レポート

2017.12.20

仕事でクリエイティビティを発揮するための作法とは?

~KOKUYO 2018 WORKSTYLE FAIR セミナーレポート~

11月7日㈫~10日㈮の4日間、東京・品川のコクヨショールームにて、「KOKUYO 2018 WORKSTYLE FAIR」が開催された。今年のコンセプトは「止まらないオフィスへ」。新製品の発表・展示に加え、ワークスタイルに関するさまざまなセミナーが開催された。今回は、7日午前に行われたトークセッション『姿勢と仕事:身体を動かしながら働いて、健康+クリエイティビティ!』の様子をレポートする。

生産性が高まるオフィスづくりの
カギは、"クールかつラフ"

トークセッションの登壇者は、予防医学研究者の石川善樹氏、ビジネスデザイナー(monogoto CEO、Ziba Executive Fellow)の濱口秀司氏、コクヨ株式会社デザイナーの木下洋二郎氏の3名。まずは石川氏が、「働き方改革と姿勢の話」と題して講演を行った。

【石川氏講演概要】
予防医学の観点から「生産性の上がるオフィス」を考えると、不調を普通の状態に戻す「アプローチA」と、普通の状態からより好調にする「アプローチB」の2つのアプローチがある。なお、好調が長く続くと「好調疲れ」を起こしてしまうため、アプローチBは普通と好調とを行ったり来たりするアプローチである。
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アプローチAのポイントは、「働く人の泣き所をおさえ」「簡単にできて」「短期間で劇的な効果があり」「取り組んでいることが周りにわかり」「本人も自慢したくなるもの」であること。この5つのポイントを押さえることで、継続しやすく周囲にも波及しやすくなる。

オフィスワーカーの不調として一般的な、肩こりと腰痛を例に考えてみよう。肩こりと腰痛は姿勢の悪さから来るものであるが、坂本龍馬の写真を見てもわかるように、かつて日本人は姿勢が良かった。帯により腰を固定する和服の影響が大きかったのだろう。しかし、明治維新を機に洋服を着るようになってから、日本人の姿勢は崩れ、肩こりや腰痛に悩む人が増えたと考えられる。

「良い姿勢」をつくるポイントは、机と椅子の高さにある。腕を降ろして机に載せたときに肘の角度が90度になり、お腹と太ももの角度が90度より大きくなり(浅く腰かける程度。リンパや血液の流れが良くなる)、背もたれではなく「腰もたれ」がある、というのが理想(これを叶えるのが、コクヨのコンパクトチェアー『ピコラミニバック』である)。また、パソコンのモニターは、真ん中ではなく上部3分の1のあたりに自然に視線がいくような高さにするといい(ドライアイを防げる)。

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肩こり・腰痛が改善され仕事に集中できるようになると、「同じ姿勢はつらい」「(集中はできても)創造性の発揮はない」と、また次の課題が生まれる。人は下を向くと「収束思考」、上を向くと「発散思考」になることがわかっている。「収束思考」とは集中してロジカルに考えること、「発散思考」とはアイデアを創出することであり、仕事をするうえでは「両方を行き来すること」が重要である。つまり、自由自在に姿勢を変えながら収束と発散をくり返すことができるオフィス環境が求められる(これを叶えるのが、コクヨの新製品「ing」である)。

続いて、普通を好調に向かわせるアプローチBについて。そもそも、好調とはどのような状態かを考えていこう。ストレスとリラックスは、かつてはシーソーのような関係だと考えられていたが、最近の研究では「共存できる」ことがわかってきた。多くの現代人は、ストレスの度合いが大きくリラックスの度合いが小さい。一方、ストレスが小さくリラックスが大きいと、やる気が出ないという状態になってしまう(どちらも小さいと、社会人として機能しない)。

もっとも好調なのは、ストレスもリラックスも大きい状態。これはいわゆる「ゾーン状態」であり、スポーツ選手などが本番で大きな力を発揮するのはこの状態にあるときである。つまり、ストレスもリラックスも大きい状態をつくり出すことができれば、仕事の効率や生産性、そしてクリエイティビティを上げることができる。

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そこで、この観点からオフィスの環境を考えようというのが、私が今やっている研究だ。ストレスを「クールさ」、リラックスを「ラフさ」に置き換えて考えると、クールだがラフさのないオフィスはどこか落ち着かない。クールさもラフさもないオフィスは普通のオフィス、ラフさはあるがクールではないオフィスは昭和のオフィス...である。そして、クールかつラフで落ち着けるオフィスこそが、そこで働く人のパフォーマンスを最大にしてくれるオフィスである。

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結論として、「生産性の高いオフィスとは何か」を考えたとき、不調を解消するには「(良い姿勢を生み出す)良い椅子」がポイントに、好調を生み出すには「(クールでラフな)良い環境」がポイントになるといえるだろう。
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石川 善樹(Ishikawa Yoshiki)

ハーヴァード大学公衆衛生大学院修了。後、自治医科大学で博士(医学)取得。「人がよりよく生きるとは何か」をテーマとして、企業や大学と学際的研究を行う。専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学など。2017年、子ども向け理系絵本『たす』を刊行。近日『理想としての予防医学』が刊行予定。


濱口 秀司(Hamaguchi Hideshi) 松下電工(現パナソニック)入社後、米国のデザインコンルティング会社Zibaに参画。その後、米国のベンチャー企業のCOOなどを経て、2009年Zibaにリジョイン。2013年からエグゼクティブフェローを務めながら「monogoto」を立ち上げ、ビジネスデザインにフォーカスした活動を行う。


木下 洋二郎(Kinoshita Yojiro) オフィスチェアーを中心に、家具全般の先行開発およびアドバンスデザインを担当。人間工学や脳科学の視点から行動観察を行い、デザインとエンジニアリングを融合した開発手法でコクヨのイノベーションをリード。ドイツiFデザイン賞金賞、グッドデザイン賞等、受賞多数。

文・撮影/笹原風花