組織の力

2016.06.28

「働きがいのある会社」調査から見える、成長企業の法則〈前編〉

なぜ企業にとって「働きがい」が重要なのか?

「従業員一人ひとりの働きがいを高めるための取り組みは、企業の業績に大きく影響し、ひいてはその企業が生きぬく力になり得ます」と語るのは、「働きがいのある会社」調査を手がける機関Great Place to Work® Institute Japanの今野敦子シニアコンサルタントだ。「なぜ働きがいが企業の成長や生き残りと関わってくるのか」、「『働きがいのある会社』とはどんな組織なのか」をお聞きした。

報酬や福利厚生だけでは
従業員の離職を食い止められない


「働きがいのある会社」調査は、アメリカで1998年に実施されたのをきっかけに現在では世界50か国以上で実施されている、企業に向けた「働きがい」に関する意識調査だ。調査を行っているのは、各国に設置されたGreat Place to Work®Institute(以下GPTW)という機関だ。調査に参加を表明した企業の従業員と経営・管理者に向けてアンケートを実施し、点数式で評価をつけている。評価結果は、国ごとの「働きがいのある会社」ランキングとして経済誌やWEBなどで紹介される。

そもそも、この調査がアメリカで行われ始めた理由や背景はどこにあるのか。Great Place to Work®Institute Japanの今野敦子シニアコンサルタントは次のように語る。
「アメリカでは、日本よりはるかに雇用の流動化が進んでおり、複数回の転職はビジネスパーソンの間で当たり前になっています。しかし経営側からみると、高いスキルを備える優れた人材が他企業へ流れてしまうのは大きな損失になります。ですから、離職率が高いアメリカといえども、従業員の定着率をいかに高めるかは、企業にとって一大テーマなのです」


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従業員の定着率を上げるために企業がこれまで行ってきたのは、報酬を上げたり、福利厚生制度を充実させたりすることだった。この方法は一定の成果を上げたが、大きな弱点もあった。よりよい条件が他企業から提示されると、従業員は簡単に職場を替えてしまうのである。
多くの企業が離職率の高さを問題視する一方で、従業員の定着率が高い企業も少なからずみられた。GPTWの設立者であり、労働問題を専門とするジャーナリストでもあるロバート・レベリング氏は、なぜこのような違いが生じるのかと考え、さまざまな企業に勤める約3000人の従業員に職場に関するインタビューを行ったという。そこで浮かび上がってきたのが「働きがい」という観点だった。

「たくさんの従業員から話を聞くなかでレベリングは、従業員の定着率が高い企業が持つ共通要素を見出しました。また、それらをひと言でまとめると『働きがい』という言葉に集約できることに気づきました」。そこでレベリング氏は、働きがいのある企業を増やし、よりよい社会を実現することを使命として、さまざまな企業の調査・評価を行う取り組みを開始した。これが「働きがいのある会社」調査の始まりである。

「働きがいのある会社」調査は、全世界共通の方法で行われている。具体的には、レベリング氏のインタビューからわかった働きがいにつながる5つの要素(信用・尊敬・公正・誇り・連帯感)を軸にした評価項目をもとにアンケートをつくり、従業員に答えてもらうやり方をとっている。また経営・管理者に対しては、図の9つのエリアに関する設問に沿って回答を求める。


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つまり、「従業員の声」と「会社の施策」の両面から評価を行っているわけだ。ただし評価配分は均等ではなく、従業員へのアンケートを3分の2に設定している。「評価配分に差をつけているのは、従業員の声を重視しているからです。企業の内情や雰囲気は実際にそこで働く人でないとわからない場合が多いと考えています。役員から契約社員、アルバイトスタッフまで、さまざまなポジションの従業員に向けてアンケートを実施しています」


文/横堀夏代 撮影/ヤマグチイッキ