仕事のプロ

2017.05.22

長野県上田市発信!地域活性化のメソッド〈前編〉

地域でワクワク働ける社会をつくる

地方の人口減少が深刻化し、各自治体は労働力や税収の確保に向けて、地域活性化のためのさまざまな取り組みを始めている。しかし、人口10~20万人の中規模都市では目に見える成果が出ていないのが現状だ。このような現状の中で、東京など大都市からの移住者が増え続けているのが長野県の上田市。市内での起業も増え、町の活性化が始まっている。上田市変貌の一端を担うのが、「地域でワクワク働ける社会づくり」というビジョンのもとに活動する組織HanaLab.(ハナラボ)だ。代表理事の井上拓磨氏に、HanaLab.が実践してきた地域活性化の取り組みについてお伺いした。

3つの拠点から
地域の社会課題解決にコミットする

HanaLab.は、長野県内初のコワーキングスペースとして上田市常田に2012年に誕生した。ハナラボとは「いろいろな花が咲く工房」といった意味合いで、ワーカーの個性を花に見立てて名付けられた。現在では、「HanaLab.TOKIDA」「HanaLab.UNNO」「HanaLab.CAMP」という3つの拠点があり、それぞれ少しずつ異なる機能を担っている。

HanaLab.TOKIDAは、コワーキングスペースとして地域で起業を目指す人材やNPO創設者などが利用している。コワーキングスペースとシェアオフィスに加えて託児所を併設するHanaLab.UNNOでは、子育て世代の女性が起業や復職を目指しチーム単位で協力し合いながら働く「ママカラ」というプロジェクトが行われている。そしてHanaLab.CAMPには、県内外の様々な業種の企業が入居するシェアオフィスがある。こちらの店舗にはカフェが併設されており、営業時間内であれば一般の方も利用できる憩いの場所となっている。HanaLab.はこの3つの拠点を統合する組織で、全体として上田市の人材活用のインフラを担っている。

HanaLab.の3つのスペースについて簡単に紹介するだけでも、この組織が多様なテーマに取り組んでいることが伝わる。井上氏はHanaLab.をつくる際、どのような問題意識を感じていたのだろうか?


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ビジネスの動きが速い近年は
人材のネットワークがないと生き残れない

「実は、地域課題を解決しようと思って立ち上げたわけではないんです。そもそも、その時点では上田市が抱える課題に気づいてもいませんでした」

HanaLab.を始めたきっかけについてお伺いすると、井上氏の口からは意外な言葉が飛び出した。井上氏はもともと愛知県名古屋市出身で、信州大学卒業後は東京の企業で働いていた。妻の故郷である上田市への移住をきっかけにフリーランスとなり、モバイルコンテンツの企画・制作に携わる中で、「地域のネットワークがないと困る」と強く感じたという。

「ちょうどiPhoneが爆発的に普及しだした時期で、ガラケーのコンテンツ制作を手がけていた僕は、自分が携わっているビジネスがみるみるうちに失速していくのを体感しました。産業寿命がどんどん短くなっている今の時代は、1人で仕事を続けるのは厳しいと痛感しましたね。いろいろな人とネットワークをつくり、雑談をしたり仕事の悩みを話し合ったりしながら、新しいアイデアをハイスピードでビジネスにつなげていくことが必要だと思ったのです。当時は地域に知り合いが少なかったので、自分が動いてコミュニティをつくらなければダメだと思いました」

そこで井上氏は、移住後に知り合った同年代の仲間と共に、異業種交流コミュニティを結成した。HanaLab.の前身となる「ループサンパチ」である。イベントや交流会の開催に取り組む過程で、ネットワークづくりは急速に進んだ。しかし井上氏は、時間が経つにつれてこの活動に限界を感じるようになったという。

「確かにさまざまな業種の方とネットワークをつくることはできましたが、だんだん決まったメンバーしか参加しなくなってしまったんです。上田市の人口は16万人ですから、そもそも異業種交流に興味を感じる層は限られています。そして顔ぶれが固定化されると、新しい人が入りづらい雰囲気が形成されました。これでは新しい動きやビジネスは生まれないな、と痛感し、別の形を模索し始めました」



井上 拓磨(Inoue Takuma)

愛知県名古屋市生まれ。信州大学大学院を卒業後、大日本印刷株式会社に勤務し、液晶テレビ部材の新工場立ち上げに従事。退社後、上田市に移住し、フリーランスとしてモバイルコンテンツの企画・制作に携わる。2012年にHanaLab.を創設。HanaLab.の取り組みは、内閣府の「新しい公共の場づくりのためのモデル事業」などに採択され、2013年には信州協同大賞優秀賞を受賞している。

文/横堀夏代 撮影/HanaLab.