仕事のプロ

2018.10.15

働きやすさを支える「オフィスカイゼン」〈前編〉

小さな課題も1つずつ解決して「さらによいオフィス環境」へ

オフィス移転やリニューアルから年月が経つと、キレイだったときには気づかなかった汚れや備品の不具合など、さまざまな不満が噴出してくるもの。時代の動きを捉えながら、ビジネスのさまざまな課題を解決するオフィス空間を提案しているコクヨ株式会社では、このようなオフィス環境における問題解決に向けて総務をサポートする「オフィスカイゼン委員会」の活動を行っている。自ら“カイゼンマン”として活動するファニチャー事業本部の一色俊秀氏は、「オフィスの環境を一つずつ改善していけば働きやすさがアップし、ひいては生産性向上につながります」と強調する。委員会のとりまとめを行う一色氏と、オフィスカイゼン委員会のwebサイトを運営する城間健市郎氏に、委員会設立の背景と活動についてお聞きした。

オフィスのリニューアルからわずか3か月で
不具合や不満が続出

オフィスカイゼン委員会は、働きやすい環境の維持を目指して、コクヨの自社オフィスで起きるさまざまな問題を解決する活動を行っている。

オフィス環境の維持は総務やオフィス管理部門が一手に手がけるケースも多いが、コクヨでは総務だけに管理を任せず、オフィスで働くワーカーたちが知恵を出し合って問題改善に取り組んでいるのだ。

オフィスカイゼン委員会がコクヨ東京霞が関オフィスで活動を開始したのは2013年春。"カイゼンマン"として委員会をまとめる一色氏は、委員会設立の経緯について振り返る。

「2012年12月に霞が関オフィスのリニューアルが終わり、働きやすさにこだわった環境が完成しました。にもかかわらず、3か月も経つと『誰のものかわからないダンボールがオフィスのあちこちに置いてある』『みんなが置き傘をするので、いつも傘立てがいっぱいで見た目が悪い』など、たくさんの課題が出てきたんです。空間づくりのプロを自認するコクヨですが、『より働きやすい環境をつくっていくためにも、オフィス運営・維持に関してももっとプロにならなければいけないね』と社内で話したのを覚えています」

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よりよいオフィス環境を目指して
「オフィスカイゼン委員会」を設立

そもそも霞が関オフィスは、コクヨ社員が実際に働いている現場を見学してもらうことで、最先端のワークスタイルやオフィスの可能性を実感してもうらためのライブオフィス。そのオフィスが使いにくい状態では、社外からのお客様に対して悪印象を与えてしまうわけだ。

オフィスの運営に関しては総務担当者が数名で手がけていたが、広いオフィスにはメンテナンスを行うべき部分がたくさんあり、次々と増える課題にまで手が回らない状態だった。そこで一色氏はもう1名の担当者と共に総務のサポート役という立場となり、課題解決に乗り出した。

一色氏ら2人はある程度オフィスの課題を洗い出した後で、「オフィスカイゼン委員会」を組織。霞が関オフィスに所属する19部署から担当者を1名ずつ選出しもらい、第1回委員会を開催した。「カイゼン」は、トヨタ生産方式の「カイゼン」(生産活動におけるムダを見つけ、なるべく費用をかけずに迅速になくすこと)を意識したネーミングだ。

「第1回目の活動では、委員会メンバーとともにオフィスを見て歩き、『オフィスの不便・不足・不満・不具合を見つけましょう』と呼びかけました。事前に私たちも問題点をある程度は洗い出していたのですが、日々オフィスで働いているメンバーからは、さまざまな課題が集まりました」と一色氏は語る。



6か月後にはお客様からも
オフィスカイゼン活動が注目されるように

集まった課題は、一色氏らが吟味し、数を絞ったうえで、解決策を考えて実行した。「オフィス課題を解決する人材」ということで、一色氏らは自らを"カイゼンマン"と名乗るようになったという。解決した課題は、翌月の朝礼で「どんな課題を、どのように解決したか」を発表した。

「営業職から『活動内容を見える化してほしい』と要望があったため、活動開始3か月後からは、毎月10個づつ実施したカイゼンアイデアを『うちのオフィスよくなっ10(てん)』としてオフィスの一角につくった『よくなっ展コーナー』に展示することにしました。もちろん展示内容はライブオフィスを見学にみえたお客様の目にも留まります。営業担当者たちも積極的に展示内容を説明したり、実際にカイゼンした箇所をご案内したりして、カイゼン活動を積極的にアピールするようになりました」

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「半年経つ頃からは、お付き合いのある企業様から弊社の営業担当者を通じて、オフィスの課題に関する相談が寄せられるようになったり、カイゼン活動を目的にご来社される企業様も出てきたりしました」



オフィスカイゼン活動のノウハウを
全国にあるコクヨのオフィスへと展開

カイゼン活動がオフィス空間提案時の付加価値につながると気づいた営業部門は、カイゼン課題のアイデアを積極的に提案するようになり、社内でもカイゼンへの意識が高まっていった。

「霞が関オフィスだけでなくコクヨの他拠点へも活動を拡げよう」という多くの意見から、各地のライブオフィスでカイゼン委員会が発足。また、霞が関オフィスのカイゼン内容を参考にするオフィスも出てきた。一色氏は、「オフィス環境に対する問題意識がちょうど全国で高まってきたタイミングで、目に見える活動として受け入れられやすかったのではないでしょうか」と話す。

2016年頃には「せっかくコクヨ社内で活動が拡まり、ノウハウが蓄積されてきたのだから、共有しないのはもったいない」という声が上がり、webサイトの構想が持ち上がった。各拠点から集まったカイゼンアイデア数百件を集約・分類しながら、公開する事例を1つずつ決めたうえでweb サイトをオープンさせた。webサイトの立ち上げを担当した城間氏は今後、サイトを通じて日本中のオフィス環境向上に貢献していきたいという。

「webでは現在、コクヨのカイゼン事例だけでなく、他社のよいアイデアも掲載しています。料理レシピ投稿サイトのようなイメージで、いずれは多くの企業様が自社のカイゼンアイデアを投稿できるようなサイトにしていくのが目標です。
トヨタ生産方式『カイゼン』は工場の生産性を向上させたことで世界的に知られていますが、『オフィスカイゼン』を拡げていくことで、ホワイトカラーの生産性ももっと上がるのではないでしょうか」

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オフィスカイゼン委員会

2013年春にコクヨ霞が関オフィスで発足。ワーカー自身が知恵を出し合ってオフィスのさまざまな課題を運用面から解決するための委員会。2015年には株式会社リクルートキャリア主催の「グッド・アクション賞」を受賞。2016年に開設されたwebサイトでは、6年間で蓄積された数百件のカイゼンアイデアを順次公開している。https://www.kokuyo-furniture.co.jp/kaizen/

文/横堀夏代 撮影/石河正武