仕事のプロ

2016.04.08

「仕事」がなくなるその前に身につけるべきスキルとは? 〈後編〉

“創造的な仕事”ができる人材への道を切り開く

前編では、これからの時代に求められる“創造的な仕事”をするためには、“目的”を軸にものごとの仕組みや構造を考え、組み立てる“構想する力”が必要であることを紹介した。後編では、“目的”の部分に焦点を当て、引き続き紺野登先生に伺った。

 

リベラルアーツで創造力を養い
人とつながる“場”を持つ

「人は基本的には変化を嫌うものですが、変わらなければ絶えてしまうという状況では、変わらざるを得ません。目的があれば人は動き、イノベーションは起きるのです。組織も同じです。常に目的思考で経営を考え、新たなビジネスモデルを創造していくことが求められているのです」

 

大転換の時代に有用な人材として生き残るためには、組織と同様、個人も自己研鑽を積まねばならない。厳しい時代だからこそ、自分磨きに時間を使ってほしいと、紺野先生は話す。

「イノベーションを生み出す素養の一つに、自由で豊かな発想があります。近年、社会人向けの歴史や哲学、文学、アートといったリベラルアーツが注目を集めていますが、リベラルアーツを学ぶというのは、単に幅広い教養を身につけるということ以上の意味があります。リベラルアーツの本来の意味は、『自由のための技術』です。つまり、広い知見を習得することで思考や発想が自由で豊かになる。そして、人として成熟する。リベラルアーツは、「奴隷」ではなく自由人として創造的に生きるための武器であり、人間形成に不可欠なものなのです」

 

リベラルアーツを学び、広い知識と自由で豊かな発想力を身につけることに加え、紺野先生は“場”を持つことの重要性を強調する。

 

「さまざまな背景を持つ者同士がつながり合うネットワークから、イノベーションは起こります。そのネットワークを構築するための空間や場を持つことは、非常に重要です」

 

例えば、紺野先生が立ち上げから携わってきた団体、FCAJ(Future Center Alliance Japan)では、一般企業やNPO法人、官公庁、大学などが多数参加し、イノベーションを生み出すべく連携活動を続けている。FCAJの活動の場は、参加団体を結ぶ場である「フューチャーセンター」に加え、企業の技術と顧客価値をつなぐ「イノベーションセンター」、生み出されたイノベーションの社会実験の場である「リヴィング・ラボ」の3つのプラットフォームからなる。ただアイデアを出し合うワークショップ・イベントで終わらせず、実践に結びつけることが重要だと、紺野先生は主張する。

 

 

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「最近は、ワークショップや異業種交流会などが多数開催されています。そのような“場”に参加するのはもちろん良いのですが、そこから一歩踏み込み、目的ある行動に移すことが重要です。それは、仕事へのスタンスを“やらされる”から“自らやる”へと切り替えるきっかけにもなるでしょう。日常の業務においても、自分の仕事の目的は何かを意識すれば、右から左へと処理する仕事から能動的に考える仕事へと転換させることができるはずです」

 
目的、発想・構想(デザイン)、実践の場。このいずれが欠けても、イノベーションは起こらない。目的を見極める審美眼、自由な発想力、ゼロから構想する力、そして行動力を磨いてこそ、これからの時代を生き抜く“創造的な仕事ができる人材”への道が拓けるのだ。
 
 
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紺野 登 (Konno Noboru)

博士(経営情報)。多摩大学大学院教授(知識経営論)KIRO(知識イノベーション研究所)代表。一般社団法人Japan Innovation Network 代表理事、慶應義塾大学院SDM研究科特別招聘教授、東京大学i.schoolエグゼクティブ・フェロー、日建設計顧問。 都市開発プロジェクトやワークプレイス・デザインなどにかかわるとともに、FCAJ(Future Center Alliance Japan)では、数多くの企業が参加するコ・クリエーションの場をマネジメント。また、イノベーションに関する多くの書籍も出版している。

文/笹原風花 撮影/ヤマグチイッキ