仕事のプロ

2018.01.22

インクルーシブデザインの視点から見たダイバーシティとは?〈後編〉

求められるのは、個を活かすファシリテータータイプのリーダー

前編では、本質を誤解したままダイバーシティに対応せざるを得ない日本企業の現状を紹介し、インクルーシブデザインを専門にする京都大学総合博物館の塩瀬准教授にそこで表出している問題を指摘してもらった。では、ダイバーシティの概念を日々の事業活動にどのように取り入れていけばよいのか。インクルーシブデザインの視点がそのヒントになりそうだ。

一人ひとりと
向き合うためのIoT化を

近年、塩瀬氏は、プロダクト、サービスだけでなくワークプレイス自体にインクルーシブデザインの考え方を持ち込んだインクルーシブワークプレイスやインクルーシブファクトリーのデザインを提唱している。

「働く人、それぞれの思いや考えを尊重した働き場所でありながら、仕事もうまく回っていく仕組みをつくっていくことができれば理想」と塩瀬氏は話す。

「それを可能にするために働く場所のデザインも含めて変えていけば、働く人の個性がより活かされ、それだけ新しいアイデアが生まれる素地もでき上がっていくことになります」と、場の重要性に言及する。

働く人それぞれの多様性を尊重して個性を伸ばしていくマネジメントを実践するには、マネージャーが一人ひとりとじっくり向き合う時間が必要だ。

「リーダーがその時間を割けるように、IoTを活用することによって多様なメンバー一人ひとりの個性や能力に対してきめ細かく対応したり、一人ひとりのその日の調子や体調変化を本人もまわりも把握したりすることもできるはず。今までは椅子に座っている時間の長さで仕事のパフォーマンスを判断していましたが、多様さ複雑さに向き合う技術が手に入った今こそ、働き方改革にIoTを活用していくべきではないか」と説く。

真のダイバーシティを実現し、「できなくさせられている」ことを「できるようにする」に変える試みが日本企業にブレークスルーを生みだす可能性を秘めている。


塩瀬 隆之(Shiose Takayuki)

京都大学総合博物館准教授。京都大学工学部精密工学科卒業、同大学院修了。京都大学総合博物館准教授を経て2012年 7月より経済産業省産業技術環境局課長補佐(技術戦略担当)。14年7月京都大学総合博物館准教授に復職。共著書に「インクルーシブデザイン」など。日本科学未来館「“おや?“っこひろば」の総合監修者、NHK Eテレ「カガクノミカタ」の番組制作委員なども務める。

文/山口裕史 撮影/出合浩介