レポート

2016.06.06

ビジネスモデル・キャンバスでイノベーションを起こす〈後編〉

イヴ・ピニュール氏が語る、新しいビジネスモデルを成功させるには

去る4月5日、多摩大学大学院と、品川エリアの企業がコラボレーションして、都市型のイノベーションを考え発信していく場として「品川塾」のオープニングイベントが開催された。約300名の参加者が集まる中、基調講演者は、『The Business Model Canvas(ビジネスモデル・キャンバス)』の共同開発者として世界的に著名なスイス・ローザンヌ大学教授/多摩大学大学院グローバルフェローのイヴ・ピニュール教授。ビジネスモデル・キャンバスの重要性や、世界での活用例などを紹介してくれた。

既存のビジネスモデルには
賞味期限があり、終わりが来る

「ビジネスモデルには賞味期限があります」。基調講演の冒頭で、そう述べるイヴ・ピニュール教授。彼は『THINKER 50』の共同受賞者であるアレックス・オスターワルダー氏と共に、世界で100万部を売り上げた『Business Model Generation(ビジネスモデル・ジェネレーション)』を世に生み出した人。そして、今ではGE、ネスレ、インテル、コカ・コーラなど、多くの先進企業で採用されている『The Business Model Canvas(ビジネスモデル・キャンバス)』の共同開発者でもある。
 
「皆さん、コダックショックは記憶に新しいでしょう。14万人が働く、大企業でしたが、今は倒産寸前です。そして、ノキア。携帯電話の世界シェアは一時期50%を占めていましたが、今は3%まで減少。どちらの企業も一時的には競争優位な地位にのぼりつめました。でも、今は……どうでしょうか? しかし、これは驚くことではありません。世界中で起っていることなのです。ビジネスモデルには賞味期限がある。過去のビジネスモデルは、期限が切れたのです」
 
世界を震撼させた大企業のニュース。会場にいる誰もが記憶に新しく、また、思い当たる日本企業も数々あり、イヴ・ピニュール教授の話に吸い込まれていく時間が始まった。
 
 
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「今は、世界の大企業も課題を考えなければいけない時代です。周知の環境予測だけでは、変化の激しい時代に適応できません。コダックもノキアも、次のビジネスモデルが必要でした。今後はもっと多くの企業がビジネスモデルの変換、そして日々変わっていくことが必要になってきます」
 
 
 

スピーディな改善や修正、
時に方向転換が求められる

では、新しいビジネスモデルはどのようにして生まれるのか? またどうやって考えれば良いのか? 15年に渡り、ビジネスモデルを生むため研究を行ってきたイヴ・ピニュール教授曰く、「正しいツールを使うことである」と話す。そして、そのツールこそがビジネスモデル・キャンバスやバリュー・プロポジション・キャンバスなのだ。
 
「まず、最初にお話したように、新しいビジネスモデルを創ることに、どの企業も意識的であることが第一です。日々、考える。そして、出てきたアイデアをすぐにカタチにするのではなく、試し、改善、修正、方向転換をしていくことが何よりも重要になります。そのプロセスを視覚化し、チームで共有するツールとして生まれたのが『ビジネスモデル・キャンバス』や『バリュー・プロポジション・キャンバス』です」
「視覚的なツール」であり、「デザイン思考のテクニック」や、「顧客からのフィードバック」を盛り込んだ『ビジネスモデル・キャンバス』によって、多くの大企業が新たなビジネスモデルを生み出し、成功している。
 
 

イヴ・ピニュール(Dr. Yves Pigneur)

スイス・ローザンヌ大学教授/多摩大学大学院グローバルフェロー。ビジネスモデル・イノベーションの世界的権威。21世紀の戦略とイノベーションに革命的な影響を与えているスール「ビジネスモデル・キャンバス」をアレックス・オスターワルダー氏と共に開発。アレックス氏との共著『ビジネスモデル・ジェネレーション』(翔泳社刊)は、世界で100万部を越えるベストセラー。マネジメント思想界のアカデミー賞といわれる、世界で最も影響力のある経営思想家50人を選ぶ「THINKERS50」の最新ランキングで15位(2015年)。同時に、戦略部門の部門アワードも受賞。最新作は、魅力的な顧客価値を作る指南書『バリュー・プロポジション・デザイン』 (翔泳社)。

文/坂本真理 写真/栗木妙