組織の力

2016.04.20

地域力×企業価値による生き残り戦略〈前編〉

いすみ鉄道に学ぶ、赤字でも地域で必要とされる企業のあり方

「人員整理、経費削減といったいわゆる企業再生のセオリーは、すべての企業に通用するとは限りません」と語るのは、千葉県の第三セクターであるいすみ鉄道株式会社代表取締役社長(取材当時)の鳥塚亮氏だ。“観光列車”というコンセプトを軸にさまざまな施策を打ち出し、収支改善を成功させてきた鳥塚氏に、企業や地域の独自性を生かした再生メソッドについて話を伺った。

観光列車”というコンセプトの
ヒントは地域住民の言葉から

千葉県のいすみ鉄道株式会社は、1988年に旧・国鉄木原線を引き継ぐ形で第三セクターとして誕生した鉄道会社である。地域密着型のローカル線として長年走り続けてきたいすみ鉄道だが、開業以来赤字が続き、近年は廃止が検討されていた。
そんななかで、公募社長として採用されたのが鳥塚亮氏だ。鳥塚氏は、アニメなどで知られるムーミンのキャラクターを車体に配した「ムーミン列車」を走らせたり、鉄道ファン垂涎のアイテムである旧国鉄車両「キハ52」を導入したりと、数々の取り組みによって乗客増や沿線地域活性化を実現。一時は危ぶまれた鉄道の存続に道筋をつけた。
 
社長就任前からムーミン列車などのアイデアをあたためていた鳥塚氏だが、起爆剤となったのは、地域住民との出会いだった。第三セクター化から20年あまり、彼らは駅の掃除や構内の草刈り、春に沿線を彩る菜の花の種まきなどを、世代を父母から子へとバトンタッチしながら続けていた。鳥塚氏は住民たちに、「なぜ活動を続けているんですか? うちは謝礼もお出しできないのに」と率直な疑問をぶつけた。
「一様に返ってきたのは、『駅は町の玄関口だから、汚かったらお客さまをお迎えするのに恥ずかしい』という答えでした。鉄道を自分たちで守ろうとする強い思いに心打たれましたね。なのに今、廃止が決まったら、みなさんの努力が無駄になってしまう。それはあってはならないことです」
 
 

鳥塚 亮(Torizuka Akira)

いすみ鉄道株式会社代表取締役社長(取材当時。2018年退任)。学習塾職員や大韓航空の地上職勤務を経て、英国航空(ブリティッシュ・エアウエイズ)に入社。旅客運航部長などを務める。副業として鉄道DVDの制作会社も経営。2009年にいすみ鉄道株式会社の社長公募に応募し、採用される。就任後は、ムーミン列車やレストラン列車、訓練費用自己負担運転士募集などのアイデアを実現し、鉄道の収支改善を達成する。著書に、自身のブログを書籍化した『ローカル線で地域を元気にする方法』(晶文社)など。

文/横堀 夏代 撮影/石河 正武
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