レポート

2018.05.14

人工知能時代における幸せな働き方とは?

「幸せに働く技術 新しい時代のリーダーが最も大切にするもの」

2018年4月5日夜、KOKUYO東京ショールームのスタジオにて、「YeLL/幸せに働く技術 新しい時代のリーダーが最も大切にするもの」と題するイベントが開催された。『幸せな働き方』というテーマを軸に参加者同士でアクティブな意見交換が行われ、大いに盛り上がったこのイベントの模様を紹介しよう。

テクノロジーを活用しつつ
人間にしかできない仕事を考える

この日の参加者は約50人。「人工知能時代において、組織のリーダーに必要な力とは?」「テクノロジーが進化する中で、目に見えないものを扱う必要性は?」といった内容が予告されていたため、経営者や組織長、組織内のチームをまとめるマネージャーの参加が目立った。ファシリテーターを務めるエール株式会社代表取締役の櫻井将氏が「"幸せな働き方"という難しいテーマについて一緒に考える仲間が、ここにたくさんいると勇気づけられました」とまず所感を述べ、イベントが始まった。

第1部は、ゲストの藤野貴教氏が「情報提供セッション」という形で約30分間のスピーチを行った。ワークスタイルクリエイターの藤野氏は、2007年に株式会社働きごこち研究所を設立し、のべ1万人のビジネスパーソンに向けて企業研修や講演を行ってきた経歴の持ち主。近年の研究テーマは「人工知能の進化と働き方の変化」で、「テクノロジーの進化が著しいこの時代に、どうすれば幸せに働けるか」を発信し続けている。

藤野氏は、テクノロジーの進化によって、今後はさまざまなデータが蓄積される時代になることを指摘し、「感情など目に見えないものもデータとして『見える化』されていきます」と述べる。自身で起業する前に、IT企業で人事採用や組織活性化に取り組んできた藤野氏は、この「見える化」を肯定的に捉えているという。

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「コミュニケーションの促進やビジョンの共有に向けて、いろいろな手を打ってきたけれど、社員に響いているかがわからず、もどかしさを感じていました。だから今、組織における感情などがデータから見える時代になってきたのは、うれしいことです」

ここで藤野氏は、プロジェクターに1枚のマトリクスを表示させる。横軸の左側には「論理的・分析的・統計的」とあり、右側には「感性的・身体的・直感的」とある。藤野氏は「これまでは、論理的・分析的・統計的のような左側の軸の要素をもつ仕事も人間が行ってきましたが、この領域はテクノロジーによって代替されつつあります。コンピュータやAIは疲れたり飽きたりすることがないため、論理的・分析的・統計的な仕事は得意分野なのです」と指摘し、一例として、株式会社アトラエの「WEVOX」という組織診断ツールについて紹介する。

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「これまでは、組織コンサルタント会社がES(従業員満足)調査を受注し、アンケート調査を行って結果を集計・分析していました。しかし、WEVOXを使えば手間とコストを抑えて同じ結果が得られるため、導入する企業が増えています」

このような変化に際して、人間がやるべきは、マトリクス右側の「感性的・身体的・直感的な仕事」だと指摘し、「分析結果をもとに、感性や直感を働かせて意思決定を行うことが幸せな働き方につながる」と強調する。

「組織診断ツールの例で言えば、テクノロジーを活用することで『社員同士の人間関係を示すスコアが低下しているので、コミュニケーションの機会をつくった方がいい』というアドバイスは得られます。しかし、実際にやるか、また、どのようなスタイルで実行するかの意思決定は、人間にしかできません。ITベンチャーのビジネスリーダーはすでに、テクノロジーを通じて得られたデータの裏付けをもとに、人間らしさを大切にした組織づくりを始めています。私たちも、そこに学ぶべきではないでしょうか」

しかし藤野氏は、第1部の最後になって意外な告白をする。

「私は法人のお客さまに向けて、コンピュータやAIが得意な仕事は任せ、人間にしかできないことを考えましょう、と提案してきました。しかし組織には、『テクノロジーに代替されていく仕事だとわかっていますが、私はこの仕事が好き』という方が大勢いらっしゃいます。そんな声を聞くにつれて、頭と心にズレが生じるようになりました。世の中の役に立ちたくて新しい働き方を提案してきたけれど、そのせいで苦しむ人を増やしてしまったのではないか、と感じるのです」

その不安定な感覚はまだ続いている、という藤野氏は、「テクノロジーが急速に進化するこれからの時代、私と同じような不安や葛藤は多くの人に訪れるのではないかと思います。そこで私は、みなさんより一足先に、自分がどうありたいか考えてみたいと思います」と説明し、話を終えた。



「直感・感性・身体性」を
キーワードに自由な議論を展開

第2部は、ワールドカフェ形式で参加者同士の議論が行われた。今回の「ワールドカフェ」では、1テーブルにつき4人ずつのグループに分かれ、12分間×3ラウンドで、模造紙に言葉を書き出しながらオープンで自由な会話をしていく。1ラウンドが終わると、1人を残して3人は別のテーブルへ移動し、新たなグループが編成されるので、さまざまな意見が混ざり合い、新鮮なアイデアが生まれることが期待できるというわけだ。

藤野氏が議論のテーマとして設定したのは、「直感・感性・身体性を大切にできる環境とは?」だ。藤野氏も参加者の1人として1つのテーブルに加わり、第1ラウンドが始まる。設定されたテーマに対して、「個性を大切にできる環境?」「余裕がある感じかな」など思い思いの意見が上がる。時間が経つにつれて場の雰囲気が温まり、あちこちのテーブルから笑い声が上がる。

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あるテーブルでは、藤野氏が「意思決定を先送りしようとするときって、脳が疲れていることが多い。直感が鈍っていることが無意識にわかっているから、自分の感覚が信じられないんだよね」と発言。そこに反応して「スケジュールに空きができても無理に埋めないようにしている」「惰性で人に会う予定は入れない」といった意見も。「休日に子どもと遊ぶ時間は大切だけど、100%真剣に向き合うことが求められるのでぐったりしてしまう」という声も上がった。

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またあるテーブルでは、「直感」という言葉に参加者が反応し、「直感とはいっても、経験から出てくることが多い」「良質な問いを立てて考えていると、ふっと直感がわく」と話す。

環境について考えるという緩い縛りはあるが、それが必須というわけでもない。キーワードから自由に発想を拡げられるのも、ワールドカフェの楽しさだ。話題が尽きない中で、制限時間となり第2部が終わった。

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藤野 貴教(Fujino Takanori )

株式会社働きごこち研究所代表取締役。ワークスタイルクリエイター。企業研修や講演を通じて、「働くって楽しい!」と感じられる働き心地のよい組織づくりの支援を実践。著書に『2020年人工知能時代 僕たちの幸せな働き方』(かんき出版)がある。

文/横堀夏代 撮影/MANA-Biz編集部