仕事のプロ

2017.06.12

日本人がグローバルに活躍するためには〈前編)

パナソニックで学んだ米国企業との付き合い方

少子高齢化や人口減少が進む日本において、昨今企業のグローバル化が急速に加速している。海外赴任や、外国籍スタッフのマネジメントなどの機会も増え、グローバルビジネスへの対応が求められるようになってきた。そこで、いち早くグローバル事業を展開してきたパナソニックにおいて、主任、課長、グループ会社の副社長などを歴任し、米国合弁会社の設立や現地経営責任者、欧米企業とのM&Aなどを経験してきた米山不器氏に、欧米と日本とのビジネスでの違いや、グローバル社会でビジネスを進めていくうえで重要なことを伺った。

アメリカ人は合理的に物事を決め、
日本人は情緒的に決断してしまう

「学生の頃から、『海外で働きたい』という夢をもっていました」と話す米山氏。それを叶えるために、海外での高い製品競争力があって、海外勤務のチャンスが多い松下電器産業株式会社(現パナソニック)を選び、就職。入社してすぐに海外トレーニーに選ばれアメリカで研修を受け、その後社内留学制度を利用し、2年かけてMBAも取得した。

アメリカへの最初の赴任では、グループ会社が海外企業との合弁会社の立ち上げを計画しており、メインネゴシエーターである上司を補佐する立場として、交渉に携わった。新しく設立した合弁会社においては、日本人社長のサポートと、日本人と現地スタッフとが円滑にコミュニケーションを図れるように通訳なども行った。

こうしたビジネスでの経験を通じて米山氏が感じた、日本人とアメリカ人との大きな違いとは、どういうモノだったのだろうか。

「一番は、問題を解決する発想の違いでした。アメリカ人はつねに合理的に物事を考え、問題を解決しますが、日本人は合理性よりも、感情面を優先して物事を決めてしまう傾向があります」

アメリカなら、どんなに若くても、いいアイデアであれば、認めてもらえる。だから20代であってもベンチャー企業を立ち上げて、成功しているケースが多い。最近は、日本でも若くして起業する人が増えてきているが、一昔前までは、内容が優れていても若いというだけで「あいつは気に食わない」とか「生意気だ」という理由で評価されないことが少なくなかった。年功序列の世界で、「出る杭は打たれる」という文化は、その弊害の一つといえるかもしれない。



日本人なら気にならない仕草や表情が、
外国人との交渉では緊迫した状況の事態を招くことも

また、日本人同士なら気にしない仕草や表情が、アメリカ人などの海外の人たちとのやりとりで、緊迫した状況を招く恐れもあるという。

「交渉相手である海外企業の代表から厳しい要望を突きつけられて、日本企業の代表が苦笑いをしてしまって・・・すると、相手は机をたたいて『こんなに真剣に話しているのに、お前たちは笑って、オレをバカにしているのか! オレはシリアスなんだ! 』と怒ったことがありました。まさに、文化の違いを思い知らされた瞬間です。最後は、なんとか無事に契約を結ぶことができましたが、事前に配慮すべきだったと後悔しました」

また、欧米企業から学ぶべきことも多く、その一つが契約の際に、とことん話し合い、契約破棄の細かい条件までその場で決めてしまうということだ。

「日本企業だったら、契約を優先して先送りしそうな問題も、アメリカ企業は時間をかけて、契約に関わるあらゆる内容をつめ、一言一句契約書に書いていきます。だから、日本ならシンプルな契約書も、アメリカ企業との契約だと非常に分厚いものに。当然、時間もかかります。当時は、この慣習を理解できなかったのですが、実際に『契約解消』となってしまったときに役に立つんですよね。手順は契約書をみて、その内容通りに進めていけばいいわけですから。たとえ、企業同士が感情的な対立によって決裂しても、ちゃんと客観的なものがある。西洋の知恵だと思いました」

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米山 不器(Yoneyama Fuki )

1979年松下電器産業株式会社(現在パナソニック株式会社)に入社。国内営業、コロンビア大学MBA留学、米国合弁会社の設立、米国の現地経営責任者、欧米企業のM&A、海外営業などに従事。その間に、アメリカには7年間駐在。その後。2008年アメリカの計測器メーカーにヘッドハントされ、日本法人社長に就任。2016年からは韓国の事業責任者を兼務し、日韓の計測器販売の責任を持つ。業績を立て直し、2017年1月に退職。2017年2月から医療カメラやスマートフォンなどに搭載されているCCDやC-MOSセンサーの検査装置の世界トップメーカーである株式会社インターアクション社にて執行役員としてリーダーの育成に取り組んでいる。

文/西谷忠和 撮影/ヤマグチイッキ