仕事のプロ

2018.11.12

コクヨらしいイノベーションの舞台裏 vol.3

第4回 働き方大学
「イノベーションのヒントを再発見する」編 セミナーレポート

働く人、学ぶ人、暮らす人たちのために、主に家具と文具で社会に役立つことを追求するコクヨのイノベーションを紐解くセミナー。vol.1では、昨年発売のオフィスチェア「ing(イング)」の発売までの道のりを、vol.2では、現在開発中の文具「しゅくだいやる気ペン(仮)」の紆余曲折について語ってもらった。最終回は、開発者2人によるパネルディスカッション。これからイノベーションにチャレンジしたい人も、少し立ち止まってしまっている人も、ぜひヒントにしてほしい。

ユーザー視点を最優先
「コクヨらしいものづくり」

まだどこにもないものをつくったり、今あるものをブラッシュアップするためのプロセスに正解はない。創業110年を超えてなお、業界を牽引しつづける大手老舗企業でもそれは同じ。ものづくりの現場にいれば何度でもぶつかる「壁」とその打開策について、「ing」の開発者・木下洋二郎氏と「しゅくだいやる気ペン」の開発者・中井信彦氏にディスカッションしてもらった。司会は、新規事業開発を中心にデザインコンサルティングに携わる「えそら合同会社」の代表・喜多竜二氏。現在、「しゅくだいやる気ペン」の開発に参加している。
 
トークテーマは「経営陣の理解を得るために」、「創造性を高める“場”づくり」、「“失敗”を恐れずに進めるために」の3つ。
 
 
 

[テーマ1]イノベーティブな活動を始めたい思いはあるけど……
経営陣の理解をどう得ればよいのか

喜多氏:イノベーティブな活動は答えがない中での探索が基本で、一見すると非効率だったり無駄に見えたりすることもやっていかなければいけません。また、新規性が高いものほど不確定要素が多く、数値で予測しづらい。こういった従来の基準では良し悪しを判断しにくい活動について、経営陣の理解をどのように獲得されたんですか?
 
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中井氏:子どもたちがやる気になってくれることが一番ハッピーじゃないかという、ユーザーの共感を訴えたことがもっとも効いたんじゃないかと思います。「こんな理屈だから儲かる」ということより、自分たちが「幸せにしたいのは誰なのか」を経営陣を含めた全員がクリアにイメージできる状態になってから、話を進めやすくなったように感じました。
 
喜多氏:経営陣にとって数字は大事な判断材料です。一定のリスクを乗り越える判断をしてもらうために、数字とはどのように向き合いましたか? 
 
中井氏:そうですね。最初の1年間はビジネスとして数字にどうつながるかばかり考えていました。でも「本当に刺さるものとは」という考えにチェンジできたとき、純粋にユーザーに向き合えるようになった気がします。「こんなユーザーがいるから、この数字が出てくる」という導き方が結果的に近道になったんじゃないかと。
 
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[テーマ2]場を用意したつもりなのにうまくいかない……
創造性を高める“場”づくりとは

喜多氏:近年、創造性を高めようと言ってフリーアドレスを導入している会社が増えていますが、「効果がなくてやめた」とか、「結局いつも同じ席に座ってフリーアドレスが機能していない」という話をよく聞きます。また、組織の風通しをよくするために役員の部屋をなくしたのに、結局役員と話をするのは四半期に1回のプレゼンテーションだけ、みたいな会社もあるようです。オフィスの環境改善についても新しい取り組みをたくさん成功させているコクヨさんから見て、うまくいかない理由は何だと思われますか?
 
木下氏:たとえばフリーアドレスは、実際に導入してみると「仕事に集中できない」という話は当然出てきます。それはフリーアドレスの目的は「交流」にあって、いろんな人の知見や情報を収集したり、ネットワーキングをしたりすることが目的なので、一人で集中して仕事をしたい人には向かないからです。そこに両立を求めてしまうと、機能が一致せず不具合が起こるというわけです。つまり、役割・目的と場を一致させることが成功の鍵になります。
 
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木下氏:また、創造性という点では、結びつきが薄いと思われた情報と情報をつなげて行くことが大切です。面白いアイデアとは、今までつながらないと思われた情報と情報が新しいある視点でつながることなので、必要でないと思われるものでも、ある程度見える化して散らばってないといけないんですね。そのためには空間としても、たとえば、こういったセミナー会場では通常は同じ椅子が並んでいますが、画一的なものが整然と並んでいるのではなくて、この会場のようにデザインの異なる椅子がバラバラに置いてあるだけでも、ちょっとしたコミュニケーションやアイデアのきっかけになるかもしれないというわけです。
 
喜多氏:一方、コクヨさんには「DIVERARY(ダイブラリー)」という、フリーアドレスとは真逆のスペースがあるそうですが、中井さんもよく利用していらっしゃるそうですね。
 
中井氏:ダイブラリーは、「ダイブ=没頭する」+「ライブラリー=図書館」を合わせた造語で、ジャングルジムのようにぐるっと一周した本棚に本がたくさん置いてあるような場所です。そこにちょっと薄暗くて、1人でこもれるブースがいくつかあるんです。自席よりもっと集中したいときはここへきて自問自答したりして考えを巡らせます。考えることに没頭するだけでなく、ひとりでリラックスできる場も用意されています。気持ちや思考をリセットすることもできます。
どこに行って何をするか、自分にどういう変化が生まれるのかを意識しながら執務場所を選ぶことはすごく重要だと思います。どこにいけば自分の力を1.2倍にできるかみたいなものを考えながら、働く場所をマネジメントするという感じです。
 
喜多氏:コクヨさんではワーカーの用途別にスペースが豊富に整備されていますが、そういう環境がない場合、オフィス環境の改善は誰がどこから手をつければいいのでしょうか?
 
木下氏:通常、オフィスづくりは我々サプライヤー側の担当と総務担当の方とのやり取りで進むことが多いですが、本来はワーカー自らが「こういう環境で働けたらいいよね」とチャレンジできる状態をつくれるとベストだと思います。自分のパフォーマンスを発揮できる場所探しという意味では、ABW(アクティビティーベースドワーキング)制度を導入したり、それぞれのアクティビティに応じた多様な場がもっと増えるといいなと思います。
 

ABW(アクティビティーベースドワーキング)については、こちらの記事もおすすめ

 
 
 

[テーマ3]簡単なイノベーションは存在しない……
“失敗”を恐れずに進めるためには

喜多氏:最後は“失敗”について伺いたいと思います。新規性の高いものほどリスクは高くなるというお話がありましたが、イノベーティブな活動には失敗がつきものです。ビジネスの世界では一つの失敗でも失脚や左遷も考えられますが、そんな極端な話じゃなくてもマイナスの査定になってしまうような環境がある場合、チャレンジする気持ちを削いでしまうのではないかと。つまり、失敗が許されない環境ではイノベーションは起きにくいような気がするんです。コクヨさんでは、失敗をどう捉えていらっしゃいますか?
 
中井氏:失敗した後、次のステップへ進むとき、「モノ」の話をするよりも「こういうアプローチで進めるまったく新しい方法です」と説明すると説得しやすいような気がします。前回ここで間違えたので、次は思い切ってこう変えてみますと宣言することはすごく価値があるんですよね。
 
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木下氏:明確に失敗したとわからなくても、違和感のあるところはなんとなくわかったりするものですよね。その違和感を掘り出して、どこで間違ったのかみんなで振り返ってみることで、怖くなくなるというか。全員で一緒に確かめるというのは大事なことだと思いますよ。
 
喜多氏:木下さんのお話にあった、いろんな可能性を突っ込んでダメなものを排除しながら細かい失敗を繰り返して答えを出していく「ジョウゴ型」はいいヒントだと思いました。細かい失敗から学んで、次に生かせれば前進になるということですよね。
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Copyright © 2018 KOKUYO Co., Ltd.

 
木下氏:誰しも時間をかけてやって完成させたものは簡単には壊せないですし、それを疑うこともなかなかできないですよね。でも、できるかぎり短いスパンで振り返ることで、大きな失敗にさせないことが大事だと思います。
 
喜多氏:最後にイノベーターとして活躍されているお二人に伺います。今現在コクヨらしいものづくりとして大切にしていることは何ですか?
 
中井氏:ユーザーを中心にするということでしょうか。私は、コクヨに入社する前は、電機メーカーでエンジニアとして液晶テレビを開発していたので、つねにスペック競争の中で戦っていました。最大画面サイズとか最高画質とかそういった数字でわかる「世界最大最高」みたいなものばかり追い求めていたんです。ところがコクヨでは、人が何を必要としているのかとか、数字では表せないんだけど心地いいものとか、そういうもののバリューを発信することに重点が置かれている。会議の中でも、ここに触れると手触りがいいとか、そういうことが議論されるんです。
 
木下氏:コクヨは、「カス(あまり儲けのない)の商売でもずっと続けていたらなんとかなる」という、創業者の言葉を今も大事にしています。でもなんとかなる理由は、顧客起点にあるはずなんです。ユーザー層が小規模でも、価値を認めてもらえるようなものをつくっていればなんとかなると。自分自身、なかなか仕事がうまくいかないときを振り返ると、ユーザー視点じゃなかったんだなと気づくことが多いです。
 
喜多氏:お二人はステーショナリーとファニチャーと違う事業部ですが、「ユーザー視点」を最優先に考えていらっしゃることは共通していて、このあたりが私たち外部の人間から見てみてもコクヨさんの強いところなのかなと感じました。本日は、どうもありがとうございました。
 
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働き方大学レポート一覧

第1回:WORKPLACEからWISEPLACEへイノベーションを創出・加速支援する場づくりとは KOKUYO×三井不動産

第2回:「働く」を変えてきた日々 TELEWORKDAYS特別イベント

 

 

 

 

 

木下 洋二郎(Kinoshita Yojiro)

コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部ものづくり本部1Mプロジェクト プロジェクトリーダー。1990年入社。オフィスチェアーを中心に、家具全般の先行開発およびアドバンストデザインを担当。人間工学や脳科学の視点から行動観察を行い、デザインとエンジニアリングを融合した開発手法でコクヨのイノベーションをリード。ドイツiFデザイン賞金賞、グッドデザイン賞等、受賞多数。

中井 信彦(Nakai Nobuhiko)
コクヨ株式会社 事業開発センターネットソリューション事業部ネットステーショナリーグループ グループリーダー。1999年、関西学院大学大学院 理学研究科修了。同年、シャープ(株)入社。液晶パネルの研究開発に従事した後、海外向け液晶TV、手書きデジタル機器のプロジェクトマネージメントを経験。2013年、コクヨ(株)へ入社。以来、デジタル文具の企画・開発に従事。UXデザイン(ユーザー体験設計)をとおして、デジタルとアナログの融合価値を追求している。

喜多 竜二(Kita Ryuji)
えそら合同会社 代表社員/HCD-Net認定 人間中心設計専門家。東京大学工学部を卒業後、同大学院情報理工学研究科を経て、シドニー工科大学大学院に進む。2009年にUXデザインコンサルティングを専門とする「えそら合同会社」を設立、これまでに新規事業をはじめとする100を超える事業を支援してきた。自身は行動観察をはじめとするエスノグラフィを専門とし、生活者に対する共感を出発点としたユニークなアイデア発想の場づくりや、UXデザインの組織導入に力を入れている。

文/株式会社ゼロ・プランニング 写真/新見和美
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