仕事のプロ

2018.04.23

企業内の常識にとらわれず新風を起こす〈前編〉

「怖いもの知らず」を武器にカゴメ初のお菓子を企画開発

カゴメ株式会社東京支社営業第三部の辻本美紀さんは、飲料が主力商品だった同社で初めてお菓子の企画・開発を行ったり、カゴメの主要取引先でもある総合オンラインストアAmazon.co.jp(以下、Amazon)とのコラボレーションを企画・運営したりと、会社として初めての試みを次々と実現させているイノベーター的存在だ。前編では、カゴメ初のお菓子『トマッティーニ』開発から発売までの経緯をお聞きした。

九州営業時代に培われた
工夫とチャレンジの精神

カゴメ株式会社といえば、トマトジュースをはじめとする飲料やケチャップ、パスタソースなどの調味料・食品を思い浮かべる人が多いだろう。しかし実は、2011年から2014年にかけて、トマトを素材に使ったクッキー『トマッティーニ』を製造・販売している。この商品の企画開発を担当したのが、東京支社営業第三部の辻本美紀さんだ。
 
辻本さんは、入社直後から5年間を九州支店で過ごしている。九州北部を中心に、スーパーや生協、百貨店に向けた営業を手がけ、毎日営業車で走り回る生活を送ったそうだ。
「通常の営業では、『1月からは受験生応援フェア』といった本社からの営業企画をもとに、営業先のスーパーなどに販売コーナーをつくる提案をします。でも、九州で担当していたエリアは若年層が少なくて一人暮らしのお年寄りが多く、本社からの営業企画が担当エリアの顧客層やニーズにマッチしない、ということが多々ありました。そこで、まずはお客さまの買い物かごを徹底的に観察して、どんなモノが好まれるのかを頭に刷り込むことにしたんです」
 
その結果、意外にもお年寄りがカップ麺をよく購入していることがわかった。「高齢者は毎日和食をつくって食べているという固定観念をもっていたので、この結果は、衝撃的でした。ただ、よく考えると、一人暮らしで、料理の手間もかけられないお年寄りが、カップ麺を選ぶことは理解ができたのですが、食事のバランスが悪いと思ったんです」
 
高齢者向けには『減塩食メニューの提案』といった企画もあったが、カップ麺を好んでいるお年寄りにいきなり減塩食を提案しても受け入れてもらえないことは目に見えていた。そこで、辻本さんは、カップ麺のコーナーの前にカゴメの野菜ジュースの什器を置き、『バランスよく野菜もとりましょう』というポップを立ててみた。本社からの提案をそのまま適用せず、地域に合う形にアレンジしたのだ。
 
 
2_bus_046_01.jpg
 
「今思うと、カゴの中を1日中覗き込むなんて、変ですよね(笑)。でも、それまで厳しかったバイヤーやお店の担当者に、『辻本さん企画、良く売れてるよ』、と言って貰えるととても嬉しく、当り前を当り前とせず、難しい状況でもチャレンジする土壌が自分の中にできました」
 
 
 

固定観念に縛られず
自分らしい視点で企画を立案

辻本さんがこういった販売事例を社内の情報共有システムにアップしたところ、その販売提案は全国の支社で採用された。それがきっかけで、本社の社員にも辻本さんは一目置かれる存在になった。
 
そして2010年、辻本さんは東京本社のマーケティング本部へ異動。配属はギフト事業部で、主にお中元やお歳暮の企画を手がける部署だった。しかし、儀礼的な習慣が消えつつあるなかでお中元やお歳暮の売上げは縮小傾向にあり、ギフト事業部では新しい展開を模索中だった。辻本さんの異動は、停滞した状況に風穴を空けることを期待してのものだった。
 
配属にあたってギフト事業部の部長からは、「自分らしい視点で新しくできることがあったらやってみたらいいよ」と、九州支社時代の実績を見込まれてハッパをかけられた。そこで辻本さんは、「自分だったらギフトに何を贈るだろう?」と考えるところから始めたという。
 
「お中元やお歳暮用の商品を購入してくださるボリュームゾーンは、五十代から七十代の女性です。でも、部長の『自分らしい視点で』という言葉を自分なりに解釈すると、従来のギフト事業部がターゲットとしてきた層以外に働きかける商品が求められているのかな、と思って。自分がモノを贈った経験を振り返ってみると、友達へのプレゼントや母の日のギフトには、お菓子を選ぶことが多いと思い当たりました。そこで、お中元やお歳暮の習慣はないけれど手頃なギフトのニーズを感じている二十代から三十代の女性をターゲットに、お菓子を提案しようと決めました」
 
そして、カゴメは「トマト」のイメージが強い企業である。特に辻本さんがギフト事業部に配属された2010年代前半は、トマトのおいしさや楽しさを新発見・再発見して消費者に届けることを目指す『トマト・ディスカバリーズ』の名の元に、新しいトマト商品の開発にも追い風が吹いていた。トマトはキャラクターとしても、「まるく」「小さく」「あまく」可愛いので、お菓子にはぴったりだと思った。
 
そこで考えたアイデアが、トマトを素材に使ったクッキーの企画だった。クッキーであれば、プレゼントとして持っていた先で、すぐに食べてもらえると考えたからだ。トマトをベースに、チーズやバジル、変わったところではチョコレートなどを組み合わせ、「お茶菓子としてだけでなくワインのおつまみにもできるクッキー」というコンセプトを決めた。「野菜ジュースや食品とは違う形で、お客さまに野菜の新しい楽しみ方を提案したいと思いました」と辻本さんは説明する。
 
 
 

辻本 美紀(Tujimoto Miki)

カゴメ株式会社東京支社家庭用営業三部一課主任。2005年入社。九州支店での営業職を経て2010年にギフト事業部配属となり、カゴメ創業以来初の焼き菓子『トマッティーニ』の開発を手がける。2015年より東京支社営業三部一課でeコマースの営業に携わり、Amazonとの共同プロジェクトを実施。


カゴメ株式会社
1899年創業。トマトなど野菜の恵みを活かした飲料や食品を提供し、消費者の健康に貢献する食品メーカー。近年は“「トマトの会社」から「野菜の会社」に”というブランドステートメントを掲げ、生鮮野菜やジュース、調味料、冷凍素材、サプリメントなど野菜を手軽に摂取できる商品や、野菜に関する健康情報を提供している。

文/横堀夏代 撮影/荒川潤
PAGE TOP