レポート

2016.06.06

ビジネスモデル・キャンバスでイノベーションを起こす〈後編〉

イヴ・ピニュール氏が語る、新しいビジネスモデルを成功させるには

去る4月5日、多摩大学大学院と、品川エリアの企業がコラボレーションして、都市型のイノベーションを考え発信していく場として「品川塾」のオープニングイベントが開催された。約300名の参加者が集まる中、基調講演者は、『The Business Model Canvas(ビジネスモデル・キャンバス)』の共同開発者として世界的に著名なスイス・ローザンヌ大学教授/多摩大学大学院グローバルフェローのイヴ・ピニュール教授。ビジネスモデル・キャンバスの重要性や、世界での活用例などを紹介してくれた。

コミュニケーションや
デザイン思考のトレーニングにも

2年前からオンラインによる『ビジネスモデル・キャンバス』のトレーニングが受けられるようになった。今では世界中の企業が取り入れている、このキャンバスはビジネス創出だけでなく、企業内での様々なシーンで役立っているという。
 
「マスターカードでは、社員1000名がビジネスモデル・キャンバスのトレーニングを受けています。その理由を聞いてみると、他部署同士のデスカッションに共通言語ができるからといいます。視覚的であり、直感的なキャンバスは、普段は接点のない部署間のコミュニケーションツールになっているんです。また、競合他社の理解、顧客の理解にも使われています。この図に既存のサービスを書き込むことで、表面的にはわからないビジネスモデルを探り当てることもできるんです」
 
「新しいビジネスを創るときは、関わる人すべてが共通の言語で話せることが大切。そして、全員がデザイン思考を身につけていくことです。このビジネスモデル・キャンバスは、そういったニーズに応え、新製品、サービスの開発の一助になるツールなのです」
 
イヴ氏が語った、変化の激しい時代に適応した、ビジネスモデルの変換や新たなビジネスモデルの必要性という危機感は、まさに、前編で紹介した「品川塾」が目指す都市型イノベーションの考え方と共通する。今後、企業は変化し続けなければ生き残れず、“常に仮説を立て、検証し、改善し、方向転換していく”ことが求められる時代に突入した。しかも、そのスピードは年々早まると予測される今。
これまでは隣の部署、異業種、大学の研究所などと関わらなくても、利益を上げることができた。しかし、これからは、縦横断的に他部署や他業種と交わりながら、新しいビジネスを創出していかなくては、コダックやノキアのように手遅れになる可能性も否めない。
他文化間のコミュニケーションの質を上げ、正しいビジネスモデルを導き出すスキルが欠かせない時代なのだ。
 

イヴ・ピニュール(Dr. Yves Pigneur)

スイス・ローザンヌ大学教授/多摩大学大学院グローバルフェロー。ビジネスモデル・イノベーションの世界的権威。21世紀の戦略とイノベーションに革命的な影響を与えているスール「ビジネスモデル・キャンバス」をアレックス・オスターワルダー氏と共に開発。アレックス氏との共著『ビジネスモデル・ジェネレーション』(翔泳社刊)は、世界で100万部を越えるベストセラー。マネジメント思想界のアカデミー賞といわれる、世界で最も影響力のある経営思想家50人を選ぶ「THINKERS50」の最新ランキングで15位(2015年)。同時に、戦略部門の部門アワードも受賞。最新作は、魅力的な顧客価値を作る指南書『バリュー・プロポジション・デザイン』 (翔泳社)。

文/坂本真理 写真/栗木妙