仕事のプロ

2018.01.29

起業家メソッドを学習できる「エフェクチュエーション」とは?〈前編〉

社内イノベーターも必見!世界的な広がりを見せる新理論

今、アントレプレナーシップ研究において注目されているのが、「エフェクチュエーション」という起業家の思考様式だ。日本では耳慣れない言葉だが、現在、世界で350を超える大学がテキストに採用し、経営学のトップジャーナルや学会で多く議論されているテーマなのだ。企業内で働くビジネスパーソンであっても、新規事業開発を検討するなどイノベーティブなアイデアが求められる際に、優れた起業家が用いる理論が役に立つはず。そこで、この理論を体系付けた学術書『エフェクチュエーション―市場創造の実効理論』(サラス・サラシバシー著/碩学舎)の訳者の1人である立命館大学経営学部の吉田満梨准教授にお話を伺った。

イノベーションを生み出す理論、
「エフェクチュエーション」とは何なのか

 
「エフェクチュエーション」とは、一言でいえば「優れた起業家が用いる意思決定の理論」のこと。つまり、起業家の中でも特に連続して何度も新しい事業を立ち上げている優れた起業家には共通の思考プロセスがあり、それを抽出したものを「エフェクチュエーション」という。これは、ノーベル経済学賞を受賞したハーバート・サイモン教授の弟子であるインド人経営学者、サラス・サラスバシーによって体系化されたもので、サラスは2008年に『エフェクチュエーション−市場創造の実効理論』を発表。日本では2年前の2015年に訳書が発刊されたばかりでまだ認知度は低いが、アントレナーシップ研究の新たな潮流として、今後、さらに拡がりを見せるものと予想されている。
 
このエフェクチュエーションはどのように発見・体系化されたのだろう。吉田准教授は以下のように説明する。
「サラスの師であるハーバート・サイモン教授は『人工知能の父』と呼ばれた経済学者。サラスはこの人工知能をつくり出す方法を使って、起業家の分析ができないかと考えたわけです。例えば、チェスのAIをつくろうとしたときはチェスのエキスパートの技を取り入れるように、サラスは27人の“エキスパート”の起業家(1つ以上の企業を創業し、創業者としてフルタイムで10年以上働き、最低でも1社を株式公開した人物)の思考様式を分析し、パターン化することに成功したのです」
 
 

優れた起業家には、
共通する思考プロセスがあった

ここ10年、経営学のトップジャーナルでエフェクチュエーションを引用する論文は300本近くにのぼる。これほどまでに注目された理由を吉田准教授は「初めて起業家の明確な思考パターンを抽出したものだから」と指摘する。
「これまでも起業家研究は活発に議論されてきましたが、実りある成果は得られていませんでした。近年では「起業家的志向性」のような新しい概念も注目されていますが、かつて優れた起業家の特徴については、生まれ持った気質や性格、環境、時代背景などによって説明されることが多く、一般化することが難しかったのです。資質面での特徴がわかったところで、誰もが真似できるわけではなく、今後、新しい事業を展開しようとする人たちにとって何の役にも立たない。サラサはその課題意識を持って研究に取り組んだところ、産業・地域・時代に関わらず、優れた起業家は共通の理論や思考プロセスを活用していることを発見・体系化したのです」
 
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「また、起業家の意思決定理論を体系づけたことで、エフェクチュエーションは『学習可能』だということも学会の関心を惹きました。つまり、小学生が理科を通して『科学とは何か』を学ぶように、起業家精神も学ぶことができるのです。これまで『私は起業家タイプではない』『明確なアイデアがない』『十分な資金がない』といった理由で、イノベーションに着手できなかった人たちに対し、風穴を開ける理論なのです」
 
では、優れた起業家はどんな思考プロセスをしているのだろうか。エフェクチュエーションを構成する4つの原則と1つの世界観について吉田准教授に説明していただこう。
 
 
 

吉田 満梨(Yoshida Mari)

立命館大学経営学部准教授。神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了、首都大学東京都市教養学部経営学系助教を経て、2010年より現職。専門は、マーケティング論で、特に新しい製品市場の形成プロセスに関心を持つ。主要著書に、『ビジネス三國志』(共著、プレジデント社)、『マーケティング・リフレーミング』(共著、有斐閣)、訳書に『エフェクチュエーション:市場創造の実効理論』(碩学舎)など。

文/若尾礼子 撮影/出合浩介
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