仕事のプロ

2018.03.05

メンズキッチンが証明する料理とビジネスの相関性〈前編〉

「男性」をターゲットにしたビジネス展開で差別化

段取り力、柔軟性、コミュニケーション力。いずれもビジネスパーソンに必須のスキルだが、実は料理をするという行動は、職場以外でこれらの力を同時に、無理なく磨く絶好のチャンスだという。男性向け料理教室「メンズキッチン」を主宰し、のべ4000人の男性に料理指導を行ってきた福本陽子さんは、起業当初から料理とビジネススキルの関連性に着目。そのうえで、「料理上手な男性は例外なく仕事もできる」と主張する。そこで前編では、まずは「男子料理教室」というコンセプトの源泉となった福本さんの想いや、発想の拡げ方についてお聞きした。

ビジネスマンの興味に訴える内容で
リピーターを増やす

では、ほかの料理教室とメンズキッチンの違いはどこにあるのか。福本さんは、「料理の作り方を教えるのはもちろんですが、メンズキッチンでより重視しているのは、料理の楽しさを発信することです」と語る。楽しさを感じるポイントは人それぞれだが、福本さんは試行錯誤しながら、多くの男性参加者の心をつかむ雰囲気や語りかけ、メニュー構成を探り当てていった。

「男性は接待などで外食経験が豊富な人も多いので、『話題のレストランや旅先での味を自分で再現してみよう』というコンセプトを打ち出しています」

実際、2018年1月の教室では、「台湾料理」というテーマで、ルーロー飯(豚バラ肉の煮込みをかけたご飯もの)や大根餅、豆腐を使ったスイーツを作った。参加者が料理を始める前には福本さんがデモンストレーションを行うが、このときのトークも特徴的だ。作り方の説明だけでなく、食材の流通事情や時事ネタまで、さまざまな話題を盛り込みながら料理の手順を説明していく。この日も、「普段は同じ値段でももっと大きい大根が買えるんですが、今は野菜の価格が高騰中で......」と、物流の話題と絡めて大根餅の作り方説明が行われた。

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「前職のマーケティング会社勤務時代から、私は物事を多面的にとらえようと心がけてきました。その考え方を活かして、例えば鰺を使った料理の説明をするにしても、その魚の旬や身体の構造、流通や気候変動......などさまざまな面から説明します。ですから1回の料理教室にあたっては、幅広い話題を準備して臨んでいます。参加者の方にとっても、例えば物流と料理という、今まで無関係だと思っていたものが頭の中で結びつくと、一気に面白さを感じるようです」

メニュー選びからデモンストレーション時のトークまで、すべてにビジネスパーソンに訴えかける要素を盛り込んでいる。メンズキッチン人気の秘訣は、徹底したビジネスパーソン目線にあることがうかがえる。



「男子料理」が求められる時代の
空気も後押しに

福本さんが事業を続けるモチベーションは、やはり参加者のリアクションだという。また、参加者本人ではなく家族から、「今までは出された料理を食べるだけだった彼が、『料理の大変さがわかった、ありがとう』と言ってくれました」と感謝のメールが届いたこともある。起業前から「女性の幸せに寄与したい」というテーマを持っていただけに、女性からのリアクションには喜びを感じるという。

近年は食育など食にまつわる多様なイベントなども手がける福本さん。さまざまなオファーを受けて仕事をしていくなかで、男子料理という概念が急速に進化しているのを感じるそうだ。

「最近、新米のママパパに向けて離乳食づくりを指導するイベントに携わりました。『男子料理をコミュニケーションのきっかけに』といった流れが世の中に浸透し、多くの男性が料理をはじめ家事に参画することが求められる方向へと社会が変わってきたのを実感しました。私もこの流れを加速させる仕掛けを考える一方で、抵抗を感じずに料理を楽しむ男性を増やしていければと考えています」

「女性の幸せに貢献したい」という当初からの想いと、「男子料理」という切り口。さらに福本さんが持つマーケッターならではの多面型思考によって、メンズキッチンは唯一無二のビジネスモデルとして成功したのだ。

後編では、料理スキルとビジネススキルの相関性や、料理を研修の手法として取り入れる企業の動きを紹介していこう。

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福本 陽子(Fukumoto Yoko)

男子料理研究家・トータルフードプロデューサー。旅行会社、マーケティング会社での勤務を経て、2010年に男性向け料理教室「メンズキッチン」を立ち上げる。20代から70代までの幅広い男性から支持を受け、教室は毎回キャンセル待ちが出る人気ぶり。「料理とビジネス」の関係に着目する視点の鋭さが注目され、各企業内研修の一環として行う料理教室も話題に。その他、イベントや講演会などにも力を入れている。著書に『料理ができる男は無敵である』(サンマーク出版)がある。

文/横堀夏代 写真/ヤマグチイッキ