レポート

2016.06.06

ビジネスモデル・キャンバスでイノベーションを起こす〈後編〉

イヴ・ピニュール氏が語る、新しいビジネスモデルを成功させるには

去る4月5日、多摩大学大学院と、品川エリアの企業がコラボレーションして、都市型のイノベーションを考え発信していく場として「品川塾」のオープニングイベントが開催された。約300名の参加者が集まる中、基調講演者は、『The Business Model Canvas(ビジネスモデル・キャンバス)』の共同開発者として世界的に著名なスイス・ローザンヌ大学教授/多摩大学大学院グローバルフェローのイヴ・ピニュール教授。ビジネスモデル・キャンバスの重要性や、世界での活用例などを紹介してくれた。

新しいビジネスモデルは、
どうして成功したのか?

基調講演の中盤では『ビジネスモデル・キャンバス』を使って、優れたビジネスモデルのケースが紹介された。大企業ではネスレ。中小企業ではスポーツの電動自動車のテスラモーターズ、建設業者に専門工具をオンデマンドで貸し出すヒルティ。業種も規模も様々だが、ビジネスモデルの差別化によって、新たな顧客ニーズを掴み、収益をアップさせている企業である。
 
「ネスレは皆さんもご存知のように、小売店にコーヒーを卸すBtoBがメインの会社でした。ですが、近年はネスレのコーヒーが企業内や家庭でも飲まれていますね。そう、ネスプレッソのコーヒーを入れられるマシーンと挽きたてのコーヒーを密封したカプセルをつくり、家庭や企業といった、新しい販路を開拓したんです。そして、そのカプセルを売るための店舗もつくりました。今では、世界のあちこちにネスプレッソブティックがあり、20種類以上のカプセルを売っています。そうやって、小売店からだけでなく顧客からも定期的に売上げをあげることができるようになり、この、カプセルという一つの商品だけで、実に50億スイスフランもの収益を生み出しました。これこそ、新しいアイデア、新しいビジネスモデルです」
 
 
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また、スポーツ電気自動車のテスラモーターズは、これまでの常識を破り、特許をオープンにした。これもビジネスモデルだという。「特許をオープンにすることで、他の自動車メーカーが、電気自動車をつくり始めれば、充電スポットなどのインフラ整備が一気に加速します。インフラが整うことでユーザーが増える。そして、別の自動車メーカーの車も売れるかもしれませんが、テスラも利益を得る可能性が高まると考えたのです」
 
 
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特許などをオープンにする風習はIT業界では珍しくない。シリコンバレー発の自動車メーカーらしい手法でもある。
また、既存のビジネスモデルをチェンジした、建設業者が使用する専門工具の製造メーカーの話も興味深い。
 
「ヒルティは、建設業者向けの専門工具などをつくっている会社です。これまでは、建設業者が工具を買ってくれることで利益を上げてきました。でも、それだけでは他メーカーとの競争が激化するばかり。そこで、現場の話をよく聞いてまわってたんです。すると、建設が多い時期は大量の工具が必要ですが、いらない時期もあること。また、工具の修理やメンテナンスの手間や、在庫管理のコスト面への不満もあることがわかりました。そこで、ヒルティが考えたのが、工具を必要な期間だけリースするサービスです。これは、お客様にとっての不便を解消しながら、ヒルティの売り上げも安定し、収益もアップしたビジネスモデルですね」
 
 

イヴ・ピニュール(Dr. Yves Pigneur)

スイス・ローザンヌ大学教授/多摩大学大学院グローバルフェロー。ビジネスモデル・イノベーションの世界的権威。21世紀の戦略とイノベーションに革命的な影響を与えているスール「ビジネスモデル・キャンバス」をアレックス・オスターワルダー氏と共に開発。アレックス氏との共著『ビジネスモデル・ジェネレーション』(翔泳社刊)は、世界で100万部を越えるベストセラー。マネジメント思想界のアカデミー賞といわれる、世界で最も影響力のある経営思想家50人を選ぶ「THINKERS50」の最新ランキングで15位(2015年)。同時に、戦略部門の部門アワードも受賞。最新作は、魅力的な顧客価値を作る指南書『バリュー・プロポジション・デザイン』 (翔泳社)。

文/坂本真理 写真/栗木妙