組織の力

2018.10.01

ワークプレイスのグローバルトレンドとは? vol.2

第3回 働き方大学
「注目されるABW、海外事例と成功のポイント」編 セミナーレポート

グローバル企業を中心に、ワークプレイスのトレンドが日々変化している昨今。日本でも「働き方改革」が叫ばれるなか、企業にとっても、ワーカーにとっても「働きやすい環境」について考えるシーンが増えている。日本でも世界を手本に、今後ますますワークスタイルは変わってくると予測される。今回は、2018年8月27日(月)にコクヨ株式会社のライブオフィスで開催されたセミナー「ワークプレイスのグローバルトレンドとは?」のセミナーレポートvol.2。世界のオフィスを例に新しいワークプレイスや働き方のあり方を紹介する。

アクティビティーベースドワーキング
3.0時代到来でオフィスのあり方とは

講師は、コクヨ株式会社クリエイティブセンター主幹研究員であり、働くしくみと空間をつくるマガジン「WORKSIGHT」編集長の山下正太郎氏。9年間で30カ国、50都市、1000箇所のオフィスを取材した山下氏が海外現地取材での最新事例をもとに、実際のオフィスを紹介する。
 
 
 

オーストラリアに見る
ABWの成功例

日本が目指す働き方改革の方向性として、オランダやオーストラリアで展開されている「時間」と「場所」を自由に選択できる「ABW(アクティビティーベースドワーキング)」という働き方を紹介したいと思います。
 
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日本の生産年齢人口が急激に減ってきている今、柔軟な労働力の確保をしなければならないとお話ししましたが(vol.1「働き方の変遷、高度化するオフィス」編)、働き方改革はまさにその問題を正面から捉えなければなりません。また、社会問題だけでなく、若い世代を中心に働き方に対する考えの変化もあります。たとえば、ひと昔前までは、ある特定の1社に就職して、そのカラーに染まって年を重ねるのが当たり前でしたが、昨今では個人が主体であり、個人が自分の働き方を選択していく時代になってきています。つまり、9時5時でオフィスの中に閉じ込められる働き方は時代に合わなくなってきたのです。
 
 
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出典:「ワークプレイスのグローバルトレンドとは? WORKSIGHT編集長が語る働く環境の変遷と今」投影画像

 
実は、日本の働き方改革のモデルとして、アメリカはあまりヒントにはなりません。日本の目指す働き方改革のベンチマークとなるのは、オーストラリアとオランダです。ここではオーストラリアの事例を紹介します。オーストラリアは、同じ英語圏のアメリカやイギリスなどの国々に優秀な人材がどんどん流出している上に、国土自体も広大であることから、リクルーティングに大きな課題を抱えていました。優秀なワーカーを集めるには、なるべく柔軟な働き方を整えたり、より豊かな環境を構えたりといった企業の工夫が重要なカギでした。
 
 
 

[事例]NABの場合
ワーカー主体の柔軟な働き方

オーストラリア第2の都市・メルボルンにある「NAB (ナショナルオーストラリアバンク)」というオーストラリアのメガバンクの本社事例をご紹介します。NABは柔軟な働き方で注目を集めています。基本的に自分の席を持っていません。必要があればオフィスに来なさい、自宅やカフェなどさまざまな場所を自由に選んでいいですよ、という働き方を推奨しています。このような環境を整えているのは、優秀な人材を確保していきたいという狙いによるものです。
 
ワーカーが自分で働く場所を選ぶABWは、もともと90年代にオランダから始まったもので、深刻な労働力不足という問題に対してABWを採用し、人材を確保することができたというものです。その後、2000年代にオーストラリアに輸入され、今ではオーストラリア全土に広がりを見せています。
 
従来のフリーアドレスやノンテリトリアルオフィス、アクティビティセッティングといったコンセプトは、「オフィスの中を自由に選択する」というものでしたが、ABWはオフィスに限らず、自宅やカフェ、図書館など「働く場所そのものを自由に選択する」という概念で、オフィスですら選択肢の一つになっています。
 
これは企業とワーカーの双方にメリットをもたらすものです。企業側からすれば人数分の席を用意しなくていいので、明らかにスペース効率が高まります。NABも統合縮小移転をすることで新しい本社をつくり、賃料や運用コストが劇的に下がりました。当然、柔軟な働き方によって人材を確保しやすくなりました。また、ワーカー側は仕事と生活をうまく統合できます。たとえば朝はオフィスに行くけど、夕方はNPOで働きたいとか、家事や育児、介護など家庭事情にも対応できるのが魅力になります。こうした双方のメリットが、ABWが広まってきている理由です。
 
 
 

ABW型オフィスづくりに
欠かせないポイントとは

短期的に見るとABWは非常に生産性を上げる方法です。働く場所を選べることで、直行直帰が可能になり、業務に適したさまざまなところで仕事ができるからです。苦手な上司のすぐそばで働かなくてもいい……というのもメリットになるかもしれません。しかし長期的には懸念されるデメリットもあります。オフィスに滞在する時間が短くなることで、会社への帰属意識やロイヤリティーが下がるということが問題視されているのです。企業は、そのためにオフィスの環境づくりにも余念がありません。
 
たとえばNABでは、数少ない出社のチャンスを有効利用するために、部署ごとにチームハブという場所をつくっています。自分たち占有のスペースを使って帰属意識を芽生えさせるのが狙いです。他にも工夫の仕方としてABWを実施しても、自席を用意するという企業もあります。ABWを導入する際には、こうしたメリットとデメリットを理解した上で導入する必要があります。
 
オフィスに残っている機能もまだあります。たとえば、機密性の高い仕事=人事情報を扱ったり、新規事業をつくったりするプロジェクトなどは外に持ち出すとリスクが高まるので、オフィスの中に残しています。最近主流になりつつあるOne on Oneのような上司と部下の一対一の面談や会話などに使う場所もたくさんあります。
 
また、オフィスの中に雑談スペースもたくさん用意されています。長期出張などであまりオフィスにいないワーカーの特徴として、仕事の話よりも「最近どうだった?」「元気?」というようなとても身近でソーシャルな会話を求める傾向があります。カジュアルなミーティングができるような場所やキッチン、食堂などリラックスしながら会話できるスペースがこうしたニーズに応えています。さらに、託児所やスーパーマーケットなどのライフスタイルをサポートする機能もオフィスの中に整備されています。このような取り組みはABW型のオフィスにとってとても重要なものになっています。
 
本社オフィス内にコワーキングスペースがある点もユニークです。誰でも会員になれるスペースで、若い起業家がさまざまなビジネスを行なっています。ワーカーに古いマインドセットを捨てて、新しい風を感じてほしいという想いから、起業家が近くで働いているコワーキングをつくったという面白い取り組みです。
 
 
 

ABW型オフィスが
都心へ移行するわけとは

また、近年ABW型のオフィスは都心の一等地に構える傾向にあります。たとえば、旧来のテック系企業には在宅ワークと郊外オフィスを組み合わせることがよくありました。しかし単純にコスト面だけで郊外を選ぶとただ誰も来ない「がらんどう」になってしまうという問題が発生していました。基本的にオフィスはメンバーが集まって仕事をする場所という認識が強まっていますので、多少コストがかかっても、都心にコンパクトなオフィスを持って、頻繁に人が訪れるほうが企業やワーカーにとって合理的であるということに気づいたんですね。これは東京でも起こりうる変化の兆しではないかと思います。
 
そんなABWは、今3.0(世代)まで来ていると言われています。1.0は「時間の融通が利く」、2.0では「社員のためにオフィス空間をフリーアドレスに」というものです。3.0時代は、NABのオフィスのようにむしろ社内や社外の隔てはなく、関係者が柔軟に集まったり散らばったりできるようなチームのハブとしての場所をつくることに目を向け、外部の人たちにも開かれた場になっています。
 
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出典:「ワークプレイスのグローバルトレンドとは? WORKSIGHT編集長が語る働く環境の変遷と今」投影画像

 
一方でABWは自分たちのオフィスだけで完成するものではありません。自宅やカフェ、図書館などオフィス以外の働ける場所の選択肢が広がらないと成立しないのです。最近では大手デベロッパーがサテライトオフィスとしてコワーキングスペースをつくったり、公共空間にもワークスペースが増えてきたりしているので、日本でも今後ABWを導入しやすくなるかと思います。
 
日本の働き方やオフィス環境が大きく変わる潮目として、ひとたび大手企業がトライすると、まるでオセロを返したように系列会社や同じ業界のライバル会社などが一斉に追随する傾向があります。これはとても日本的な特徴です。幸い、すでに予想した以上にABWを採用する大手企業が増えていきているので、大きな流れとなる機運が高まっています。
 
 
 

ABWの成功を左右する
コンテクストカルチャー

そこで私が一番問題になってくると思っているのが、「コンテクストカルチャー」というものです。アメリカの文化人類学者エドワード・ホール氏が提唱している概念で、「ものごとの意味がコンテクスト(文脈)によって左右される」というものです。
 
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たとえば、「ローコンテクストカルチャー」の国は、ルールをその文面通りに受け取ります。一方、「ハイコンテクストカルチャー」の国では、何か物事が意味をなすときには、文面だけではなくて、空気や背後にある文脈を判断材料にします。つまり日本流にいうと、「空気を読む」「忖度する」といった文化がハイコンテクストカルチャーになります。日本は世界で最もハイコンテクストカルチャーに分類される国のひとつと言われます。
 
ところが、一般的にABWが成功しやすいのはローコンテクストカルチャーの国です。たとえば「明日からABWをやります」と一斉に社内メールしたとします。すると、ローコンテクストカルチャーの人たちは、文面通り本当に翌日から会社に来なくなります。かたや日本で同じことをして翌日どうなるかというと、おそらく全員オフィスに来るでしょう。まずは上司や同僚が、実際に採用するのか様子を見なくてはいけないからです。あらゆる空気を読まなくてはいけないので、文面通り受け取れないんですね。ABWは自由な働き方にとって有効な手段ではありますが、日本の場合はただルールを設定するだけでは不十分で、ハイコンテクストカルチャーをどうコントロールしていくかが大きなポイントになります。
 
ここまでのお話を踏まえて、vol.3ではイノベーションを起こす企業の傾向についてご紹介します。
 
 

 

山下 正太郎(Yamashita Shotaro)

コクヨ入社後、戦略ワークスタイル実現のためのコンサルティング業務に従事。2011年グローバル企業の働き方とオフィス環境をテーマに創刊したメディア「WORKSIGHT」の編集長を兼務。

文/株式会社ゼロ・プランニング 写真/新見和美
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