仕事のプロ

2018.03.12

メンズキッチンが証明する料理とビジネスの相関性〈後編〉

料理のスキルと仕事のスキルは正比例する

男性向けの料理教室「メンズキッチン」を主宰し、のべ4000人以上の男性を指導してきた福本陽子さんは、「料理ができる男性は仕事もできる確率が非常に高い」と語る。このような料理と仕事の相関性に注目し、社員研修のプログラムに料理を組み込む企業も増えつつある。後編では、「料理のスキルと仕事のスキルにはどんな共通点があるのか」や、「料理を通じて組織はどんな力を育成しようと考えているのか」についてお聞きした。

参加者を見て気がついた
料理スキルとビジネススキルの関係


福本陽子さんは、2010年にメンズキッチンを立ち上げ、7年以上にわたってたくさんの男性に料理を教えてきた。その中で気づいたことがあるという。

「料理はいうまでもなく、段取り力や柔軟性が求められる統合型のスキルです。例えば、ちょっと空いた時間に食器や鍋を洗ったり、三角コーナーにたまったゴミを捨てたりしておく人は、作業が立て込んできたときを想定して動ける見通し力のある人です。また、メンズキッチンでは3人1組になって1つのメニューを作るので、コミュニケーション力やリーダーシップも必要です。1人がリーダーになってメンバーがてきぱき動くチームもあれば、1人ひとりが好き勝手に作業をして後で大あわてするチームもあります。1度参加するとリピーターになってくださる方が多いのですが、1~2回目から無理なく流れるように料理ができる男性は、ビジネスでも実績を残している方が多いようです」

段取り力や柔軟性、コミュニケーション力などはいずれも、どのような仕事においても欠かせないスキルだ。女性に比べて男性は料理経験が少ないことが多く、料理は「何も考えずに条件反射でできる」ものではない。だからこそ、仕事でのやり方が調理の進め方にもにじみ出てしまうのかもしれない。

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料理とビジネスの関連性に
組織も注目し始めている


料理とビジネスの関係性に気づき、福本さんに研修の一環として企業内料理教室を依頼する企業も増えている。始まりはある人材派遣会社だった。まず福本さんが「料理スキルはビジネススキルに通じる」というテーマで講演を行い、参加メンバーはひと通り料理をした後にアイデア出しのブレーンストーミングを行ったのだが、普段の会議に比べてバラエティーに富んだ案が続々と飛び出した。この料理研修をきっかけに、福本さんは組織向けの料理研修プログラムを開発し、オファーに合わせアレンジを加えて提供するようになった。

依頼の内容は、業種や職種、研修の目的などに応じて大きく変わる。例えばある総合家電メーカーの料理研修は、「ゲーム性の高い内容でチーム力を高めたい」という依頼に応じて、レシピを渡さずにチームで知恵を出し合って作る内容で提供した。また、あるアパレルメーカーでは、食器のセレクトや盛りつけなど仕上がりの完成度が評価の対象となった。同じ料理を作るにしても、研修のゴールによって作り方は変わってくる。

「そして、業種・職種によって、料理との向き合い方もまったく違います。象徴的だと感じたのは、あるメーカー様向けの料理研修でした。部署ごとのチームに分かれて飾り寿司を作って頂いたのですが、設計部チームはレシピを設計図ととらえて、どんどん先取りで作業を進めていらっしゃいました。一方で営業部チームは、レシピを見るというよりは、周りの人と相談しながら完成させていきました。どちらがいいということではなく、仕事のしかたが料理のやり方にも現れる実例として、とても興味深かったです」

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福本 陽子(Fukumoto Yoko)

男子料理研究家・トータルフードプロデューサー。旅行会社、マーケティング会社での勤務を経て、2010年に男性向け料理教室「メンズキッチン」を立ち上げる。20代から70代までの幅広い男性から支持を受け、教室は毎回キャンセル待ちが出る人気ぶり。「料理とビジネス」の関係に着目する視点の鋭さが注目され、各企業内研修の一環として行う料理教室も話題に。その他、イベントや講演会などにも力を入れている。著書に『料理ができる男は無敵である』(サンマーク出版)がある。

文/横堀夏代  写真/ヤマグチイッキ