仕事のプロ

2018.01.15

インクルーシブデザインの視点から捉えたダイバーシティとは?〈前編〉

一人ひとりの多様な個性を伸ばすために

多様な特性を持つ人がデザインプロセスに加わることで、社会の革新(イノベーション)を目指すデザイン手法、それがインクルーシブデザインだ。インクルーシブデザインを企業における商品開発や小中高生のキャリア教育にも採り入れている京都大学総合博物館の塩瀬隆之准教授に、インクルーシブデザインの視点から捉えたダイバーシティの現状と可能性について話を聞いた。

いずれ企業にもやってくる
大学の課題

置き去りにされたままの意識とは裏腹に、現場ではダイバーシティに対応せざるを得ない状況にいやおうなく直面している。先に塩瀬氏が言及した障害者差別解消法への対応もしかり。そして、塩瀬氏は大学で先鋭的に現れている事象はいずれそうした大学生たちが社会に出た時に企業が直面することになるという視点からいくつかの事例を提示する。

「大学の中には学生の多くを留学生が占める大学もあります。そして、留学生比率が高くなるにつれて顕在化してくる課題の一つにLGBTQ(レズ、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーをはじめとする性的マイノリティ)への対応があります。留学生にLGBTQが多いということではありませんが、一般的に海外の学生は日本の学生よりも自己主張をしっかりとすることが多く、自身の性についてもカミングアウトする傾向があるため、たとえば、ジェンダーフリーのトイレをどうするかという日本ではまだまだ対応が遅れている課題に向き合う必要性が大学に生じています」

「また、本人確認の点でも課題が浮き彫りになりつつあります。たとえば、在学中に性転換した学生の学生証変更に証明書が必要かどうかとか、社会人になってから性転換した卒業生は戸籍の名前も顔も変わっていて、なにをもって本人確認をして学籍証明を出せばよいのかと、判断を迫られるケースも出てきているそうです」と、企業へ今後の心構えを呼びかける。近い将来には、学習履歴の証明にブロックチェーンなどの履歴保証技術を駆使する必要がでてくるかもしれません。

前編では、ダイバーシティの推進が求められながら、日本人、また日本の会社組織が持つ特性ゆえ対応が遅れている現状を明らかにした。後編では、インクルーシブデザインの視点をダイバーシティに応用していくためのアプローチについて触れる。


塩瀬 隆之(Shiose Takayuki)

京都大学総合博物館准教授。京都大学工学部精密工学科卒業、同大学院修了。京都大学総合博物館准教授を経て2012年 7月より経済産業省産業技術環境局課長補佐(技術戦略担当)。14年7月京都大学総合博物館准教授に復職。共著書に「インクルーシブデザイン」など。日本科学未来館「“おや?“っこひろば」の総合監修者、NHK Eテレ「カガクノミカタ」の番組制作委員なども務める。

文/山口裕史 撮影/出合浩介