仕事のプロ

2018.12.07

富士通初の公認パラレルワーカー

相乗効果を生む本業と複業の掛け合わせ

ワークスタイル変革から新規事業のアイデア創発、地域の産業開発など、企業や自治体のさまざまな問題をデザイン思考をベースとした「共創型ワークショップ」で解決している富士通の『HAB-YU platform(以下HAB-YU)』。その立ち上げから関わり、企画・運営などを手がけている同社のブランド・デザイン戦略統括部の高嶋大介氏。実は、この本業以外にも仕事を持ち、パラレルワーカーとしても活動している。複業を考えた理由や、そこから得られる効果など、詳しく聞いた。

危機感、使命感、やりたいこと・・・
いくつもの要因が重なり、複業を決意

2014年、共創の場としてオープンした『HAB-YU』。その企画・運営を手がける富士通のブランド・デザイン戦略統括部の高嶋氏は2017年6月から複業として、一般社団法人INTO THE FABRICを設立し、ビジネスパーソンの意識や行動を変える対話の場など定期的に開催している。

しかし、当時の富士通には副業規定などはなく、高嶋氏の周りにも実績はなかった。そのような環境で、なぜ、複業にチャレンジしようと思ったのだろうか?

「やはりHAB-YUでの経験が大きいですね。それまでは社外の人との関わりも、仕事上のクライアントだけでしたが、HAB-YUを通じて、今まで接点がなかった人との出会いが増えていき、これまで見ていた景色が一変しました」と高嶋氏は言う。

高嶋氏が複業にチャレンジするにあたり大きく3つの要因があったという。

「1つ目は、自身への危機感とやりたいことへの欲求が生まれてきたことです。上から降ってくる仕事に忙殺されて毎日を過ごしていると、それだけで手一杯になってしまう。さらに管理職になると異動も少なくなり、仕事の領域が段々限定されていく。人生100年時代のこれから、もし50歳、60歳になって社会に放り出されたときに、世の中で通用するスキルがほとんどない、何もできない人になってしまう前に何か行動を起こさなくては、と思いました。

それとHAB-YUを通じてさまざまな人たちと出会っていくなかで、自分のやりたいことが明確になり、それがだんだんと会社が目指しているビジネスに合わなくなってきたこともあります」

「2つ目は個人的な使命感です。さまざまな企業のワークスタイル変革をお手伝いしていると、他の企業にも目の前の仕事に追われて、自分のキャリアについて深く考えられていない、いわゆる『思考停止』になっているビジネスパーソンが数多くいることに気づきました。この状況を変えなければ、日本の将来はダメになる。そう感じたのも、複業を考えるきっかけになりました」

「3つ目は、働き方改革の追い風です。残業時間の削減により自分のために使える時間が増えたので、それなら、会社では得られない経験をしようと考え、新しい仕事を持とうと決意しました 」

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やりたいことがあるなら、
アクションを起こしてみる

「複業をしたい」という意向を上司に相談し、アドバイスをもらったが、上司自身にも経験がなかったため、実現までは至らなかったと言う。そこで高嶋氏は自ら人事部に働きかけることにした。

「最初は人事部にいる同僚に自分の考えを伝えると、いろいろと調整してくれて、2016年12月に面談の場を設けてくれました。私自身、お金よりもビジネスパーソンの意識改革や、事業の立ち上げなど本業では経験できないことをやってみたいと考えていたので、その想いをぶつけました。そして、2017年4月に複業の承認を得ることができたのです 」

富士通で最初のパラレルワーカーになった高嶋氏だが、会社に複業を認めてもらえたポイントは一体どこなのだろうか?

「やりたいことが明確だったこと。そして、それがビジネスパーソンの意識を改革するという社会的な課題解決だったというのも要因としてあったと思います。また、自分のスキルアップの為に会社で得られない経験を得たいという目的をきちんと伝えました。チャレンジして思うのは、自分の可能性を拡げるためにも、『やりたい!』と思ったことは、上司や人事部にぶつけることが大切です 」



複業があることで
得られる本業との相乗効果

高嶋氏が立ち上げた一般社団法人INTO THE FABRICではビジネスパーソン向けに、対話を通じて会社組織、働き方や自分自身について、新たなマインドセットを手に入れるワークショップなどを定期的に行っている。

「INTO THE FABRICの構成メンバーはパラレルワーカーとして様々な分野で活躍している人たちなので、多様なメンバーとチームを運営していくマネジメント力が養えますし、ワークショップ参加者も個人(ビジネスパーソン)を対象にしているので、本業では出会えない人たちとのつながりが拡がったりしています。この、多様な分野でさまざまな働き方をしている人たちとのつながりによって、例えば、本業で「働き方改革」をテーマにしたプロジェクトに参画したときなどに、実践的な視点からアドバイスができるようになるなど、相乗効果を感じています。本業と複業の間で、情報や人、スキルなどを行き来させながら、企業人と個人という2つの軸で物事を考えられるようになり、高い視座をもって仕事に向き合えるようになりました」と、高嶋氏は言う。

「富士通というブランドがあるからこそできることもあるので、専業より複業のほうが、いろいろなメリットを感じることが多いです。それに富士通を辞めて、やりたいことだけで食べていけるほど世の中甘くないというのもあります(笑)」


高嶋 大介(Takashima Daisuke)

富士通株式会社 マーケティング戦略本部 ブランド・デザイン戦略統括部 エクスペリエンスデザイン部 デザインシンカー 。大学卒業後、大手ゼネコンにて現場管理や設計に従事。2005年富士通入社。ワークプレイスやショールームデザインを経て、共創の場である『HAB-YU』を軸に、企業のワークスタイル変革や自治体の将来ビジョン、地方創生のデザインコンサルティング、デザイン思考をベースとした人材育成などに従事。2016年4月には富士通にて副業を認められ、2017年6月に一般社団法人INTO THE FABRICを設立。代表理事として、イベントや対話の場を通じて、人の意識や行動を変える取り組みや、人をつなげる『100人カイギ』のコミュニティのプラットフォーム運営も行っている。

HAB-YU platform
『HAB-YU platform』は、富士通が企業や自治体などと新たな価値を開発・体験する<共創>の場として、2014年9月、アークヒルズサウスタワー(六本木)に立ち上げた。『HAB-YU』という名称は、人「Human」・地域「Area」・企業「Business」(=HAB)を多種多様な方法で「結う」(=YU)ことを意味し、それぞれが持っている課題・アイデア・技術を集め、「ほどく→結う→価値にする」ことを目指してつくられた。

文/西谷忠和 撮影/ヤマグチイッキ