組織の力

2016.06.23

チャレンジ精神を忘れない、サイバー流の人材育成とは?〈後編〉

トライ&エラーを高速回転させる社風

強い企業文化を持ち、チームで大きな成果を出し続けるサイバーエージェント。前編では、その社風を生み出す核となる人材育成のこと、採用に関することを伺いました。後編では、次々と新しい事業を生み出し、なおかつ「挑戦した敗者にセカンドチャンスを」というミッションステートメントを持ち、トライ&エラーできる環境作り、組織の制度などについて、社長室室長の胆畑匡志さんに伺った。

新規事業を生み出す
チャンスの仕組み化

次々と新規事業を生み出し、失敗を恐れずに撤退する。スピード感がある業界だからこその宿命とはいえ、新しいアイデアを出し続けるパワーは並大抵のことではないはず。
 
「新規事業プランコンテストや、会社の制度改革案など、全社員が提案できる機会を作り、いいものは採用して、実行する仕組みが整っているのは大きいかもしれません。たとえば、月一回は誰もが事業プランなどを出せる『NABRAの日』というのがあります。これはサイバーエージェント全体で行っているものです。課題を感じていること、持っているアイデアをアウトプットしていく仕組みが社内に整っているんです」
 
アイデアがあっても、なかなか社内で発言できるチャンスがなく、個人の中で眠らせてしまうことが一般企業では多い。サイバーエージェントでは、眠ってしまいがちなアイデアを頻繁に出していく文化が根づいているようだ。
 
「『NABRAの日』から生まれた事業はまだ無いのですが、毎月、役員会に10案ぐらいはあがってきています。良いプランがあれば、タイミングを逃さずに実行できる仕組みがあるんですね。『NABRAの日』以外にも、取締役が選出したメンバーで新しい事業を考える『あした会議』をしたり、古い仕組みや事業を見直す『捨てる会議』なんかもあります。常に変化して行く、停滞させない。そのために必要な仕組みを持っていることが、誰もが次々とチャレンジできる企業文化の土台なのかもしれません」
 
インターネットという業界特有なものかもしれないが、とにかく話を聞いていてスピード感がすごい。事業を生む決断も、終わらせる決断も早く、また一社員が、プランを提案できる機会があるのも珍しいが、その回数も多く感じる。今、インターネットに限らず、スピードのある方向転換を求められていると感じている業界は多いはずだが、停滞しない、マンネリ化しないための仕組みを持っている企業はどれだけあるだろう。
 
「新規事業や子会社の撤退ラインも明確です。特例として大型投資を伴う注力事業以外は基本的に事業立ち上げから1年半で黒字化。できなかったら撤退。営業利益額によってJ1からJ10までランクわけされています。四半期連続で減収減益になったら撤退、もしくは責任者の交代というルールもあります。新規事業を大量に創る制度やカルチャーがある会社にとって、この撤退基準を決めておくことって、すごく大切なんですね。社長をやってみるとわかりますが、何十億とはいかなくても、黒字化している状態であれば、これからやるんだ! って思っていますから。自ら「辞めます」とは絶対にいえない。だからこそ、基準をあらかじめ明確にしておくことが大切なんです」
 
 
 
1_org_010_01.jpg
 
「事業と人材はセットなんです。素晴らしい事業プランが出来たとしても、社内に担当できる人材がいなければ始まりません。「この事業を誰が実行するのか」まで見えると、事業が軌道に乗るリアリティが出てきます」
事業プランを提出するのだから、もちろん本人が責任者になるはず……と思っていたら、そこは別らしい。取締役が選出したメンバーだけが参加する『あした会議』では、事業プランと責任者をセットで提案するのが条件。その事業を任せるには誰が適任かという視点で提案されるらしい。
 
「『あした会議』に選ばれるメンバーはすでに何かの責任者なので、ほかの誰かに任せる新規事業を練る場合が多いんですね。逆に『NABRAの日』で出てきた案は本人が「リーダーになりたい!」といった思いが強いんですが、まだ実行されたプランはありません。ただ、アピールし続けることで、取締役の目にとまることは確実です。やる気のある人なら、新規事業立上げ時の責任者として名前にあがる確率もあがるでしょう」
 
新規事業を任せるとは、そう簡単ではない。ただ、思いはあるのに……といった社員の声を潰さず、取締役との距離感を縮めることができる仕組みがあることで、個人の能力や思いを引き上げていくのも、人材育成のひとつなのだ。
 
 
文/坂本真理 撮影/ヤマグチイッキ