仕事のプロ

2016.07.21

次世代型"クリティカルワーカー"を育てる〈後編〉

21世紀に求められる人材・能力とは?

前編では、(株)ワークスアプリケーションズが実施する“能力発掘型インターンシップ”により、同社がクリティカルワーカーの原石を見いだし、同時に社会を支える次世代育成をも手がける姿を紹介した。後編では、いま求められる「21世紀型キャリア教育」について、さらに、これからの社会や組織で求められる能力や人材像について、引き続き人材開発室長の佐藤文亮さんに伺った。

自ら問いを立て、あるべき社会を考える
創造的な“人”にこそ価値がある

ワークスアプリケーションズが提供する大学生を対象にした基礎教養講座「パトスロゴス」は、新しい価値を創造するために必要な知識や教養の習得を目的とした全7回の講座だ。ロジカルシンキングやデザインシンキングなどの思考法、人類の発展の歴史、学問の存在価値、企業の存在意義などをテーマに、ディベートやディスカッションを通して主体的に学んでいく。すでに国内の各大学で取り入れられ、名古屋大学や立教大学などでは単位認定講座として開講されている。
講師を務める佐藤さんが常に学生に伝えているのが、「主体的に学ぶためには、自ら問いを立てることが重要であり、出会う問いによって成長曲線が変わる」ということ。「私たちが生きる21世紀の日本には、明確な答えはおろか、参考にできるものすらない時代。自分自身で“社会はこうあるべきという理想像”を描き、それが実現する製品やサービスを生み出していく必要がある。しかし、インターンシップを提供していて感じるのは、自分で理想を描ける学生が年々少なくなっているということ。理想を描けないというのは、問題発見ができていないとも言い換えられるが、それは、もとより社会や周囲に対する関心が希薄になってしまっているから。そのため、彼らの日常の中にこそ、自分と社会を接続して考える機会が必要だ」というのが、佐藤さんの考えだ。
今ある仕事の多くは、遠くない未来に、AI(人工知能)をはじめとした機械に取って代わられると言われている。仕事がなくなることを危惧する前に、自ら仕事を創り出す力、ゼロから1を生み出す力を身につけた“人”を育てることが急務である。それは、向き合うべき問いを自ら発見し、解決の道筋を考えることができる力を身につけた人で、そしてもちろん、自分自身がそのような人材になることが重要だと、佐藤さんは語る。
「イノベーションを起こしたければ、つまり、ゼロから新しい価値を創造したければ、常に自分を含む“人”の集合体である社会に関心を持ち、アイデアを生み出さなければなりません。そしてもう一つ、最新のテクノロジに強い関心を持たなければなりません。産業革命時代であれば、電気や蒸気など自然界のエネルギーを利用するために、化学や工学、物理学などの学問領域が進歩して、新しい時代が切り拓かれてきました。そして、こうしたテクノロジを先んじて学び、製品やサービスに取り入れた国が、先進国として発展してきました」
「現代であれば、情報革命の真っ只中で、AIやIoT(Internet of Things)、AR(拡張現実)、VR(バーチャルリアリティ)など、人間の思考や五感、行動などと伍する技術が生まれてきています。それらに関心を持って、その本質と影響範囲をしっかり考えていくべきです。新しい価値は、既存のルールや枠組みを破壊する最新テクノロジの掛け合わせによって生まれます。だからこそ、最新テクノロジと向き合い、どのような社会を創っていくべきかを、真面目に考えられる人を増やす必要があります。私たちが提唱する“21世紀型キャリア教育”は、こうした新たな価値を創造するために、思考力や知識習得の必要性に気づく機会を提供するためのものなのです」

本を通して視野を広げ、
未知への想像力を養う

学生に限らず社会人にも、21世紀型キャリア教育の基本軸はあてはまる。仕事におけるアウトプットの質を高めるために具体的にできることとして、佐藤さんは「とにかくたくさん本を読むこと」を挙げる。
「すべてのアウトプットはインプットに依存しますから、まずはインプットを増やすことが重要です。書籍は過去の偉人の知の集積であり、そこには自分が知らない世界が広がっています。また、長期間同じ組織に属していると、そこでしか通用しないルールや凝り固まった価値観にいつしか染まってしまうものです。それを打破して柔軟で豊かな発想力を手に入れるためには、外の世界に触れ、想像力を身につけることが必要です。あらゆるジャンルの本を読むことは、そのためにも非常に効果的です。多様な価値観に触れ、自分とは異なるものや未知のものを知ることは、とても大切なことだと考えています」
文/笹原風花 撮影/ヤマグチイッキ