レポート

2017.12.20

仕事でクリエイティビティを発揮するための作法とは?

~KOKUYO 2018 WORKSTYLE FAIR セミナーレポート~

11月7日㈫~10日㈮の4日間、東京・品川のコクヨショールームにて、「KOKUYO 2018 WORKSTYLE FAIR」が開催された。今年のコンセプトは「止まらないオフィスへ」。新製品の発表・展示に加え、ワークスタイルに関するさまざまなセミナーが開催された。今回は、7日午前に行われたトークセッション『姿勢と仕事:身体を動かしながら働いて、健康+クリエイティビティ!』の様子をレポートする。

バイアスを破壊せずして、
イノベーションは生まれない

続いて、濱口氏が「イノベーション」をテーマに講演を行った。

【濱口氏講演概要】
まずは、イノベーションとは何か。イノベーションとは「見たことのないパターン」のことであり、「見たこと・聞いたことがない」、「実行可能である」、「議論を生む(反対/賛成)」ものである。見たこと・聞いたことがないものであっても、実行不可能であればイノベーションは起こらない。そして、見たこと・聞いたことがないものに対しては一般的に合意ができず、自ずと議論が生まれる。

では、イノベーションの「キッカケ」は何か。キッカケは、「バイアス(先入観)」の破壊である。例えば、こんな実験がある。放射線科医に人体のCTスキャン画像を見せ、瘤(腫瘍の可能性のあるもの)を探してもらう。その際に、画像に意図的にゴリラの絵を隠しておく。このゴリラの絵は、一般の人が見たらすぐに気づく(見える)レベルのものであるが、なんと放射線科医の83%には見えていなかった。「CTスキャン画像とはこういうものだ(そこにゴリラが見えるはずはない)」という先入観が、そうさせているのだ。毎日、大量の情報を習慣的に取り扱うと、専門家だからこそバイアスの罠にかかってしまう。実はビジネスの世界もバイアスだらけであり、そのバイアスを破壊しなければ、イノベーションは生まれない。

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続いて、「キッカケ」が生まれる場所はどこか。キッカケは、「構造的混沌モード(Structured Chaotic)の思考」から生まれる。脳の中には、構造的(Structured)な思考と混沌(Chaotic)とした思考の両面がある。「前者/後者」と比較しながら見ると、「左脳的/右脳的」、「データ・計算/イメージ・感覚」、「理論・設計/直感・偶発」、「再現性・合理性/面白さ・非合理性」、「サイエンス/アート」、「パソコンとマウス/紙とペン」、「一人で集中/仲間でワイワイ発散」、「画一性/ダイバーシティ」、「冷静に/楽しく」、「静的に/動的に」となる。

一般的なイメージから、私たちは「混沌(Chaotic)な方がクリエイティビティが高い」と考えがちだが、実は、構造的(Structured)と混沌(Chaotic)のバランスが良い中間の状態が、もっともクリエイティビティが高くなる。この状態が「構造的混沌モード(Structured Chaos)の思考」である。ただし、このモードを維持するようコントロールするのが非常に難しい。では、どうすればいいか。方法は複数あるが、主なプローチは3つ挙げられる。

1つめは、「両方を行き来する」こと。すると、必然的に中間を通る。例えば、構造的(Structured)な「リサーチをもとに思考する」という行為と混沌(Chaotic)の「1分間で結論を出す」という行為を交互に行うことで、クリエイティビティを高めることができる。これは、石川氏が述べた「収束思考と発散思考の両方を行き来することが重要」ということと重なる。

2つめは、「メディアを使う」こと。そのヒントが、ダイヤグラムとポンチ絵だ。構造的(Structured)なデータ・計算も、ダイヤグラムにすることで視覚的に理解でき、混沌(Chaotic)の方に近づく。一方、混沌(Chaotic)なイメージ図は、適当に描いたポンチ絵にすることで構造的(Structured)な方に近づく。メディアをうまく活用することで、より中間に近づけることができるのだ。

3つめは、「スタイルを変える」こと。一人で考えたりみんなで考えたり、座る位置を変えたり視点を変えたりと、かたちを変えることもとても重要である。

結論として、イノベーションを起こすため、クリエイティビティを発揮するためには、「Break the Bias(先入観の破壊)」と「Structured Chaos(構造的混沌モードの思考)」が不可欠だといえる(そして、コクヨのingはモードをコントロールできる椅子であり、クリエイティブになるには適している)。



クリエイティビティを高めるには、
思考も体も「動かす」ことが大事

石川氏と濱口氏の講演を受け、木下氏を中心にトークセッションが行われた。その中で石川氏は、「手を挙げるとポジティブになり、下を向くと理屈っぽくなるなど、体の動きや状態と脳の状態というのは相互に関係し合っている」と、体からのアプローチの重要性を強調。さらに、「ひらめきというのは、脳内にガンマ波が出た直後に起こりやすいことがわかっている。そして、ガンマ波というのは、ストレス状態の後にリラックス状態になったときに出やすいこともわかっている。つまり、クリエイティビティを発揮するには、『ストレス→リラックス』という順序が重要だ」と述べた。

また、濱口氏は「(自分を振り返っても)アイデアがよく思いつくのは、トイレの中、シャワーを浴びているとき、そして出張などの移動中。大事な要素が、物理的に移動する、状態が変わるということ。場所を移動することで、体を動かし、視覚からの情報が変わる。これが、クリエイティビティを高めるヒントなのではないか」と述べた。さらに、いつもあえて遠いトイレを使うという自らの習慣を紹介し、「トイレまで歩いて移動することに加え、トイレというのは姿勢が良くなり集中できる。だからと言って、ずっとトイレにいてもアイデアは浮かばない。やはり、行き来すること、移動することが大事」と述べた。

そして最後に木下氏が、「どうバイアスを外すか、私も日々自問自答している。今日のセッションから、クリエイティビティを高めるヒントがたくさん得られた。このヒントをもとに、オフィスをクリエイティブな場にするにはどうすればいいかを追求していきたい」と締めくくり、1時間半にわたるトークセッションは幕を閉じた。

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石川 善樹(Ishikawa Yoshiki)

ハーヴァード大学公衆衛生大学院修了。後、自治医科大学で博士(医学)取得。「人がよりよく生きるとは何か」をテーマとして、企業や大学と学際的研究を行う。専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学など。2017年、子ども向け理系絵本『たす』を刊行。近日『理想としての予防医学』が刊行予定。


濱口 秀司(Hamaguchi Hideshi) 松下電工(現パナソニック)入社後、米国のデザインコンルティング会社Zibaに参画。その後、米国のベンチャー企業のCOOなどを経て、2009年Zibaにリジョイン。2013年からエグゼクティブフェローを務めながら「monogoto」を立ち上げ、ビジネスデザインにフォーカスした活動を行う。


木下 洋二郎(Kinoshita Yojiro) オフィスチェアーを中心に、家具全般の先行開発およびアドバンスデザインを担当。人間工学や脳科学の視点から行動観察を行い、デザインとエンジニアリングを融合した開発手法でコクヨのイノベーションをリード。ドイツiFデザイン賞金賞、グッドデザイン賞等、受賞多数。

文・撮影/笹原風花