組織の力

2020.11.24

withコロナ時代に求められる「ウェルビーイング経営」とは? 〈後編〉

ダイバーシティ&インクルージョンの視点がより重要に

コロナ禍により働き方や働く環境が大きく変わるなか、ワーカーの心身の状態や価値観にも変化が起き、企業・組織がどう対応するかが課題となっている。前編では、課題解決のカギを握る「ウェルビーイング経営」について解説した。後編では、リモートワークであっても従業員がいきいきと働き続けるためには企業・組織に何が求められるのか、どういう点に注意が必要なのかについて、引き続き武蔵大学経済学部 森永雄太教授にお聞きした。

仕事の様子が見えにくいリモートワーク下では、
不満・不安が意欲の低下やメンタル不調につながる危険性がある

コロナ禍による大きな変化の一つが、リモートワークの導入・浸透だ。森永氏が監修し、(株)イーウェルが今年4〜5月に行ったオンラインアンケート調査からは、リモートワークがワーカーに与える良い影響やそうではない影響が見えてきた。


リモートワークがワーカーに与える影響

良い影響としては、余暇時間の満足度の向上、移動のストレスの軽減、悪い影響としては、上司や同僚とのコミュニケーションの減少、集中力の低下による労働時間の長時間化(生産性の低下)、運動量の低下などがある。
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イーウェル調査結果より抜粋・作図


また、「家庭内の子育てや介護で集中して業務に取り組めない」という声は、全体としては割合が低いものの、小学生未満の子どもを持つワーカーの場合は非常に大きな課題となっていることもわかった。

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イーウェル調査結果より抜粋・作図



リモートワークの課題はコミュニケーション

緊急事態宣言の発令により多くの企業・組織がリモートワークを急遽導入せざるを得なくなった時期に行われた調査のため、「現在ではリモートワークの環境や受け止め方が変わっている部分があることに留意が必要」としつつ、森永氏は次のように解説する。

「調査にも現れているようにリモートワークには良い面だけでなく課題もありますが、リモートワークをうまく導入することで、従業員の生活習慣やウェルビーイングにプラスの影響を与えられる可能性はあります」

「一方、解決すべき大きな課題が、社内コミュニケーションです。リモートだと誰がどこで何に困っているかが同僚にもマネジメントする人にも見えにくい。例えば、家庭の状況で業務に集中できない人は全体では少数派でも、子育て中の人にとっては大きな課題になっています」

「1 on 1ミーティングの実施など困りごとを抱える従業員のサポートをしっかり行っていかないと、そうした人がチームの中で孤立し、不満・不安を抱え、意欲の低下やメンタル不調にもつながりかねません」



リモートワーク下ではウェルビーイング経営はより重要に
個々の違いを尊重しながら一体感を醸成する

「コロナ禍に急速に浸透したリモートワークにより、さまざまな心身への影響が起きている今こそ、ウェルビーイングの視点が重要になる」と森永氏は言う。

一方、これまでの健康経営やウェルビーイング経営は、従業員がオフィスで働いていることを前提として組み立てられていた。リモートワークの浸透によりその前提が揺らいだ今、企業・組織はどのように対応すれば良いのだろうか。


マネジメントで注意すべき点

「やはり、もっとも重要なのは、社内コミュニケーションの円滑化です。ただ、それには注意点があります。私たちの研究チームが株式会社ミナジン様による受託研究で実施した最新の調査では、職場のサポートは、基本的には従業員の仕事と家庭の間のコンフリクトを下げるものの、場合によっては従業員の"コンフリクト(混乱)"を上げてしまうことがあることも明らかになりました(※森永氏共著の発表論文集より引用)」

森永氏らが実施した調査では、職場の上司や同僚からの支援について「自分が求めていないのに受けた支援」と、「求めたときに受けた支援」を分けて質問した。その上で2種類の支援と仕事と家庭のコンフリクトの関係を分析。その結果、「求めていないのに受けた支援」の程度が高い場合は、逆にコンフリクトが高まってしまうケースもあることがわかったのだ。

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「職場の支援は大事ではあるのですが、本人が必要としていない支援、例えば、『大丈夫?』『困りごとはない?』というような声かけが頻繁すぎたりタイミングが悪かったりすると、自分でスケジュールを組んで効率的に仕事が進められるという在宅ワークのメリットが損なわれてしまいます。リモートで相手が見えないからこそ、間が悪かったりピントが外れたりした不要な支援が起こりがちです」

「大事なのは、ヘルプが必要なときに自分から助けてと言えること。お互い大変なときは助けを求めていいんだという関係性や風土をチーム・組織内に醸成することが、これからのマネジメントには求められるのではないでしょうか」

森永 雄太(Morinaga Yuta)

武蔵大学経済学部経営学科教授。神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了、博士(経営学)。専門は組織行動論・経営管理論。『ウェルビーイング経営の考え方と進め方 健康経営の新展開』(労働新聞社)など著書多数。

文/笹原風花