
 
 
 

自己防衛本能が
人を不快にさせる場合も

しかし、アンコンシャス・バイアスは時として人を不快にさせてしまうことがある。代表例としては、「女性だから」「文系出身だから」「若手だから」といったその人の属性や経歴だけで、その人の能力や性格などをステレオタイプに判断しようとするケースが挙げられる。
 
「このようなステレオタイプに影響をうけた判断は、人に不快な思いをさせ、時には傷つけてしまうことが少なくありません。特に、リーダーがメンバーに対して、『お子さんがいる女性に責任ある仕事を任せると負担に感じるだろうからやめておこう』や、『経験年数が少ないからまだこの仕事はムリだろう』などと判断してしまうと、メンバーたちの成長機会を奪うことにつながります。それどころか、チーム全体が成長する可能性をつぶすことにもなりかねません」
 
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では、そもそもアンコンシャス・バイアスがなぜ職場で問題になってしまうのだろうか。守屋氏は、その原因は「脳の構造」にあると説明する。
 
「脳は、自分にとって都合がよいことや、快適と感じることを優先的に受け容れようとする性質があります。逆に言えば、自分にとってなじみのないものは否定するということですね。また、今まで信じてきたものとは違った考え方や行動を突きつけられたときに、『今まで正しいと思ってきたものを否定されたくない』という自己防衛本能が働き、受け容れるのを拒んでしまうこともあります」
 
さらに組織においては、みんながやっていることだから間違ってはいないといった『集団同調性バイアス』や、経験豊かな人の行動や言動なら間違いないとする『エキスパートバイアス』、自分にとって都合の悪い情報は見ようとせず「まだ平気だ」と思い込む『正常性バイアス』も強く働くことが多い。
 
「思い込みで物事を判断するだけでなく、すべての人の中には『他人を自分の思うままにコントロールしたい』という欲求があります。特に、リーダーは、この欲求が働きやすいため、自身の経験則をおしつけてしまいメンバーの意欲をつぶしてしまうことが多いのです」
 
 
 

アンコンシャス・バイアスにとらわれたままでは
企業は成長できない

近年、国内外の企業では、アンコンシャス・バイアスに対する関心を急速に高めている。
グーグルやジョンソン・エンド・ジョンソンといったグローバル企業が社内トレーニングの一環としてアンコンシャス・バイアス研修を取り入れていることが明らかになり、一気にこの言葉の認知度があがった。ではなぜ、企業はアンコンシャス・バイアス研修に注目しているのだろうか。
 
「グローバル企業では、ダイバーシティ経営を実践しており、様々な人が働き、その個人個人が能力を発揮することが求められています。また、無意識の先入観による判断は、その人を傷つけてしまうことが多々あります。このような職場では、社員は自分の能力を最大限に発揮できません。結果として、企業全体の生産性も下がってしまいます。そのため、アンコンシャス・バイアス研修やワークショップを導入し、まずは、個人や組織が抱えているアンコンシャス・バイアスを認識するところから始める、という企業が多いのです」
 
また、アンコンシャス・バイアスが特に認識されやすいのは、経済成長が鈍化したときだという。
「鈍化とは、つまり変わり目ということです。今までのやり方が通用しなくなったために成長スピードが落ちているわけですから、新しいやり方を生み出すことが求められています。しかしこのときに、『今まではこのやり方で成功してきた』というアンコンシャス・バイアスが障壁となることはままあります。日本の場合は特に、高度経済成長期に『同じ能力の人が集まって、同じプロセスで、同じ結果を出す』という手法で成功してきたこともあり、なかなかそこから抜け出せないのです。日本でも、『ずっと同じやり方を続けること』のリスクにいち早く気づいた企業は、組織もリーダーも個人も変わる必要性を痛感し、アンコンシャス・バイアスについての研修や講演を実施する取り組みを始めているのだと思います」
 
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企業倫理を問い直す意味からも
アンコンシャス・バイアスへの理解が求められている

さらに、アンコンシャス・バイアスへの関心が高まっている背景として、企業において不祥事やハラスメントなどが相次いで起こり、企業倫理の問い直しが求められていることも挙げられる。不祥事やハラスメントはまさに、『集団同調性バイアス』などのアンコンシャス・バイアスによって引き起こされた面が大きいからだ。
 
「経営側も被雇用者側も、対症療法だけでは続発する不祥事を回避できないと感じ、問題の根源にあるのは社員一人ひとりの認識と行動だと気づき始めています。アンコンシャス・バイアスという概念が注目されているのも、『無意識の思い込みが一人ひとりの問題行動を引き起こす』ということに思い当たってのことではないでしょうか。研修などでこの概念をお伝えすると、腑に落ちた等、非常に関心を持っていただけます」
 
成長に対して貪欲な企業は、アンコンシャス・バイアスに対しての気づきを深め、変わるきっかけをつくろうと行動を起こしている。まずは自分や組織の中に「アンコンシャスバイアス」があることを知ることが、壁を超える手かがりになる可能性は高い。
 
後編では、アンコンシャス・バイアスから起きる問題を改善していく方法について、個人と組織の両面からお聞きする。
 

守屋 智敬(Moriya Tomotaka)

株式会社モリヤコンサルティング代表取締役。一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所代表理事。都市計画事務所、人材系コンサルティング会社を経て、起業。経営層や管理職を中心としたリーダーシップ研修などを通じて、2万人以上のリーダー育成に携わる。著書には、アンコンシャスバイアスをテーマとした『あなたのチームがうまくいかないのは「無意識」の思いこみのせいです』(大和書房)や、『シンプルだけれど重要なリーダーの仕事』(かんき出版)などがある。

文/横堀夏代 撮影/ヤマグチイッキ
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