アンガーマネジメント

2018.10.17

怒り方を変えれば信頼感がアップする

アンガーマネジメント4:怒りの基準を統一する

むやみに“怒る”のではなく
納得感のある“叱り”方を目指す

 オフィスで上司が部下に怒る場面は、近年はあまり見られなくっています。特に大企業の場合はコンプライアンス研修などが徹底しているため、「下手に怒ると部下からパワーハラスメントで訴えられる」という懸念から、部下を叱れない上司が増えているのです。
 
 私自身は、部下に対して怒ること自体が悪いとは考えていません。ただし、むやみに怒りを爆発させるのではなく、適切な叱り方をすることが必要です。今回は、この「適切な怒り方・叱り方」について説明していきましょう。
 

人によって怒る基準を
変えると不信感が生まれる

 適切な叱り方には、大きく分けて2つの側面があると私は考えています。一つは「誰に対しても同じ基準で怒ること」です。「基準」とは、自分にとって「納得いかないところもあるけれどまあ許せる」ゾーンを越えたら怒るということです。
 なぜこのルールが大切かといえば、ビジネスシーンにおいて守られていないケースが非常に多いからです。
 
たとえば、上司が部下に対して怒りをぶつける場面はあっても、その逆はほとんどみられないはずです。ですからリーダー的ポジションにある人は、部下に対して怒る前に「自分の上司が同じことをしたとして、同じように怒りがわいてくるだろうか」「自分に懐いてくれている後輩だったらどうか」と、頭の片隅で考えてみましょう。
 怒られた部下が、「彼が同じことをしたときは黙って見逃したのに、どうして私にだけ怒るんだろう?」と感じたら危険です。あなたにはそのつもりがなくても、パワハラを告発されたときに言い訳できません。逆に、誰に対してもフラットな姿勢を示せば、あなたの信頼感は高まるはずです。
 

怒りの言葉の中には
必ずリクエストを盛り込む

 もう一つのルールは、怒る言葉の中に「自分の気持ち」だけでなく「リクエスト」を盛り込むことです。上司が部下を怒るときにありがちなのが、「相手にどうしてほしいのか」ではなく「自分がどう思っているのか」をひたすら訴えるケースです。
 
 たとえば部下が期限通りに報告書を出さないときは、「キミが報告書を出さないからみんながどれだけ迷惑しているかわかっているのか」と感情をぶつけたとします。これでは部下は「自分はどうしたらいいか」がわかりません。
しかし、「提出が遅れるなら、せめて1日前までに言っておいてほしい」と具体的なリクエストを出せば、部下は行動に移しやすくなります。さらに、「どうしたら期限を守れると思う?」と問いかければ、部下が自分自身の行動を改善するきっかけづくりにもなります。
そういった気づきを与えることが、“叱る”という言葉の持つ意味であり、適切な“叱り方”となるのです。
 

口にしてはいけない
叱り方のNGフレーズ

 最後に、叱り方におけるNGフレーズを3パターンご紹介しましょう。
 
①「いつも」「必ず」「前から言っているけど」 
これらはすべて、自分の発言がいかに正しいかを強調するためのフレーズです。 しかしこれを聞いた相手は、「いつもというわけじゃないのに」と内心で不信感を募らせるばかりです。同じ失敗が多いなら、そのたびに叱った方が効果的です。
 
②「なんで?」「どうして」
「どうして毎回提出が遅れるの?」といった言い方は、一見質問のようですが、相手を責めていることにつながり、納得感を得にくいフレーズです。思わず口にしそうになったときは、先ほどご紹介した「どうしたらできる?」に言い換えてみましょう。
 
③「ちゃんと」「きちんと」「しっかり」
私たち日本アンガーマネジメント協会では、これらの言葉を「程度言葉」と呼び、怒りを表現する際には「しっかりやってくれよ」といった表現は使わないことをおすすめしています。「程度言葉」はいずれも表現としてあいまいで、怒られた側がどうすればいいか迷ってしまうからです。例えば資料作りでも、「きちんと書いて」ではなく、「タイトルと目的と本文を項目に分けて書いて」…など、できるだけ具体的な言葉で言い換えましょう。

安藤俊介(Ando Shunsuke)

一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事。アメリカでアンガーマネジメントを学び日本に導入した、アンガーマネジメントの第一人者。企業や官公庁、医療機関などでの講演・研修を通してアンガーマネジメントの普及に努める。『イライラしなくなるちょっとした習慣』(大和書房)、『はじめての「アンガーマネジメント」実践ブック』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。著作は中国、台湾、韓国などでも翻訳され、累計30万部を超える。

イラスト/吉泉ゆう子