組織の力

2017.10.23

イノベーションを起こし続ける、研究者集団リバネス〈前編〉

『人と違うことが価値』の組織マネジメントと人材育成

大学や企業などから知識を集め、分野や業種の枠を越えてコミュニケーションを行うことで新たな知識を生み出す「知識プラットフォーム」を構築し、世の中にない新たなプロジェクトを立ち上げている株式会社リバネス。新規事業の立ち上げなどに取り組むも、思うように進まず苦労している企業が多い中、同社は次々とイノベーションを創出している。リバネスの代表取締役CEOの丸幸弘氏に、社内にイノベーションを起こす考え方やリバネス独自の社員教育法などについてお聞きした。

同じ志を持った研究者が集まれば、
きっと何かが起こせる

社員のほぼ全員が修士、博士号を取得している研究者(科学者)集団の『リバネス』という会社をご存じだろうか。世界で初めてミドリムシの屋外大量培養に成功し、東証一部上場を果たした株式会社ユーグレナをはじめ、日本初の個人向け大規模遺伝子解析サービスを展開している株式会社ジーンクエストなど、数々のベンチャー企業の立ち上げに携わってきた。また、日本サブウェイ株式会社と連携し、店産店消型(野菜を店舗で生産し、店舗で消費する)という新しい植物工場のモデルを企画、導入し、最先端のサイエンスを子どもたちにわかりやすく伝える出前実験教室を年間300回以上も行ってきた。
 
こうしたさまざまなプロジェクトを仕掛け、実現しているのがリバネスである。
「多くの大学や企業と連携して、知識を集め、コミュニケーションを行うことで新しい知識とアイデアを生み出す日本最大の『知識プラットフォーム』を構築してきました」と話すのは、リバネス代表取締役のCEO丸幸弘氏。
 
リバネスを立ち上げた理由を尋ねると、
「2002年、僕が修士課程2年生のときです。『科学技術の発展と地球貢献を実現する』という壮大なテーマに対して、僕たち研究者はいったい何ができるのか? という問いを持ち、東京大学の研究室の片隅で、仲間とディスカッションしたことが始まりです。研究者ばかりで集まったので事業計画書のつくり方は全く分かりません。でも、同じ志を持った研究者が集まれば、何かが起こせるという自信はありました」と力強く話してくれた。
 
「当時から、博士号まで取得した人が社会で活躍できていないポスドク(ポストドクター)問題や、子どもの理科離れなどの課題が山積。それによって、研究者と一般の人々との間で、科学に関する知識や認知度の『格差』がますます拡がり、最先端の科学を使ったビジネスが成り立たなくなってしまうという危機感もありました。だから松下幸之助氏や本田宗一郎氏などが活躍していたような、サイエンスやテクノロジーで世界を変えていく時代をもう一度復活させたい。そのために研究者たちが活躍できる場をつくろうと、リバネスを立ち上げたのです」
リバネスとは、「Leave a nest(リーブ・ア・ネスト)」=巣立つ、の略語。研究者たちが巣立つ場を提供したいという思いが社名にも込められている。
 
 

イノベーションを生み出す、
独自の仕組み『QPMIサイクル』

事業計画書もないところからスタートしたリバネスだが、実際は先にも紹介したユーグレナやジーンクエストのようにさまざまなプロジェクトの事業化をサポートし、次々と新たなビジネスモデルを創り上げてきた。いかにしてそれを成し得たのだろうか。
 
「研究者って、とてもピュアなんです。それに、『人と違うことが価値』と考えるので、一般の人には思いつかないような面白い発想ができるんです。そこで、彼らの「違い」を評価し伸ばせるような環境を整えていきました。たとえば、一般企業なら、新規ビジネスを始める際には、『市場規模はどのくらいか』『マネタイズできるかどうか』、というのをまず考えると思いますが、リバネスではそれらは、二の次、三の次。まずは、『世界の課題を解決できる、世の中にない新しいサービスか』、『本気でやりたいか』が最優先。今はまだどこにも無いサービスだから、ビジネスモデルなんて簡単に描けないし、マネタイズ方法もわからなくてあたりまえ。でもそこから、どうすれば実現できるのか?って考えるとワクワクしませんか! それをみんなで考えるのが楽しいんです」
 
さらに、リバネスは社員誰もがイノベーションの種をつくれるように『QPMIサイクル』という独自の考え方を導入している。Qは「Question(課題)」でさまざまな事象から課題を見出し、Pは「Person(個人)・Passion(情熱)」で個人が課題解決に対して情熱を傾け、Mの「Member(仲間)・Mission(目的)」では信頼できる仲間たちと共有できる目的に変え、取り組んでいく。そして、あきらめずにチームで試行錯誤を繰り返していけば、Iの「Innovation(革新)」でイノベーションの種(新たな価値)を創出することができるのだ。
 
一般的によく使われているPDCAサイクルとの違いについて、丸氏が説明してくれた。
「PDCAサイクルは既存事業を拡大し、成長を図るうえでは有効な考え方です。でもイノベーションを起こしたり、全く新しい事業を生み出したりすることはできません。0から1を生み出すためには、個人が自分の課題を設計することから始める『QPMIサイクル』が非常に有効なんです」
『QPMI』ではなく『QPMIサイクル』と呼ぶのは、一度イノベーションの種ができた後も、また新たな課題(Question)が見つかって、その解決のためにまた動いていくからだという。そして、この『QPMIサイクル』を回し続けた先に、イノベーションが起こった世界が見えてくるのだ。
 
 
 

丸 幸弘(Maru Yukihiro)

株式会社リバネス 代表取締役CEO。東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了。博士(農学)。2002年に理工学大学生・大学院生のみでリバネスを設立し、日本で初めて最先端科学の出前実験教室をビジネス化した。世界から研究者の知を集めるインフラ「知識プラットフォーム」を通じて、200以上のプロジェクトを進行させる。創業からユーグレナ社の技術顧問をつとめ、30社以上のベンチャー企業の立ち上げに携わる。経済産業省とNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)から認定を受けているリアルテックファンドの共同代表も務める。著者には『世界を変えるビジネスは、たった1人の「熱」から生まれる。』(日本実業出版社)、『「勘違いする力」が世界を変える』(リバネス出版)がある。最新刊は、『ミライを変えるモノづくりベンチャーのはじめ方』(実務教育出版)。

文/西谷忠和 撮影/ヤマグチイッキ
PAGE TOP