仕事のプロ

2018.05.28

現場の声からスタートした、三菱地所設計の『働き方改革』〈後編〉

段階的に味方を増やし、大きな波を起こしていく

現場の声を反映し、『働き方改革』を推進してきた株式会社三菱地所設計経営企画部副主事の飯井郁弥さんは「たとえ、ボトムアップの提案でも、段階的に拡げていくことで、会社全体に浸透させることができる」と語る。後編では、「社内の理解を得るための戦略」や「改革を推進するうえで大切にしていること」などについてお聞きした。

5つのステップを一つひとつ進め、
障害を乗り越えていく

現場からの危機感の共有により始まった三菱地所設計の『働き方改革』は、効果がわかりやすく、スモールスタートがしやすい「ICTの活用」から着手することに。さまざまなICTサービスを検討し、その中から一番ニーズに合致するものとして選んだのがクラウドストレージサービス(以下、クラウドサービス)だった。
 
「実は、三菱地所設計ではiPadが早くから導入されていましたが、社外でデータの閲覧しかできず、編集作業は行えませんでした。そこで、社外でのデータ編集ができるのはもちろん、ゼネコンや協力設計事務所などとのデータの共有がスムーズにでき、作業効率が高められる、クラウドサービスを試行することにしたんです」と飯井さん。
 
しかし当時、社内ではセキュリティ面などを心配する意見が大半だったという。
「新しいものに抵抗感を感じている方に納得してもらうまで説明し、理解を得てから進める方法も考えたのですが、それでは時間がかかり過ぎますし、現場の社員からは遅れに対する不満が募ってしまう。そこで、今回は“まずは実績をつくってしまう”という戦略をとりました」
 
その戦略が、この5つのステップである。
①できるところからやってみる
②社員の声を聴いてみる
③さらに拡げてみる
④味方がだんだん増えてくる
⑤大きな波を起こし、波に乗る
 
飯井さんに、各プロセスをクラウドストレージの導入を例に説明してもらった。
 
①『できるところからやってみる』
「検討していたクラウドサービスは、グループ会社での利用実績があったこともあり、まずは『このサービスを検証してみたい』と決裁をもらい、自分でやってみることからスタートしました。一見すると、たいしたことではないんですが、自らアクションを起こし、『とりあえず、始めてみる』ということと、サービス内容の良し悪しよりも、すでにグループ会社での実績があるという『安心感』を重視したのがポイントだと思います」
 
②『社員の声を聴いてみる』
「ニーズがあることはわかっていたものの、社員がどこまで切実に感じているのか。あるいは、どんな所で困っているのかが具体的にわからなかったので、若手社員を中心に、現場の声をヒアリングしながら、あわせてクラウドサービスの良さを拡めていきました。すると、『使い勝手よさそうですね』とか『使ってみたい』という声を多くの人からもらえるようになり、現場ニーズに合致していることを再確認しました」
飯井さんは、このとき得た現場の声を経営陣にフィードバックして、利用範囲をさらに拡大していった。
 
③『さらに拡げてみる』
「コーポレート部門の情報システム部やヘルプデスクなどにこのサービスを使ってもらい、セキュリティや動作の確認などを行いました。このときに情報システム部からは『社外でデータ編集作業をするなら、モバイルPCの導入も検討しませんか』という提案をもらえたので、そこから『モバイルワーク実証実験』というプロジェクトにして、試行・検証を行うようにしました」
この後、「うちで、ぜひトライしてみたい!」と言ってくれた部門に対して、部単位でのサービスの利用範囲を拡大した。
 
④『味方がだんだん増えてくる』
「設計業務は意匠設計、構造設計、設備設計などの部署同士で連携して業務を進めていくので、資料や情報をクラウド上で共有できるこのサービスを『私の部署でも導入したい』という声をいろんなところからもらえるようになっていきました。それにより、このサービスの存在はあっという間に拡がり、ほぼ会社全体に知れわたり、使いたいという人たち(味方)が次第に増えていきました」
 
⑤『大きな波を起こし、波に乗る』
2015年に交流のあった企業から、『総務省テレワーク実証事業に参画しませんか』という提案をもらい、そのタイミングで、『モバイルワーク実証実験』を発展させ、利用範囲を他部署へとさらに拡大していった。
「この実証実験を始める前は、『設計業務にモバイルワークなんて適合するの?』という懐疑的な意見も少なくありませんでした。でも、利用している社員がいろいろな場面で『すごく便利になった』と話してくれて、社内の考えも徐々に変わっていきました。役員も現場を第一に考えているので、現場の声には敏感に反応してくれます。それがきっかけで、ある役員からは『クラウドサービスについて、もっと詳しく教えてほしい』と声をかけてもらえるまでに、意識が変わっていきました」
 
 
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飯井 郁弥(Ii Fumiya)

2010年、株式会社三菱地所設計に入社。主に経理業務を担当後、2014年より経営企画担当者として、先進企業事例の収集、システム企画の一環でBoxアプリ検証をするなど、社内初の働き方改革の取り組みに着手。その後、ICT配備計画等の整備を進める他、総務省のテレワーク実証事業などにも参画。2017年より社員向けに意識改革セミナー開催、会議改革に着手するなど、働き方改革推進委員として、同社の働き方改革を牽引する。


三菱地所設計
1890年三菱社によって創設された「丸ノ内建築所」に始まり、現在は三菱地所グループの技術中核会社として、グループ内外問わず多くのエポックメイキングなプロジェクトに携わる組織設計事務所。従来の事業領域にとどまらず、建築・都市に関連するコンサルティング事業も手掛ける。

文/西谷忠和 撮影/石河正武
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