組織の力

2017.07.31

最新の脳科学とモチベーション理論を応用した人事評価制度〈前編〉

ギャップジャパンが導入した『Growth Mindset』とは

業界に、そして社会に変革を起こしてきたGap(ギャップ)。今でこそ一般化した「SPA(製造小売)」という概念を生み出したブランドである。同社は、従業員の仕事へ取り組む意識の改革を行うため、2014年に、最新の脳科学研究とモチベーション理論に基づいた新たなパフォーマンスマネジメント制度(GPS)を導入した。この制度を推進してきた、ギャップジャパン人事部シニアマネージャーの佐藤陽子さんに、新制度を導入した背景や制度の内容についてお聞きした。

大半の従業員が現状に甘んじて、
新たな挑戦をしなくなっていた

同社が導入していた目標管理制度(MBO)は、SAT(かなり高い達成度)、AT(十分に応えた達成度)、OT(目標達成)、BT(目標未達)という4つのレーティング(段階的業績評価)を用い、目標の達成状況に応じて評価を決定。そして人事部が報酬の割合を換算し、あらかじめ定めた正規分布率(ベルカーブ)に収めるように、報酬額も配分していた。

「具体的には、全体の約6割程度の社員がOT(目標達成)という評価になっていました。実は、これが問題でもありました。というのも、ここに評価されたスタッフのほとんどが普通に業務をこなしていれば、OTがとれるので、現状に満足してしまうという課題がありました。しかし会社としては、『このままでいいのか』『もっとやれることはないのか』ということをつねに考え、そこに向き合ってもらいたい。そういう高いモチベーションで常に達成困難な目標にチャレンジしてもらうために、この新しい制度(GPS)を導入したというのも背景としてあります」

「これまでの評価制度では、結果に重点が置かれていましたが、GPSではさらに達成までのプロセスや姿勢が重要視されます。どれだけチャレンジしたのか、失敗しても、そこから何を学び、どのように立ち直ったのか、そのプロセスをしっかり評価します。部下には果敢にチャレンジする積極性が、上司には、部下の成長を見逃さず、育てていく力が求められるようになりました」

GPSは、従業員の成長を促し、それが企業の成長へと結びついていく制度だ。従来の目標管理制度にはなかった、新たなチャレンジやプロセスを重視している点からも、トレンドの移り変わりが激しく、新たなイノベーションが求められる現代のビジネスにマッチした人事評価制度といえそうだ。そして、それは評価制度の運用変更を理解させるということではなく、『Growth Mindset』によって従業員の仕事への取り組み意識をポジティブに変えていくことが重要だった。

後編では、GPSのより具体的な特長と、導入後の社内の変化などについてお聞きする。
文/西谷忠和 撮影/石河正武