組織の力

2018.06.11

フラワービズが提案する植物の「ビジネス力」〈後編〉

花や緑と向き合う時間がビジネススキルを育てる

「フラワービズ」は、オフィスに花と緑を取り入れて労働環境向上を推進するプロジェクトだ。このプロジェクトを主導する一般社団法人JFTD(花キューピット)の坂内伊良氏は、「植物を置くだけでも十分に効果はあるけれど、さらに積極的に向き合うことでビジネス力の向上も期待できます」と語る。後編では、「植物と向き合う手段」の一つである生け花を通じて得られる効果を紹介しよう。

生け花を通じて
マインドフルネスを目指す

2018年3月、東京・コクヨ品川ショールームにて、『生け花マインドフルネス』と題するイベントが開催された。このイベントは、全国花き振興協議会が発信するプロジェクト「フラワービス」の一環として企画されたもので、生け花によってマインドフルネスの効果を狙うという内容だ。マインドフルネスとはアメリカで始まったメンタルトレーニングの一種で、瞑想などを通じて「今、ここ」に意識を向け、自分のあるがままの心身状態を受け容れながら心を整えるメソッドが特徴だ。状況を客観視しつつ意識を拡げるのに役立つ手法として注目を集め、日本でも研修などで取り入れる企業が増えている。

フラワービズは、オフィスに花や緑を積極的に取り入れることを推進するプログラムだ。しかし今回のイベントは、「植物を置く」というところからさらに踏み込み、植物に触れながら向き合うことを目的としている。「向き合い方」としてはフラワーアレンジメントなども考えられるが、生け花を選んだ理由について坂内氏は次のように語る。

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「例えばフラワーアレンジメントは、多種多様な花やグリーンを使って作品を仕上げていく、いわば足し算の美学です。それに対して、生け花で使うのは数本の花と枝だけです。そのため生け手は自然と、自分の手元にある植物に集中することになります。このような生け花の特徴が、『今、ここ』に意識を向けるマインドフルネスにつながると考えました」



観察力・段取り力・調整力など
幅広いスキル獲得が期待できる

イベントの最初に行われたトークセッションでは、講師として招かれた広山流(明治時代に創流された華道の一流派)の四代家元・岡田広山先生が、生け花を通じて得られるスキルについて解説した。広山先生は、「生け花は、集中力を高めるだけでなく、仕事で求められる複数のスキルを育てるのに役立ちます」と説明する。一つが観察力だ。

「花の開き方や枝の向き、曲がり具合はどれも少しずつ異なり、一本として同じものはありません。自分の手元にある花をじっくり観察し、美しさを活かそうとする作業は深い集中を生み出します」
じっくり物事を見ることで気づきが増え、置かれた状況を客観視しやすくなる。多忙さに自分を見失いがちなビジネスパーソンにとって、観察力は欠かせないスキルといえる。

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そして、花や枝を見て完成形をイメージすることで、段取り力も養われるという。
「一本ずつ異なる植物のどこを活かして作品を仕上げるか、完成形をイメージすると、初めにこの枝を生けて、次に......と自然と考えることになり、段取りを考える力が養われます」
個々の状況を見ながら目標を設定し、ゴールから逆算してプロセスを決めていく。このような段取り力は、仕事を進めるうえで不可欠なスキルであることは言うまでもない。

ただし、完成形をイメージして生け始めても、その通りに仕上がるとは限らない。思ったより枝を短く切ってしまったり、花が自分が生けたい方向に向かなかったりする場合も少なくないからだ。しかし、思いがけないアクシデントも、対応力を鍛えるのに役立つと広山先生は語る。

「例えば枝を短く切ってしまうと、もとの長さには戻せません。でもこんなときこそ、最初に思い描いたイメージから柔軟に考えを切り替え、調整していく力を発揮できるとき。その際の判断と対応次第では、最初のイメージより、さらによい作品が生まれることもあります」
想定外のことが起こったとき、当初のイメージにこだわらず柔軟に調整する力は、まさに仕事で必要とされる応用力である。「花を生ける」というシンプルな行動によって、ビジネスに活かせる多様なスキルを磨くことができるわけだ。


全国花き振興協議会

花と緑の産業6団体によって組織される業界団体。生産流通改善や消費増進、花き産業の振興に向けて活動する。農林水産省が推進する「くらしに花を取り入れる新需要創出事業」の一環として、「フラワービズ」を展開中。

文/横堀夏代 撮影/荒川潤、MAMA-Biz編集部