仕事のプロ

2018.08.06

オフィスで「怒り」を爆発させないために

アンガーマネジメントのスキルが職場を変える

近年、怒りと上手につき合うための心理トレーニング「アンガーマネジメント」がビジネスシーンにおいて注目され、研修プログラムに取り入れる企業が増えつつある。日本アンガーマネジメント協会代表理事の安藤俊介氏は、「ビジネス環境が変化を遂げる中で、これまで以上に怒りのコントロールが重要になっています」と語る。仕事の場においてなぜ今、アンガーマネジメントが求められているのか。「怒りをコントロールする」とは具体的にどのようなことなのかをお聞きした。

企業の規模によって
「怒り」に関する悩みは異なる

アンガーマネジメントは、その名の通り怒りの感情をコントロールするための心理トレーニングで、1970年代にアメリカで誕生したとされている。当初は軽犯罪者のための矯正プログラムとして開発が進められたが、時代の流れと共に需要が拡がり、現代では企業研修や青少年教育などに広く用いられている。

特にビジネスシーンではニーズが高く、安藤氏も、日本におけるアンガーマネジメントの第一人者としてさまざまな企業で研修プログラムの講師を務めている。

ではなぜ職場においてアンガーマネジメントが求められているのだろうか。「組織や企業の規模によって事情は異なります」と安藤氏は解説する。

「中小企業ではいまだに、声を荒げて部下の人格否定をするような怒り方をする方が少なくありません。ご本人は部下のためを思っているのかもしれませんが、客観的に見れば明らかにパワーハラスメント、というケースもみられます」

逆に大企業では、パワハラを恐れるあまり部下を叱れないリーダーが増えているという。その裏には「叱られ慣れていない若手社員が多い」という事情もある。怒りに対する耐性が弱い社員が上司に怒られると、ショックを受けて退職してしまったり、パワハラで上司を告訴したりする事態も起こり得る。

また、近年の職場環境にも一因がある。ICT化によってコミュニケーションのスピードが急激にアップしたことで「レスポンスの遅い人は許せない」とイライラしたり、グローバル社会の到来によって多様な価値観と接する中で怒りを募らせたりする人が増えているのだ。ビジネス環境が急速に変化するなかで、アンガーマネジメントはこれまで以上に必要とされているのだ。



「アンガーマネジメント=怒らないこと」ではない

では、「怒りのコントロール」とは具体的にどのようなことを指すのだろうか。安藤氏はここで、「アンガーマネジメントは『怒らなくなること』とは違います」と強調する。

「まだ誤解が多いですが、アンガーマネジメントの目的は『怒りの感情と上手につき合うこと』であって、怒りを無理に押さえつけることではありません。怒りをため込むことはストレスにつながりやすく、メンタルバランスを崩す引き金になります。それにビジネスの場なら、部下を叱らなければならない場面ももちろんあるでしょう。怒りのコントロールには、大きく分けて『怒りを爆発させて後悔しないこと』と、『上手に怒りを伝えること』という2つの意味があると私たちは考えています」

確かに、同じミスをして叱られるにしても、感情に任せて怒りをぶちまけられるのと、何が悪いのかを客観的に指摘されるのとでは、受け手の感情も、その後の行動も大きく変わる。怒り方次第で職場の生産性が違ってくる、といった面もありそうだ。


安藤俊介(Ando Shunsuke)

一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事。アメリカでアンガーマネジメントを学び日本に導入した、アンガーマネジメントの第一人者。企業や官公庁、医療機関などでの講演・研修を通してアンガーマネジメントの普及に努める。『イライラしなくなるちょっとした習慣』(大和書房)、『はじめての「アンガーマネジメント」実践ブック』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。著作は中国、台湾、韓国などでも翻訳され、累計30万部を超える。

文/横堀夏代 撮影/ヤマグチイッキ